第5話

 朝早く起きて、新聞配達のアルバイトをしていた。仕事を終えると、昼まで寝るのだが、俺は携帯電話の着信音で目を覚ました。携帯電話に表示された番号は知らないものだった。電話に出ると、聞き覚えのある高い声がした。


「相沢香織と申しますが、伊藤さんのお電話でしょうか?」


 相沢香織と聞いて、俺はどの相沢か頭の中で考えた。電話口で笑い声がした。その声からダンジョンで一緒になった女の顔が思い浮かぶ。


「おまえ、指輪を騙しとっておいて、図々しく電話してきたのか?」

「違う、違いますよ。ちゃんと指輪は捌きましたから」

「じゃあ分け前は?」

「その話もしようと思ったんですよ」


 俺は腹が立って、電話を切りたくなったが、我慢をした。ここで切ったら一生金が手に入らないかもしれない。


「言いにくいんですが、もう一度ダンジョンに同行してもらえませんか?」

「ああ、ダンジョンには行きたい」


 相沢は黙り込んだ。また何か企んでいるのだろうか。俺は咳払いをした。


「ダンジョンに行くのにも金を取ろうというわけじゃないよな?」

「そんなに行きたいなら、それもいいかもしれない」

「だんだん、おまえの本性が見えてきたぞ。泥棒猫め」


 相沢は笑い声を上げる。


「明日の朝一で、今から言う待ち合わせ場所に来てください」


 相沢は待ち合わせ場所を告げ、俺はそこら辺にある紙の切れ端にメモをした。


「他に誰か来るのか?」

「勇者と呼ばれる人達がきます」

「そんなゲームみたいな」

「それくらい凄腕のパーティなのよ」


 相沢はそう言って電話を切った。俺は翌日のバイトを休めないか、担当に電話を掛けることにした。翌日、電車に乗り目的地の最寄駅で降りた。川沿いを歩き、何処かのトンネルの側に人が集まっているのが見えた。大きなボストンバッグを提げている背の高い男がいた。髪は長く、モデルのよう顔立ちをしていた。だからか、ひどく印象的だった。他に、彼よりも背の低い金髪の男。そして、可愛げのある女だった。三人の他に相沢の姿はなかった。


「あの」


 俺は金髪の男に聞いてみた。髪は染めているが、人相は柔らかく、ヤンキーというよりは美容師のような感じだ。


「相沢の紹介で来た、伊藤というものですが」


 俺が言うと、背の高いモデルのような男が口を開いた。


「あー、伊藤さん、ずいぶんと強いと聞いてますよ。どれくらいの実力者か楽しみです。あ、私は利家です。名家の生まれで、最高学府を卒業しているので、聞きたいことがあったら気軽にどうぞ」


 利家は早口で喋ってきた。第一印象はすごい人だと思ったが、どこか苦手なタイプだった。俺は彼の持っているボストンバッグに視線を落とした。


「これは撮影機材ですよ」

「どこかに投稿するのですか?」

 

 利家は鼻で笑う。


「動画サイトなどは、嘘がほとんどで、ダンジョンのことを投稿したところで、意味ないのですよ。これはですね」


 金髪の男が利家と俺の会話に割ってはいる。


「自分達の動きを確かめるための機材です。伊藤さんも良ければ自分の動きを後で見るといいですよ」


 ダンジョン内で撮影とは、妙に意識が高いと感じた。


「自分は白田と言います。こっちの」


 白田はそう言って女のほうを指差す。


「指差さないで、それにすぐ死ぬ人かもしれないから紹介しなくていい」


 女はそう冷たくいい放った。


「まあ、ダンジョンには事故は付き物だけど」


 白田はそう言って、俺を下に見ていた。利家はボストンバッグを開けて機材の確認をしているようだった。中に銃器などは入っているのだろうか。


「銃なんか入っているのですか?」

「銃? まあ、初級者は銃に頼るかもしれないですね。銃は誰も使いません」


 銃は扱わないのか。彼らも格闘技を鍛練していたのだろうか。俺は利家の首周りを確認する。格闘家とは思えないほど、首は細かった。白田も同様だった。


「まあ、いいでしょう。伊藤さんも来たし、そろそろダンジョンに向かいましょうか」


 利家が言うと、俺は手を差し出した。


「よければバッグ持ちましょうか」

「これを持って逃げられても困るので」


 俺は勇者パーティの強さに興味が湧いた。


  

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ダンジョンがある世界で、俺の空手が無双している @fujimiyaharuhi

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