第10話 眠ったままのサキュバス
「……どうだ、起きそうか?」
あの後、とりあえずきゅぴを起こそうと思い、抱き抱えた彼女を教室の壁にもたれさせて座らせると、るびぃに介抱をお願いしていた。
もちろんきゅぴの乱れた服は、るびぃが着させてもらった。
「きゅぴさん、起きてください、きゅぴさん、駄目、全然起きない……」
それよりもさっきからるびぃが名前を呼んだり、軽く叩いたりしているのに起きない。
「すぅ、すぴー……」
心配になってくるが、可愛らしい寝顔で寝息を立てているから、たぶん大丈夫だと思うんだけど、さすがにここまで起きないのは異常な気がする。
「……寝過ぎな気がするけど、本当に大丈夫なのか?」
「たぶん転校してきたことで、彼女の環境が一気に変わった気疲れみたいなのもあると思うんだけど、彼女にとって人間界は魔素が薄いから、まだこっちの空気があっていないのかもしれない。でも段々と慣れてくる筈だから、いずれ目を覚ますと思うよ」
……魔素? 気になる単語が出てきたがそれよりもだ。
「人間界ってことは、やっぱりきゅぴは人間じゃないのか?」
今は消えてしまったが、きゅぴの頭からはツノが、お尻からは尻尾が生えていた。
「うん、きゅぴさんは人間じゃなくて、サキュバスなの……」
サキュバス――物語とかで一度は聴いたことがあるような名前だ。
「……サキュバスって、あのサキュバス?」
「にーさんの想像で大体あっていると思う」
俺の中にあるサキュバスの曖昧な知識では、男を誘惑して、それで……えっちなことをして、せい……あ、そういえばきゅぴはせーきが薄いとか言っていたな。
他は……うーん、サキュバスについて知っているようで知らないな。
それに、るびぃがサキュバスの存在を知っていたことも気になる。
「なあサキュバスって――」
「ごめん、今は何も聴かないで……」
るびぃは立ち上がると、申し訳なさそうにそう言った。
「サキュバスや彼女について気になるとは思うけど、私から中途半端に聴くよりも、お母さんから詳しく聴いた方が良いと思う……」
「何でかーさんが?」
いや待てよ。サキュバスであるきゅぴが寮に住むことを、るびぃが知っているということは、おそらくかーさんもサキュバスについて知っている筈だ。
「……もしかして、かーさんも何か関わっているのか?」
「うん、にーさんを巻き込んだのはお母さんかな……でも、たぶんよかれと思ってしたことだから、あまり怒らないで欲しい……」
これは帰ったら色々と聴かないとなぁ、かーさん?
「帰ったら、にーさんが知らなかったことを知ることになると思うけど、これだけは覚えて置いて……私は、にーさんの味方だから」
知れば、俺の中の何かが変わるような、そんな気がする。でも、るびぃが真っ直ぐな目でそんなことを言ってくれて、ずいぶんと気持ちが楽になった。
「あっ、私のせいでにーさんはきゅぴさんと二人っきりになったけど、それは本当に裏目に出ただけだからね! 私は本当ににーさんを守るために……あっ、あう……」
早口でまくし立てるるびぃに歩み寄り、可愛い妹の頭を撫でて上げた。
「わかってるよ、ありがとな、るびぃ……」
「にーさん……」
頭を撫でられると、猫のように気持ちよさそうにしている。どれぐらい撫でていたかわからないが、急に我に返った様子のるびぃは、さっとと俺の手から離れた。
「えっと……そ、それじゃあにーさん、きゅぴさんをよろしく!」
「ああ、わかっ――何を? きゅぴをよろしくって……」
よくわかっていない俺に、るびぃはきゅぴに歩み寄った。
「きゅぴさんをこのまま寝させて置いたまま帰るつもりですか? 帰る場所は寮だとわかっているんですから、にーさんがきゅぴさんを運ぶんです」
「……な、なるほど?」
起きないのだからしょうがないか……よし、任せろ!
――――――。
「にーさん、いきますよ?」
きゅぴをおんぶするために、寝ている彼女の前で屈んで背を向けていた。
「おう、来い」
待ち構えていると、るびぃは寝ているきゅぴの両腕を俺の肩の上に回してきて、彼女を俺の背中にもたれさせるように押してきた。
「すぴー、むにゃにゃ……」
「にーさん、足を掴んでください」
あとはきゅぴの両足を掴んで持ち上げれば立派なおんぶなのだが、
「おーけー、このまま……あ?」
――ふにょん、と感じる背中の圧迫感に気付いて静止した。
「どうしました、にーさん?」
「いっ、いやっ、何でもないぞ! 何でもない! よいしょっと……」
何も感じなかったように、俺はきゅぴをおんぶしたまま立ち上がった。
「おお……」
きゅぴは軽く、寮まで充分におんぶ出来そうなのだが、それよりも、俺の背中に当たっている一部分の主張がかなり強くて、俺の意識が持ってかれそうになる。
「むにゅむにゅ、へへへ……」
さらに寝ぼけているか無意識だと思うが、俺の首に手を回してきたきゅぴは、たわわな胸を俺の背中に一層に押しつけてきた。
「どうやら大丈夫そうですね、それでは帰り……どうしましたか、にーさん?」
「……ど、どした?」
何かしらの機微に気付いたのか、るびぃは俺の顔色をぬっと覗き込んできた。
「いえ、何ていうかその……浮ついている?」
「そ、そんなことないぞ、何だよ浮ついてるって……(さっ)」
「……何で私から目をそらしたんですか、にーさん?」
るびぃの目が細くなった。疑惑が確信に変わった、そんな気がした。
「ん~?」
きゅぴをおんぶした俺の周りを、るびぃはジロジロと観察しながら一周すると、
「あ」
おんぶしているきゅぴを見て、たぶん俺の背中に押しつけられた胸に気付いた。
「やはり巨乳ですか、そうですかそうですか……」
「……る、るびぃ?」
「お母さんの血が流れているんだから、あの日を迎えたら私だって、そもそも何で私の胸はこんなにも小さく……」
俺の声が聞こえていないのか、目のハイライトが消えたるびぃが、遠くの虚空を見つめたままぶつぶつと何か言ってて……正直、怖い。
「にーさん」
「は、はいっ!」
突然戻ってきたるびぃに呼ばれたので、何を言われるかと気構えていると、
「私は必ず巨乳になってみせますので、楽しみにしていてくださいね」
………………。
「ああ、た、楽しみにしてるよ……」
とりあえずの何となくで返事したけど、正解だったろうか?
『もし大きくなったら、一つ、何でも言うこと聞いてくださいね』
朝にも乳周りについて似たようなことを言っていた気がするが、今のコンパクトサイズのるびぃが、どうやって巨乳になるのか一向にわからない。
誰かに揉まれて大きくはたぶんない、おそらくない、絶対ない、確実にありえない。
だから、何か別の方法がるびぃにはあると思うんだけど……。
「きゅぴさんの胸にあまり興奮してないで、行きますよにーさん」
そう言って先へと進むるびぃ、教室のドアを開けてくれた。
「し、してねぇよ……」
もはやバレバレだったが、俺はそんなことを呟きながらるびぃについていく。
「チョ、チョメチョメしたい、むにゃ……」
首元に聞こえる安らかな寝言と、背中に感じる豊満な圧迫感を感じながら。
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