第7話 お昼ご飯の時間です
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「よーしお前ら、今日はここまでだ。続きは次回読むから予習しとけ~」
そう言うと柊先生はそそくさと教室を出て行った。
教室からは一段落がついた声がチラホラと聞こえてくる。四限目が終わり、お昼ご飯の時間だから当然と言えば当然の空気。俺もやっと一息ついた気分だ。
「さ、て、と……」
鞄からお昼ご飯を取り出した。
だけどここで食べるわけじゃない。
「ねぇねぇきゅぴさん一緒に食べよ。さっきの恋とかの続きも話したいし」
またゾロゾロときゅぴの周りに女子が集まってきた。転校初日なのにきゅぴはもう大人気だな、一人で寂しくご飯を食べることにはならなそうだ。
「恋とかの続き……あ、うん、食べる……」
それなのにどこか嬉しくなさそうにしているきゅぴ。もしかして、みんなで食べるのは嫌で、一人で食べる方が良いとかだったりするのだろうか?
「どうしたのきゅぴさん? もしかして私達と食べたくない?」
「そ、そんなことないよ、た、ただ出来れば話しとかは――」
「あっ!? もしかしてだけどきゅぴさん、すでに気になる人がいて、その人とすでに食べる約束をしていたり?!」
女子一人がわかった風にそんなこと言うと、他の女子達が色めき出した。
「ち、違う違う! あたし一緒に食べたい! みんなといっしょに食べたい!」
気のせいだった、みんなで食べるのめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「でもあたし今日はパンだけどいい? 明日からお弁当が貰えるみたいなんだけど……」
何だ明日から貰えるって……訳ありか? まあいいや、俺には関係ないだろうし。
「全然いいよ、それじゃあここで食べようよ。椅子と机はっと……」
一瞬、女子の視線を感じた気がする。
『ここで俺は食べるわけじゃないから、机なり椅子なり好きに使ってくれ』――と、心の中で呟いた。わざわざ言う必要はないだろう。
「あっ、よかったら俺の机や椅子使ってくれていいよ。あとこいつのも」
いらんことを助六……しかもついでにとばかりに俺もと指さしてきやがった。
「え、いいの?」
「いいよいいよ全然いいよ! へへへ~」
助六の鼻の下が伸びている……どうせ、自分の椅子に女子が座って嬉しいとか、女子と会話出来て嬉しいとか、そんなことを思ってる気がするこのスケベ。
「それじゃあ有助くんと宝生くんの机と椅子を借りるとして、あと足らない椅子は私達のを持ってきましょ」
女子達は短いやり取りの後、二人を残して椅子を取りに行った。
「きゅぴさんもうちょっと待っててね、あ、そういえばスキンケアって――」
残った一人の女子はきゅぴと雑談するみたいだ。
「……えっと、宝生くんもいいの?」
さらにもう一人残った身長がやたらと低い女子(百五十センチは絶対にない)が、俺に近づいてくると、椅子の使用を律儀に訊いてくれた。
「ああ、いいよ」
わざわざ訊かなくても良いんだけどな。
「その、さっきも椅子借りちゃったけど、ごめんね……」
あ……そういえばさっきの時間、俺の椅子に座っていた女子だ。別に言わなくても気にしないんだけど、律儀なクラスメイトだな……名前知らんけど。
「別にいいよ、いない時なら好きに椅子使ってくれていいから」
「あ、ありがとう……と、ところで何だけど、宝生くん、雰囲気変わったね?」
「……雰囲気?」
まさかまだ会話続くとは思わなんだ。
「うん、何かわかんないけど、雰囲気が変わった気がする」
そう言われてもな、まったく心当たりがない……だけどたぶん、良い意味だよね、カッコいいみたいな、たぶん……。
「そうか? ははっ、もしかしてやっと俺にもモテ期が来ちゃうかな~?」
「あ、うん、そうだね……」
……あれ? 反応が薄い。こうゆうノリじゃなかったか?
「ね、ねぇ宝生くん、ちょっとお願いがあるんだけど、えっとえっと、あ、あった……」
そう言いながら、名も知らぬ女子生徒は慌てながらスマホを取り出した。
「もしよかったら何だけど、私とロインの交か――」
「あああああああーっ!?」
突然の助六の叫び声に驚いて見ると、これ見よがしに教室の扉を指さしていた。
「ほら見てみろよ蒼! 絶対に見てみろよ蒼! るびぃちゃんが来てるぞぉ!」
確かにるびぃが教室の扉から顔をひょこっと見せている――が、
「え? むぅ……」
途端に口を『へ』の字にした嫌そうな顔に変わった。助六のせいでクラスメイトから変な注目を浴びたのだから、るびぃの今の気持ちがすごくわかる。
「俺たちと一緒に昼飯を食べてくれるるびぃちゃんだぁ! やったお昼ご飯だぞぉ! るびぃちゃんはお前の妹なんだから待たせるわけにはいかないんだぞぉ!」
ところで何でこいつは説明口調なんだ?
「……えっと、宝生くんはいつも妹さんとお昼ご飯食べているの?」
「あ、ああ……」
助六の所為で話しが急にすり替わった気がするんだけど。
「そうなんだ……そ、それで何だけど、ロイン――」
「どうしたんだ蒼! ほら早く行くぞ!」
助六が俺の腕を掴み、るびぃの元へと強引に俺を引っ張っていく。
「ちょっ!? お前急にどしたんだ?」
何とか弁当は掴めたけど、名も知らぬ女子との会話は打ち切られてしまった。
「あ……」
何かまだ言いたそうにこっちを見ているけど、
「さあるびぃちゃんとの楽しいお食事だ!」
恨むのならこいつを恨んでくれ。名も知らぬ女子よ、さよなら。
―――――ー。
「やあるびぃちゃん! 朝会えなかったから寂しかったよ!」
教室の外で待っていた瑠璃に近づいた助六の開口一番がそれだった。
「……こんにちは有助くん」
るびぃが一瞬だけ俺を見てから、相変わらずの無表情で助六に答えた。
「やめてよるびぃちゃん、俺達は幼なじみなんだから平六くんって呼んで――」
「にーさん、さっき誰かと話していましたけどいいんですか?」
助六をフルシカトする妹、俺もだけど。
「大丈夫だ、俺の机と椅子を借りるってことで話していただけだから」
「そうですか……」
るびぃはどこか納得していない様子で、俺の背中越しに教室の中をチラッと覗き込んだ。
「……あ、ギャルだ」
さっき俺と話していた女子ではなく、派手な見た目をしたきゅぴが目にとまったみたいだ。
「そうなんだよ、きゅぴちゃんっていうんだけど、今日転校してきたんだ。いやあギャルって良いよねぇ……あ、もちろんるびぃちゃんも可愛いよ」
助六が代わりに答えたので振り返れば、また女子にもてはやされているきゅぴ。俺と助六の机が利用されて、椅子を持ってきた女子が取り囲んでいた。
「そうですか、彼女がそうなんですか……」
どうやら転校生ギャルの噂が別のクラスにまで広がっているみたいだな。
「そっちのクラスも転校生の話題で持ちきりか?」
……と思ったのだが、るびぃは首を振った。
「そんなことはないですよ。確かに目立つ容姿ですが、ツノや尻尾が生えているわけじゃないですから、まだ転校生が来たことを知らない人が多いんじゃないですか?」
「ツノ? 尻尾?」
何その具体的な例、そんなの生えていたらそりゃ話題になるだろうよ。でも、まだそこまで噂になってないか……じゃあ、何でるびぃは知っていたんだ?
「それにしても彼女大人気ですね。転校生ってチヤホヤされるイメージは確かにありますけど、それって小学生ぐらいまでだと思ってました」
「あー、わかるそれ! 小学生の時ってちょっとした変化が嬉しかったりするから、それが転校生なら当然テンションが上がるよな、そういえば俺も小学生の時――」
共感している助六を無視して、俺は彼女が人気な理由を説明する。
「実は彼女、恋愛経験が豊富らしくて、それでクラスの女子達から恋愛相談を受けているみたいなんだ。だからあんな感じになってる」
「……彼女、恋愛経験が豊富なんですか?」
ギャルを初めて見るから、るびぃは見た目だけじゃわからないのかもな。
「まあギャルってのはそういうもんだ。見た目通り、結構派手な恋愛経験してきたみたいだぞ」
具体的なことは知らないけど。
「聞いていた話と違いますね……」
「……違うって何が?」
「口が滑りました、気にしないでください……」
「そうか……」
まあいいや、たいしたことじゃないだろうし。
「――ってゆうことがあったからさ、小学生の時の蒼は嫌いだけど、今はモテなくなったから嫌いじゃなくなったんだよ――って、お前達俺の話聞いていたか?」
「聞いてなかった」「聞いていませんでした」
「聞けよ!」
さすが双子の兄妹、俺たちは揃って同じことを……ん?
「……今、俺の悪口っぽいこと言ってなかったか?」
「うるせぇよ! 話し聞こうとしなかった奴が聞き返してくんな! てゆうかいつまでここにいるんだよ! ほら行くぞ!」
そう言うやいなや、助六は我先にと進んでいく。
「行きましょうにーさん」
「あ、ああ……」
最後にチラッとだけ、困ったそうに笑うきゅぴを見てからこの場を離れた。
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