再出発

整列した騎士団を前に総長バルド・クレイヴが声を張る。


「諸君。今日、我らは未知の大陸へ向かう。向こうに何が待つかは誰も知らぬ。だが、騎士たるもの、恐れに屈してはならん。任務はただ一つ――国と民を守ることだ」


隊列の騎士たちは息を飲み、拳を固める。


「未知の敵、未知の力……すべて我らの前に立ちはだかろう。だが、私が命じる限り、誰も一人で戦うことはない。共に歩み、共に戦え!」


騎士たちの胸に熱い決意が宿る中、総長の後ろから軽やかな足音。

学術院長エレノア・フィンレイがにこやかに近づく。


「リオラ少佐、未知の大陸への遠征、楽しみですね。

 危険は多いでしょうが、きっと興味深い発見があるでしょう」


リオラはわずかに眉をひそめる。

「学術院長。任務前に何か?」


エレノアは手を軽く上げ、微かに笑みを浮かべる。


「ええ、もちろん。私たち学術院の護衛をする方たちですよね?挨拶しておこうと思って♡」


リオラは軽く口角を上げ、やや皮肉めいた声で返す。


「そうですね、学術院長。貴方たちが監視してくれるなら、私たち騎士も無駄に迷子にならずに済みます」


エレノアは微笑を崩さず、わずかに首を傾げる。


「まあ、頼もしいこと。どうぞ、安全第一で――そして、報告も忘れずに」



ーーーーーー


港は、異様なほど静かだった。


人の数は多い。


だが、誰一人として無駄口を叩いていない。


重装の騎士たちが列を成し、槍と銃が朝の光を反射する。


補給船が横付けされ、弾薬箱と食糧が次々と積み込まれていく。


――少数精鋭ではない。


これは、国としての遠征だった。


リオラ・アルベルトは、桟橋の端でそれを見ていた。


双剣は腰にある。ただし、今回は抜くことはない。


「……随分と大げさですね」


独り言のように漏らすと、背後から低い声が返ってきた。


「臆病なくらいでちょうどいい」


振り返るまでもない。


その声は、バルド・クレイヴ――騎士団総長のものだった。


バルドは鎧の留め具を確認しながら、港全体を見渡す。



リオラは一瞬だけ視線を落とし、すぐに前を向く。


「……犠牲は出ますか」


バルドは即答しなかった。


代わりに、重い手をリオラの肩に置く。


「出る」


「だが――意味のない死にはさせん」


その言葉には、覚悟が滲んでいた。


命を数え、切り捨てる立場に立つ者の声だった。


リオラは小さく息を吐く。


「私は、前に出ます」


バルドは頷く。


「知っている」


「だから、お前を呼んだ」


一瞬、港の喧騒が遠のく。


「光る力は預けられない」


「だが、お前には私の“背中”を預ける」


リオラは短く答える。


「……引き受けます」


そのとき、港に号令が響いた。


「全騎士、乗船準備!」


声を上げたのはバルド自身だ。


その声は港の端まで届いた。


ざわめきが止み、隊列が動き出す。


バルドは最後に、リオラを一瞥する。


「戻れなくなる境界を越えたら――」

「もう、国は助けてくれん」


リオラは、はっきりと答えた。


「それでいい」


船が、ゆっくりと岸を離れる。


再出発。


今度は、逃げ道のない遠征だった。

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