運命を紡ぐ合言葉 ~二十年前に死んだ幼馴染が、十九歳の新人として「遅くなってごめん」と言いに来た~

雨月 揺

第一章:灰色の世界、終わりの始まり

"人生は一度きり。だから後悔のないように生きよう"


 聞き飽きた台詞だ。そんなことが可能なら、誰も夜中に一人で泣いたりしない。  もし明日、突然の事故で死ぬことになったら、私は本当に悔いなく死ねるだろうか。


「後悔のない人生って……一体、なに……?」


 三十五歳になった私、初田楓はつたかえでは、暗い自室で自身の首に縄をかけながら、そんな答えの出ない問いを繰り返していた。鏡に映るのは、疲れ果て、生気を失った女の顔だ。親からは毎日のように結婚を急かされ、会社では部下の結婚報告を笑顔で祝福しなければならない。上司からは「独身だから仕事のミスをするんだ」と無神経、理不尽に詰められ、世界中から「お前の人生は不完全だ」と突きつけられているようだった。


 人生には、結婚という義務教育があるのだろうか。心から愛する人がいれば、それでいい。けれど、その愛する人が、もうこの世のどこにもいないのなら、私はどうすればいいというのか。


(別の誰かを愛せなんて……私には、できないよ)


 力なく首から縄を外す。死ぬ勇気さえ、今の私には残っていなかった。零れ落ちた涙が、床に染みを作る。


つむぐ……」


 呼んでも返ってこない名前を、私は二十年間、一度も忘れたことはなかった。

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