第2話『清楚配信者、止めたのに止まってない』
「お、おい! 離れろって言ってるだろ!」
「いーやー! あんた、すごくいい匂いする!」
ホワイトアウトした世界の中で、俺はサキュバスと格闘していた。
彼女は諦めが悪い。
【露出耐性S】の効果で、誘惑も精気吸収(状態異常)も通らない。なのに物理的な「ひっつき虫」としての性能が高すぎる。
視界は真っ白でも、腕に伝わる情報は逃げ場がない。
暴れる体重。まとわりつく体温。息の熱。
放置すれば、またセーフティちゃんの稼働率が限界に近づく。
「くっ……これならどうだ!」
俺は重心を崩し、背後を取ってチョークスリーパーの体勢に入った。
頸動脈を絞める。もちろん落とす気はない。大人しくさせるための制圧だ。
「んぐっ……!?」
「よし。このまま拘束する。……落ち着け」
数秒後、サキュバスの力が抜けた。
俺は慎重にロックを解き、距離を取る。
――そこでようやく、周囲の状況を確認する余裕ができた。
ドローンカメラのインジケーターは消えている。配信は止まっている……はずだ。
だが。
【SAFETY-CHAN LOG】
〔検出:配信停止状態/二次拡散リスク〕→〔処理:自動録画・クリップ生成プロセス監視〕
〔危険判定:YELLOW〕
〔稼働率:41%〕
〔備考:セーフティちゃんは安全処理を継続します〕
「……嫌なログだな」
そして、それ以上に深刻なのが――目の前にいる彼女だ。
天宮あかり。
日本トップクラスの清楚系配信者が、真っ青な顔で俺を見ていた。
彼女の手にあるタブレット端末が小刻みに震えている。
「あ、あの……」
「すまない。怪我はないか? 俺の不手際だ」
俺は(物理的には無装備だが)最大限の誠意を込めて頭を下げた。
有名配信者の撮影を邪魔した上に、危険判定が赤くなるような映像を流してしまった。全面的に俺が悪い。
「い、いえ、怪我は……それより、あなたは……?」
「俺は久我迅。ただのソロ攻略者だ」
「久我……さん。あの、今すぐ確認してください」
あかりが端末を差し出してくる。
画面には、DungeonTubeのトレンドランキング。
【トレンド1位:あかりch放送事故】
【トレンド2位:謎の全裸マン】
【トレンド3位:セーフティちゃん過労】
「……は?」
配信停止から、まだ数分しか経っていないはずだ。
「これ、見てください」
あかりが震える指で再生したのは、自動生成された「切り抜き動画」だった。
『きゃあああっ!?』
『すまん! すぐにどかす!』
俺とサキュバスが転がり込んできた瞬間。
俺が関節技を決め、ホワイトアウトするまでの数秒間。
それが完璧な画角で切り取られ、ループ再生されている。
そしてコメント欄。
【コメント】
:これ“入ってるように見える”だろ
:いや入ってない。技のキレを見ろ
:全裸なのに強すぎて草
:あかりちゃんの悲鳴助かる
:運営に通報したわ
:セーフティちゃんの処理早すぎw
再生数はすでに120万回を超えていた。
「拡散が……止まりません」
あかりの声が震えている。
彼女にとって「清楚」はブランドだ。こんな事故動画、致命傷になりかねない。
「運営削除申請は?」
「しました。でも、拡散のスピードが早すぎて……海外のサーバーにも転載されてます」
デジタルタトゥー。
一度ネットに放流されたデータは、簡単には消えない。
「……私のチャンネル、BANされるかもしれません」
あかりがうつむく。肩が小さく震えていた。
彼女の努力を、俺がぶち壊したのか?
――いや、待て。
俺は深呼吸して、思考を切り替えた。
こういう時に感情で動くと、余計に燃える。攻略者として、まず“状況”を分解する。
「天宮さん。……映像を、よく見てくれ」
俺は動画の一点を指差した。
「ここだ。ホワイトアウトする直前の、0.1秒」
「え……?」
「【謎の光】と【セーフティちゃん】の処理が噛み合ってる。……規約違反になる情報は、映像として残ってない」
俺のスキルと、検閲AIの連携。
それだけが唯一の救いだ。
「確かに……言われてみれば、際どいけど……見えてはいません」
「ああ。つまり、これは『放送事故』に“見える”。でも規約上は、現時点で“即アウト”ではない」
俺は断言した。
事実、俺のアカウントにBAN通知は来ていない。
来ていたのは――。
【通知:運営より重要なお知らせ(警告)】
【件名:配信健全化に向けた面談のご案内】
【対象:久我迅 様/天宮あかり 様】
「……お呼び出しですね」
「ああ。呼び出しだ」
あかりが涙目で俺を見る。
「久我さん……責任、取ってくださいね?」
「責任?」
「はい。このままじゃ私、ただの『放送事故の人』で終わっちゃいます。……ちゃんと説明してください。あなたが“危ない人”じゃなくて、ちゃんとした攻略者だってこと」
縋るような声音なのに、目だけは真っ直ぐだった。
逃げれば燃える。隠せば余計に怪しまれる。
なら――。
「分かった。説明しよう」
俺は覚悟を決めた。
無装備のまま、真顔で。
「俺の“最適解”を、運営と世界に認めさせる」
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(作者あとがき)
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次回、運営面談で“安全運用ルール”が確定します。
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