第4話
ピキッと音がした。俺の拳が折れたと思ったが、手には何も異常はなかった。歓声が上がった。振り向くと、相沢が拍手をしていたのだ。
「凄い、綺麗」
綺麗、こいつは何を言っているのだろうか。俺は彼女を無視し、金色のマントを羽織ったモンスターの元に向かった。
「駄目でしたね」
俺が言うと、残念そうに肩を叩かれた。
「暗黒騎士様でさえ倒せなかったので、こんなものでしょう」
そう言うなり、金色のマントのモンスターは踵を返して村のほうに歩き出した。俺は後を付いていく。
隣に相沢が並ぶ。
「そう、気を落とさないでくださいよ。綺麗なパンチでした」
「正拳突きのことを綺麗と言っていたのですか」
「綺麗な正拳突きでしたよ。元気出せって」
俺は彼女の言うことを気にせずに歩いていく。拳を作り、左手で右の拳に触れてみるが、骨が折れているわけではなかった。ただ確かめるように触っただけだ。
金色のマントのモンスターは村の外まで案内してくれた。そこでマントを返そうと、羽織っているものを脱ごうとする。そこに一匹の別のモンスターが現れた。そいつは金色のマントに何やら耳打ちをした。
「どうやら、ゴーレムが崩れたようだ」
金色のマントが言う。
「崩れたってゴーレムが倒されたってこと? 伊藤、やったじゃん」
呼び捨てで言われたことよりも、本当に俺の一撃が関係しているのか疑問だった。
「自分は関係ないです」
あの場で崩れなかったのだから、俺の成果ではない、そう結論付けた。
「何を言っているのよ。伊藤が倒したに決まってるじゃない。ほら、宝を取りに行くわよ」
そういえば、ゴーレムは宝の番人とか言っていたな。俺は金に困っていて、この場所に着たことを思い出す。
「金目のものなら」
俺は相沢に押され、村の中に入っていった。村の奥に向かうと、ゴーレムが膝から崩れているのが遠くから確認できた。モンスターが集まっていて、ゴーレムのことを見定めているようだった。
俺が近くに寄ると、モンスター達は道を開けてくれた。やけに親切なことに少し驚いた。
「ゴーレムの奥にどうぞ」
金色のマントに言われ、俺はゴーレムの隙間を抜けていく。奥に扉があるが、開かれていた。誰かが中にいるのだろうか。覗き込むと、箱が一つあるだけだった。扉を通り抜け、宝箱と思われる箱の前に立つ。中には指輪が入っていた。
俺はゴーレムの奥の部屋から出てくると、指輪を持って金色のマントのモンスターの側に寄ってきた。違和感を覚えるが、モンスター達が総じて日本語を話していることに気付いたのだ。
俺のことを人間呼ばわりしているが、怖れているように聞こえた。
「それは?」
「箱の中身はこれだった」
金色のマントに手渡すと、途端にモンスター達の言葉が分からなくなった。
「あ、たぶん、その指輪のおかげでモンスター達の声が聞き取れたと思う」
「ほう、ゴブリン族の言葉を理解できたのですか」
「恐らく」
金色のマントのゴブリンは指輪を返してくれた。相沢が寄ってくると、俺の手のひらにある指輪を眺めた。
「きっと、凄い値打ちがすると思うの」
「そうでしょうね」
「一旦、帰りましょうよ」
俺は少し考えてみた。この指輪を売ったところで、俺の空手人生の足しになるのだろうか。このダンジョンと呼ばれるところで、修行をしていたほうが強くなれる。俺はこの場所に意味があると判断した。
「一度戻ったほうがいいかもしれない」
俺は相沢と一緒にダンジョンを出ることにした。相沢に先導してもらい何処かの公園らしきところに出てくる。来るときは意識しなかったが、公園から地続きでダンジョンに通じているのか。
「この指輪、どこで売ればいいんだ?」
俺は全く知識がなかった。
「電話番号を教えてくれない?」
「携帯電話ですか、教えてどうなるのですか?」
「私に、指輪をさばく当てがあるの。私に任せてくれれば、高値で売ることができるわ」
俺は素直に相沢に指輪を渡した。電話番号を教えると、俺は相沢と別れることになった。家路に着き、ダンジョンのことを思い返した。しばらく、本気で戦ったことはなかった。罪悪感を覚えるほどの、殺意を出してしまった。ただ、ゴーレムと言うモンスターを倒したことは楽しかった。ゲームセンターのパンチングマシーンのようだ。俺が新記録保持者ということか。
それから相沢から電話が来たのは一か月後の話だった。
日雇いの仕事をし、ダンジョン関連の求人を探す日々を送っていた。そういう仕事はあまり出回っておらず、俺はダンジョンに無縁の生活を送っていた。一度、公園に向かったが、どうやってダンジョンに繋がる道を辿ればいいのか分からなかった。道案内人が必要なのだ、と結論付け、俺はダンジョン関連の求人を探していた。
相沢に電話をしようにも、彼女の電話は知らなかった。電話が来るまで騙されていたと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます