第3話『運営面談:遅延必須。危険判定3回で自動停止』
数時間後。
俺は天宮あかりと共に、DungeonTube運営とのオンライン面談に臨んでいた。
場所は、ダンジョン入口にある会議用個室だ。
モニター越しに現れたのは、運営管理AIの担当アバター(無機質な幾何学模様)だった。
『――久我迅様。天宮あかり様。まずは今回の件について、運営としての見解をお伝えします』
合成音声が淡々と響く。
あかりが緊張で膝を握りしめているのが分かった。
俺は、無装備(タオル一枚は巻いているが)のまま、背筋を伸ばして待つ。
『結論から申し上げますと、アカウント停止(BAN)は見送ります』
「……!」
あかりが小さく息を飲んだ。
『理由は二点。一つは、映像上の規約違反に該当し得る領域が、久我様のスキル【謎の光】および当プラットフォームの検閲AIにより、遮蔽されていたこと』
『もう一つは、久我様の行動が「攻略の一環(防衛行動)」であり、意図的に不適切な映像を発生させる目的とは認められないこと』
助かった。
少なくとも、あの関節技は「攻略」として扱われたらしい。
『ただし』
AIの声のトーンが一段落ちる。
『今回の映像が“極めて際どく見えた”こと、視聴者に誤解と不安を与えたことは重く受け止めています。よって、今後の配信活動において、久我様には以下の【特別安全運用ルール】を遵守していただきます』
画面に条文が表示された。
【特別安全運用ルール(久我迅・専用)】
1.配信遅延(ディレイ)常時設定:最低30秒
2.検閲AI「セーフティちゃん」強化プロファイルの常時適用
3.危険判定RED(遮蔽処理:強)が配信中に「3回」発生した場合、配信を即時強制停止(運営による事後審査対象)
4.【稼働率メーター】の画面常時表示
「……稼働率メーター?」
『はい。視聴者に対し「安全処理が働いていること」を可視化するためです。また、セーフティちゃんの処理負荷をリアルタイムで監視します』
つまり、俺の配信画面には常に「今どれくらい危ないか」が表示されるわけだ。
公開処刑に近いが、BANされるよりはマシだ。
「分かりました。その条件で、配信許可をいただけますか」
『はい』
一拍置いて、AIは言葉を続けた。
『ただし、久我様。あなたの【最適解】が視聴者に理解される保証はありません。それでも実施しますか?』
「やります」
俺は即答した。
誤解されたまま終わるのは御免だ。それに、俺のスタイルが“間違いではない”と証明したい。
『……承知しました。では、設定を反映します』
通話が切れた。
張り詰めていた空気が緩む。
「よかった……停止じゃなくて……」
あかりが深く息を吐き、へたり込んだ。
「ありがとう、天宮さん。君が運営に掛け合ってくれたおかげだ」
「いえ、私も自分のためですから。……でも、久我さん。これからが大変ですよ?」
彼女は真剣な眼差しで俺を見た。
「あのルール、かなり厳しいです。危険判定3回で強制停止なんて、普通の配信じゃありえません」
「ああ。だからこそ、証明しがいがある」
俺は立ち上がった。
「俺はふざけてない。攻略として成立していることを、今夜の初配信で証明する」
「……分かりました。私も、手伝います」
「え?」
「私が“相棒(サポート)”として裏方に入ります。モデレーター権限でコメントを整理したり、セーフティちゃんの挙動をチェックしたり……一人じゃ無理ですよ、あの条件は」
あかりの申し出は意外だった。
一度燃やされた相手だ。関わりたくないのが普通だろう。
「いいのか? また飛び火するかもしれないぞ」
「だからこそです。私が“管理してる”って形にすれば、視聴者も少しは安心します」
少しだけ間を置いて、彼女は頬を染め、小さく付け足す。
「……それに、あの時の久我さんの動き。攻略として、凄かったので。ちゃんと見たい気持ちも、あります」
――こうして、俺と彼女の奇妙な共犯関係が成立した。
◇
その夜。
俺は自宅ダンジョンの配信ルームで、カメラの前に立った。
もちろん、無装備だ。
画面の端には、新しいUIが表示されている。
【SAFETY-CHAN 稼働率:1%(スタンバイ)】
【危険判定残機:3】
【配信遅延:30秒】
待機所の同接は、すでに異常な数字になっていた。
【待機同接:214,500人】
野次馬、アンチ、そしてあかりのファン。
全員が、俺の「事故」を期待している。
「……よし。行くぞ」
俺は開始ボタンを押した。
世界へ向けて、無装備の弁明が始まる。
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(作者あとがき)
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次回、初配信でコメント欄が地獄になります(危険判定残機:3)。
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