第18話 お試しで恋人同士

 ――キンコンカーンコーン。


「はーい、今日はここまででーす。次回するところを予習していてくださいね~」


 ほとんど内容が頭に入らず、もの凄く長く感じた四限目を終えると、助六がすぐに立ち上がったので、俺もすぐに立ち上がって話しかけた。


「助六! 話しが――」


 だが、助六は話しを聞こうとも止まることも、さらには俺は一瞥すらせずに、お弁当らしきものを持って教室を出て行ってしまった。


「あれ? 助六どうしたの? 何か思い詰めている感じだったけど……」


 あからさまに俺を無視した助六に、きゅぴはただならぬものを感じたらしい。


「ちょっとな……」


 だけど、経緯を説明するわけにはいかない。

 ……すでに友達を裏切ったようなものだが、助六がきゅぴのことが好きな気持ちを、軽はずみに俺が説明するわけにはいかなかった。


「そう、なんだ……」


 何かを察したのか、きゅぴはそれ以上聞いてこなかった。


「あ、お昼ご飯だけどどうする?」


 きゅぴは、かーさんから渡されたお弁当を持って言った。

 俺もかーさんから渡された同じお弁当を持っている。普段だったら、俺とるびぃと助六の三人でご飯を食べるのだが、助六はどこかへ行ってしまった。


「俺はるびぃと食べることになるかな……」

「……だ、だったら、あたしもいい?」

「もちろん良いけど、お前は昨日クラスメイトの女子達と食べてなかったか? そっちはいいのか?」


 と訊ねると、きゅぴを見ていると視界の外がうるさく感じたので見てみれば、


『どうぞどうぞ』

『二人で食べて』


 きゅぴ信者の女子達が、わちゃわちゃきゃぴきゃぴとジェスチャーでそんな感じのことを伝えているような気がする。


「いいみたいだよ」

「そうみたいだな……」


 それはいいや、今は助六の方が問題だし大事だ。

 こうなったら食事の時間を削ってでも助六を探しに行って……どうするんだ? 勢いで助六に話しかけようとしているけど、あいつになんて説明すればいいかわからない。


「蒼~? もしもーし?」


 きゅぴとの恋人関係はフリだから気にするなとでも言うか? でもそれは、きゅぴが本当にそのつもりだったならいいが、もし本当に俺と――、


「ぎゅっ」


 考えている最中に、きゅぴが俺の腕を掴み自身の大きな胸に引き込み挟んできた。


「おわっ、ど、どした……?」


 きゅぴが突然腕を組んできたけど、またかこれか!? 


「き、期待している羨望の目に勝てなくて……」


 向こうにいるきゅぴ信者の女子達を見れば、俺たちを見て何かはしゃいでいる。

 この見栄っ張りサキュバスめ。


「一応恋人同士ってことになっているだから、したくないならしなくていいんだぞ」


 ……フリであれ本当であれ、彼女達には恋人同士に見えている筈だからな。


「したくないわけじゃないよ、蒼なら別に……」


 恋する女の子みたいに頬を赤く染めた俯き加減で言うんじゃないよ。

 ……お前本気なのか? 本気で俺と付き合っているつもりなのか?


「ずいぶんと仲よさそうですね」


 冷えた声が聞こえたので振り返れば、いつの間にかるびぃが後ろに立っていた。ご丁寧にお弁当を持っている。いつも通り来てくれたようだ。


「おおっ、る、るびぃ……」

「あ、るびぃちゃん、やっほー」

「やっほーです、きゅぴさん、それに、にーさん……」


 何だが不機嫌そうなるびぃは、俺の腕を掴んでいるきゅぴの手というよりも、俺の腕を挟んでいる大きな胸を凝視しているように見える。


「また胸……いえ、今はそれどころじゃありませんでした」

「どした?」

「先ほど有助くんとすれ違ったのですが、私に気付きませんでした。普段、少しでも私と話せる機会があれば、無駄にしないのにおかしいです。何かありましたか?」


 るびぃに変な特徴で覚えられているが、ふざけている場合じゃない。


「実はちょっとな、だけど、ここでは話せない……」

「そうですか、わかりました。でしたらいつもの場所に行きましょう、あそこなら誰も来ないでしょうし、あと、きゅぴさんもですよね?」


 色々と理解力の早い妹で助かるよ。


「うん、あたしも一緒に食べる」


 と言うわけで俺たち三人は、いつもの昼食を食べる中庭へと行くのだった。


 ――――――。


「へぇ、蒼たちはいつもここで食べてるんだ」


 きゅぴと一緒に俺たちは、いつもの人通りがない外れにあるテーブルに到着すると、るびぃが定位置のベンチの席に座ったので、俺も同じように隣に座った。


「それじゃあ失礼しまーす」


 するときゅぴは、流れるような自然な形で俺の隣に座る。


「いやいやいや、何で隣に座るんだよ」


 三人が隣り合わせに座ったことで、対面には誰も座っていない配置となってしまった。


「え? 蒼の隣が空いていたから?」


 きゅぴはキョトンとしている天然で座ったみたいだ。確かに恋人同士っていうことになっているから、隣同士で座ることに違和感はないけど。


「空いてはいるけどさ、三人が隣合わせで座るってグルメ番組じゃないんだから」

「「グルメ番組?」」


 右と左からユニゾンで引っかかるんじゃないよ。


「蒼、何グルメ番組って?」

「テレビ番組だよ、美味しい食べ物を紹介するんだ」

「にーさん、何でグルメ番組って言ったんですか?」

「ほらグルメ番組って、タレントが隣同士で座って対面にカメラマンがいたりするだろ」

「テレビ番組? よくわかんないけど美味しい食べ物の紹介っていいね」

「もしかして、夢魔界にテレビってないのか?」

「ですがにーさん、今は別にカメラマンさんはいませんよ」

「いないけど、俺たちが並んで座っているのがグルメ番組みたいだろ……」

「わかんないけどたぶんないよ。蒼の家にはあるの?」

「あるぞ、俺はあんまり見ないけど、よく母さんが見てる……」

「隣同士で座っているからってグルメ番組を想起しないと思います」

「…………」

「そうなんだ、今度使い方教えてよ」

「…………」


 右から左からと質問してくる二人。右、左、右、左と、さすがに首が疲れた。


「蒼?」「にーさん?」


 俺は黙ったままお弁当を持って立ち上がると、座っていたベンチを後ろから離れて、そのまま回り込む形で、二人の対面に移動して座った。


「じゃああたしも蒼の彼女としてそっちに……」

「きゅぴはそっちにいてくれ、助六の話しならたぶんそっちにいた方がいいから……」


 俺の隣に座ろうと立ち上がったきゅぴを制して座らせた。


「そう? わかった……」


 よくわかっていない様子のきゅぴだが、助六が怒ってることに無関係ではない。本人は無自覚だが……いや、俺が流されてしまった結果か、俺の責任だな。

 それに――、


「きゅぴさん、にーさんが変に考え始めました。これを待っているとお昼ご飯を食べる時間がなくなりますので、私達は先に食べ始めましょう」

「ふふっ、それわかる、食べよ食べよ♪」


 助六がどうして怒っているか説明したいが、あいつがきゅぴのことを好きだったということを言わないで、何とか上手く誤魔化して説明出来ないものか。


「うわぁ~♪ 真珠さんのお弁当美味しそう、いただきまーす」

「いただきます」


 助六が怒っている理由は隠して説明してもいいが、それだとるびぃは納得しないだろうな。それに察しもいいから、怒っている理由に気付くかも知れない。


「あ、あたしと同じおかずだ」

「作っているのはお母さんですからね、ほぼ一緒だと思いますよ」


 そうなると、きゅぴにも連鎖的に気付かれてしまうか、


「そうなるぐらいなら、先にるびぃだけに言っておいた方が……」

「私に先に言うって何をですか?」

「え、ああ助六が――ん、何だお前ら先に食べてるのか?」


 ランチョンマットを広げて、二人は同じようなお弁当を広げて食べていた。


「だって蒼考える時間長いんだもん、ねぇ~?」


 隣のるびぃに首を傾けて、同調を誘おうとするきゅぴ。


「そうですね」


 それをすまし顔で答えるるびぃ。


「……るびぃちゃーん、ねぇ~?」


 返してくれないるびぃに拗ねたのか、きゅぴが追い打ちの『ねぇ~?』と繰り出すと、


「……ね、ねぇ~?」


 るびぃが折れたようだ。ぎこちなくも『ねぇ~?』と返している。

 ……たぶんるびぃは、普段かーさんの強引さに慣れているから、きゅぴの押しに対しても折れるのが早いのかも……あ、俺もとりあえず食べよ。


「いただきます」


 サッと開けてパッと食べ始める。うん、かーさんの弁当はやっぱり美味い。


「それで、私が何ですか?」

「え、あー……いや、なんでもないよ……」


 すぐに助六のことを話した方がいいだろうが、きゅぴがいる今じゃ話せない。


「にーさんが話さないのなら、私が訊いてもいいですか?」


 ……マズい、るびぃから助六のこと切り出されたら、答えないといけなくなってしまう。


「まっ――」

「にーさんときゅぴさんって、付き合っているんですか?」


 ………………。


「そ、そっち?」

「……何ですかそっちって?」


 助六のことではなかったが、そっちの問題があってあいつを怒らせたのだから、全く関係がないことはないか……で、何て答えよう、困ったな。


「どうしました?」


 ……というか、るびぃの様子がおかしいというか、妹の僅かな機微に気付いた。


「るびぃ、怒ってる?」

「……怒ってませんが?」


 嘘だあ……と思ったが口には出さない。顔には出ていたかも知れないが。


「るびぃちゃん、蒼を責めないであげて」

「別に責めていません。ただ、さっききゅぴさんが『蒼の彼女として』って言っていたのが気になったんですが……え、本当に付き合っているですか?」


 俺ときゅぴを顔を見合わせると、彼女は『任せて』とばかりに頷いた。


「蒼はあたしとの約束を守ってくれたの、あたしから説明するね、実は――」


 ――――――。


 ――きゅぴは、自身がえっちな経験がないのがバレるのが嫌で、俺にバレないように協力して欲しいとお願いしていたことを、るびぃに簡潔に伝えた――。


「……あの、さっきからえっちなことを××って誤魔化すのは必要なんですか?」


 きゅぴはえっちなことを××と言ったりして説明していた。


「まあ、ケースバイケースでお願いします……」


 るびぃはため息一つはいて、渋々納得したと思う。


「とにかく、クラスメイトに経験豊富が嘘、つまりはえっちな経験がないのがバレるのが嫌というのは、見栄っ張りというか、まあ、百歩譲って飲み込むとして――」

「飲み込むんだ?」


 めんどくさくて自己中な見栄っ張りなわがままだぞ。


「私にはわからない見栄ではありますが……」


 ジロッと隣を見つめるるびぃの視線に、きゅぴは『あはは……』と笑う、


「み、見栄っ張りでごめんなさい……」

「きゅぴさんのいた夢魔界では、えっちな経験がないサキュバスは、非常に馬鹿にされると聞いていたので、きゅぴさんにとってはツラいことなのでしょう……」

「そうなのっ! ほんとにあいつだけは絶対に許さないっ!」


 昨日も言っていた気がする。きゅぴをこんな見栄っ張りにさせるほどの、トラウマを与えた相手ってのは、いったい誰なんだろうか?


「ですので、見栄に関してはいいです。私が聞きたいのは、どうして見栄を張るために、にーさんと彼氏彼女の関係になったんですか?」


 きゅぴに追求の目を向けてから、るびぃは俺にも厳しい目を向けてきた。たぶん、きゅぴが誤魔化しても、俺を逃がさないと言っている気がする。


「それは……えっと、勢いというか、その……成り行きで?」

「具体的には?」


 るびぃの緊張感というか、絶対に逃がさない感じがして……ちょっと怖い。


「あ、あたしを慕ってくれる女子達が『彼氏作らないんですか?』って話しになって、『もちろん作る』みたいな話しになった時に、蒼と目が合ったから……かな?」

「だとしたら、別に今すぐにいなくてもいいのでは? 咄嗟ににーさんを彼氏になってもらう必要はなかったのではありませんか?」

「そ、それはそうなんだけど……で、でもでもっ! いつかは彼氏が出来ないとマズいじゃない? だ、だったら早いか遅いかの違いしかないかな~と、あたしは思います!」


 最後に力強く言い放ったきゅぴ。妙に納得出来る理由ではあるけど、テキトーに話している内に、説得力があることに気付いたような、そんな感じがしたけどな。


「つまり、いつかはにーさんに彼氏になってもらっていたと?」


 るびぃの鋭く光る追求の目がきゅぴを捉えた。


「あたしが頼れる男の人は蒼しかいないから、たぶん……」


 嬉しいような、恥ずかしいような、いやあ照れ、


「(ジロリ)」


 ないな、そんなこたぁないよ、妹の目が、怖い、目の置き場に困るな……。


「まあ、そうでしょうね、いいでしょう」


 緊張の糸が緩んだ、るびぃも納得したみたい――、


「……では最後に、きゅぴさんは本当に、にーさんと恋人同士として付き合っているんですか? それとも、あくまで誤魔化してもらっただけの恋人のフリですか?」


 ……それは、俺も知りたかったことだ。


「蒼には、あたしの見栄に無理矢理付き合わせちゃったからね……それぐらいの自覚はあるよ。だから、あたしは恋人のフリのつもりだよ……」


 俯き声がか細くなりながらも、きゅぴは恋人のフリだと言った。

 ……そっか、そうだよな、見栄のために協力なら、本当に付き合う必要ないし、そもそもきゅぴが俺を頼るのって、俺が安心出来るから言っていたしな。


「にーさん、どこか残念そうですね?」

「そ、そんなことねぇよ、もぐもぐっ……」


 表情を見られたくなくて、お弁当箱を掴むと顔を隠すように口へとかき込んだ。


「え、蒼は……」


 名前を呼ばれたような気がしてお弁当箱から顔を上げると、何かを決心したような真っ直ぐな目をした、るびぃと目が合った。


「これは私からの提案なのですが、にーさんときゅぴさんは、恋人のフリではなく、実際に恋人として付き合ってみてはいかかですか?」

「へ?」「え?」


 思わぬ提案に、俺ときゅぴは口をポカンと開けて固まった。


「にーさんは今、きゅぴさんの見栄のせいで、えっちな経験がないことがバレないように協力するという変な方向に向かってますが、元々の目的は『きゅぴさんが生気を吸収出来るように』協力する、です」

「それは……」


 わかってはいたけど、きゅぴが生気を吸収出来るようにするために、失神しないようにどうすればいいか……という問題を、俺は後回しにしていた。


「私なりに考えたのですが、きゅぴさんが失神してしまう理由の一つとして、男の人と一度も接してこなかったのが原因の一つではないでしょうか?」

「あはは……」


 渇いた声できゅぴが笑ってる。自分でもそうかもと思っているみたいだ。


「ですから、にーさんと本当に恋人っぽいことをすれば、男の人に慣れて、もしかしたら失神しなくなるのではと私は思います。……どうですか?」


 言っていることはわかるし、わりと理に叶っていると思う。 

 るびぃの提案に、俺ときゅぴは互いに顔を見合わせた。


「「………………」」


 ……別に、俺はまあ、嫌じゃないけど、きゅぴはどう思っているんだろうか?

 俺がきゅぴの顔色を窺っているように、たぶん向こうも同じだと思う。だとしたら、良いように考えれば、俺が嫌じゃないのなら、きゅぴも嫌じゃない……のかな?

「きゅぴは――」「蒼は――」


 思いきって訊ねようとしたら、ちょうどきゅぴも何か言いかけたみたいで、出鼻をくじかれて言えなかった……もしかしたら、きゅぴも俺と同じこと考えてる?


「「………………」」


 さっき話そうとしたのに喋らんのかい!? ……いや、俺も喋ってないからきゅぴのこと言えないけど……と、とりあえず、そのままきゅぴをチラチラと盗み見る。


(なんか喋れ)(なにか話して)


 ……って、お前も俺をチラチラと盗み見ているんじゃねぇ。

 そんなやり取りを続けていると、るびぃがあからさまにため息を吐いた。


「……難しく考える必要はないと思いますよ」


 俺ときゅぴの腹の探りあいを見かねたようだ。


「好き同士だから恋人として付き合うと考えるのではなくて、お互いに好きかどうかわからないからこそ、恋人として付き合ってみる、と考えるのはどうですか?」

「つまりお試し期間って感じか……」

「そっちの方がわかりやすいですね。それにお試し期間なら、にーさんだってそんな無茶しないでしょうし……ね、にーさん?」


 何かヘタレって思われているみたいで嫌だけど、事実だからしょうがない。


「あたしも信頼してるよ、だって蒼は安心出来るもん。だから別に……」


 きゅぴが俺を信頼してくれるって言ってくれたんだ。それが俺の安心出来るフェロモンのおかげかもしれないが、俺も男だ、さすがに腹を括ろう。


「きゅぴ、俺はいいぞ。お、お前がいいならだけど……」


 ちょっと日和った。


「うん、あたしもいいよ、蒼がいいならだけど……」


 お互いに相手の顔を最後まで見て言えなかったが、とりあえずこれで、


「二人は晴れて本当に恋人同士ですね……いえ、元からそうでしたか?」


 最後にるびぃが意地が悪そうな笑みでそう言った。


「どっちでもいいよ、だけどお試しだからな、お試しの恋人だからな」

「お試しとはいえ恋人同士、蒼と……」

「……どしたきゅぴ、呼んだか?」

「べべべ、別に呼んでにないよ!? だいじょばないだいじょばい……」


 名前を呼ばれた気がしたけど気のせいか。

 ……あと、いい加減本当に『だいじょばない』の正しい使い方を教えてないと。


「きゅぴ、だいじょ――」

「早速ですが、今日の帰りにもでデートでもしてみたらどうですか?」

「デート!?」


 るびぃの提案に俺も驚いたが、それ以上にきゅぴが強く反応した。


「デデデデートってことは、はわわわ……」


 きゅぴの顔が赤く染まり、手をバタバタとさせて恥ずかしがっている。こいついったい何を妄想したんだ。また失神してしまう。とりあえず落ち着かせないと!


「落ち着け落ち着け、また失神してしまうぞっ!」


 立ち上がってきゅぴの肩にでも手を置きたいが、彼女まで手が届かない。


「失礼――ちょっぷ!」


 するとそれを見かねたのか、るびぃがきゅぴの首筋に斜め四十五度でチョップした。


「はわっ!? ……あれ?」


 驚いた声を上げたきゅぴだが落ち着いてよかった、ついでに意識も刈り取られなくて。


「あ、あたしまたやちゃってた? えっと、ありがと……」


 意識が混濁しているのか、きゅぴは俺にお礼を言ってきた。


「俺じゃなくてるびぃだよ、お礼ならるびぃに言ってくれ」


 それにしても綺麗なちょっぷだったな、壊れたテレビも直りそうだ。


「ありがとね、るびぃちゃん……」

「チョップしただけですのでお気になさらずに。こほんっ、それよりも……」


 るびぃがわざとらしく咳払いをした。話しを戻すためにと思えるが、たぶん、きゅぴに素直なお礼を言われて照れてるだけだと思われ。


「デートはまだ早かったですか? それならやめておきますが……」

「う、ううん大丈夫だよ、ちょっと恥ずかしくなっただけだから、せっかくの蒼とのデートの機会を無駄にしないよ。だいじょばないだいじょばない……」


 最後はまじないのように、きゅぴは『だいじょばない』を自分に言い聞かせている。


「どっちですか?」


 ……本当の本当に早く『だいじょばない』の正しい使い方を教えないと。


「大丈夫だって、そう言ってる」


 俺の翻訳に戸惑いつつも、るびぃは納得した。


「デートと言いましたが、きゅぴさんはこの街に来たばかりですので、にーさんには、デートのついでに、この街の案内をして貰えればと思います」


 それもそうだな、案内も兼ねてのデートと考えれば気を張らずにいけそうだ。


「任せろ」

「では決まりですね。にーさん、デート兼街の案内をよろしくお願いします。でも、晩ご飯までには帰ってきてください。あまり遅いとお母さんが心配しますから……」

「わかった」


 きゅぴが男に慣れるためのデートでもあるが、淡々と案内に集中すればいいだろう。


「だいじょばない、だいじょばない……」


 きゅぴはまだおまじないのように『大丈夫大丈夫』と言っている。

 ……俺もちょっと緊張してきたな。

 別にデートとかしたことなくて、きゅぴとのこれが初めての女の子とのデートで、デートコースが、全くわからないから緊張しているわけではない。

 それに厳密にはるびぃと二人っきりで買い物行ったことあるし、全くないことはない。

 妹は女の子とのデートにカウントされるのかは知らんがな。


「ところでなんですが、にーさん」

「……どうした?」

「有助くんのことなんですが……」


 ……あ、忘れてた。


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