陰謀

リンネル王都、王宮。


表向きはリオラたちの報告を受け、王と上層部が緊迫した会議を行っている。


だが、会議室の扉の外では、別の動きが始まっていた。


「……光る器官と石を、学術院だけで管理するべきだな」


低くつぶやいたのは、宰相グラハム・ヴァルフォード。


誰にも聞かれぬよう、書類を前にした薄暗い一角で、秘策を練る。


「表向きは王の命に従うふりをして、調査隊の一部に、私の息のかかった騎士を派遣……騎士団を監視する」


隣に立つ補佐官が小さく頷く。


「了解しました、宰相殿。」


宰相の眼差しは冷たい。


「学術院にも協力を仰げ、おそらくエレノアは大陸に上陸したがっているだろうからな」


「王も国も大切だが、それ以上に、国の未来を握るのは情報だ。この力を独占する者こそが、リンネルを動かすことになる」



ーーーーー


王都・会議前 ―


王宮の奥、学術院長専用の執務室。


夜更けにもかかわらず、机の上には未整理の資料が山積みになっている。


扉を叩く音が一つ。


「――どうぞ」


現れたのは、宰相グラハム・ヴァルフォードの使者だった。


無駄のない所作、感情を削ぎ落とした目。


「学術院長エレノア・フィンレイ殿。宰相より、条件の提示です」


エレノアは椅子にもたれ、口角をわずかに上げた。 


「条件、ですか。……私が未知の大陸に上陸したがっていることは、既にご存じのようですね」


使者は否定しない。


使者は続けて言う


「宰相は国の内部の状況を理解しています。――大陸の探索を騎士団長の一存で決められては、国家として問題が大きすぎます」



エレノアの目が細まる。


「つまり?」


「学術院が“監視役”として同行すること。遠征の判断権は騎士団と学習院両方の承認が必要とします」


静かな沈黙。


「光る石、光る器官、未知の生物。いかなる発見も、学術院の承認なしに使用・報告は禁止。騎士団はあくまで“護衛”に過ぎません」


エレノアは息を吐いた。

――露骨だが、実に合理的だ。


「宰相ご自身は大陸に上陸なさらない?」


使者は淡々と答える。


「宰相が直接動く理由はありません。だからこそ――あなたを使う」


エレノアは小さく笑った。


「なるほど。権力の矢面には立たず、学術院長を盾にするわけね♡」


使者は答えない。


エレノアは立ち上がり、窓の外――暗い海の向こうを見つめた。


未知の大陸。


理屈も法則も通じない場所。


「……いいでしょう」


使者がわずかに顔を上げる。


「上陸できるなら、利用されてあげます♡」


エレノアは振り返り、はっきりと言った。


「学術院が騎士団を監視する。判断権も研究権も、私が握る。その代わり――私自身が現地に立つ」


使者は一礼した。


「条件成立です。宰相より、王国全体への根回しはすでに始めています」


扉が閉じる。


エレノアは一人、呟いた。


「利用されるのは嫌いじゃないわ。知に辿り着けるなら……ね」


彼女の瞳は、恐れではなく、純粋な好奇心に輝いていた。


ーーーーー


内部会議 ― 光る器官と未知の大陸の扱い


王都、王宮・会議室。


夜の帳が下り、蝋燭の炎が壁に揺れる。


リンネル国王エドヴァルト・リンネルは王座に座り、


宰相グラハム・ヴァルフォード、騎士団総長バルド・クレイヴ、

学術院長エレノア・フィンレイ、

財務卿オズワルド・ミーレン、

そしてリオラが一列に並ぶ。


宰相グラハムが静かに口を開く。


「今回の遠征で入手した光る器官および光る石……騎士団に持たせるなど、危険極まりない。使用を制限し、学術院に研究させるべきです」


リオラは思わず眉をひそめる。


「ですが、あの力は戦場でこそ――」


バルド総長も声を荒げる。


「騎士としては力を使いこなすことが最優先だ!未知の敵に対して、守れる手段を奪うつもりか」


宰相は冷たく笑う。


「守る?いいえ、私はこの国のことを一番に考えていますよ。騎士団に力を付けすぎさせれば、国を制御できなくなる」


王は手を上げ、静かに言う。


「落ち着け、バルド。宰相の言うことも一理ある」


エレノアが少し前に身を乗り出し、静かに口を開いた。


「ならば、学術院から調査役兼監視役を派遣し、騎士団が護衛にあたる形で未知の大陸に上陸すればどうでしょう。

こうすれば騎士団は力を持ったまま戦力を温存でき、私たち学術院も現地で解析できます」


宰相は小さく頷き、王に向けて言う。


「それで問題はないでしょう。院長の提案に従えば、騎士団の力を制御しつつ、大陸で得られる知識も最大化できます」


エレノアは満足そうに微笑む。


「安全が確保されるなら、私はこの任務を喜んで引き受けます」


財務卿オズワルドも手を叩き、口を開く。


「情報と資源を制御するのは賢明です。このままでは国が損をします」


リオラは拳を握り締める。


騎士団として、戦力として独断で光る器官を使えない――


未知の大陸の力は、今は学術院の手に委ねられることになった。


会議の最後、王は冷ややかに言った。


「未知の大陸で得たものは、学術院の管理下でのみ使用する。リンネルの未来のために」


リオラの目には、希望と焦燥が交錯する――


未知の大陸の力が、今後のリンネルを変えるかもしれないという期待と、それを使えないもどかしさがあった

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