第3話
俺はモンスターの後を付いていった。隣には女が歩いている。彼女は時おり俺のほうを見て笑顔を向けた。手持ちぶさたさなのか、彼女は俺のことを気にかけているようだった。そして感嘆したのだ。
「ねえ、どうして置いていっちゃったのよ」
俺は女を見下ろす。
「どうしても何も、付いてこなければいいんじゃ」
女は俺の肩を叩いてきたが、痛みはたいして感じなかった。女は黙り、俺は特に話すことはなかった。名前も知りたいとは思わなかったが、彼女のほうはそうでもなかった。
「相沢香織っていうの」
「相沢さんって言うのですか」
「そう」
俺は彼女の顔を見た。相沢という女が、危険なバイトをして目的は金なのだろうか。女がする仕事とは思えないし、モンスターのことも詳しそうだった。
「あなたの名前は?」
「伊藤ですが」
「伊藤さんって言うんですか」
相沢はそう言って、俺の顔を見る。そしてムクッと頬を膨らませた。
「なんか素っ気なくないですか」
俺が素っ気ないと言うのだろうか。
「どうしてこの仕事を選んだんですか?」
俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「特に理由はないけど、強いて言えば」
相沢はそう言って何かを考えてるのか黙り込んでしまった。少しして彼女のほうを見るが、俺の質問に答えるつもりはなさそうだった。個人的な理由でこの仕事を選んだのだろうか。
前を行くモンスターが後ろを振り返る。金色のマントを羽織った日本語を話せるやつだった。
「もうすぐだ」
乾いた空気が漂っていた。土が風に吹かれて粉塵が舞っている。岩壁を抜けると、草木もないところにやってきた。遠くで煙が立ち込み、何かを燃やしているようだった。土の道を歩き、高い塀が見えてきた。どうやら村の近くにやってきたのだろう。
塀の前で待つように言われ、先にモンスター達が村に入っていった。しばらくして金色のマントを羽織ったモンスターがやってきた。手にはマントを下げていた。
「これを着れば、仲間だ」
マントは二着あった。俺は一着受け取る。マントは少し小さかったが、着れないものではなかった。相沢はひどく似合っていた。彼女は俺のほうを向いて一回転体を回した。
「似合っているでしょ」
「たしかに」
相沢はじっと目を向けてきた。
「まさか、ダサいから似合ってるなんて思ってないよね」
「いやそんなことはないですよ」
「心込もってなさそう」
俺は彼女を無視し、モンスターの後を付いていった。村の門に近付くと、門番が俺の顔を見てきた。モンスターの顔は一様に三角形の目をしていて、睨まれているように感じた。俺は目を伏せ、門番の前を通りすぎた。一応相沢も付いてきている。村の中には、藁葺き屋根の家が点々と建っていた。モンスター達がいて、木片が積み重なった焚き火を囲んでいた。金色のマントを羽織ったモンスターが通ると、他のモンスターは頭を下げ、敬服しているように見えた。やはりこのモンスターは位が高いのだろう。
金色のマントのモンスターは、村の奥に進んでいく。振り返ると、相沢の後ろに他のモンスターがちらほらと付いてきていた。言葉が分からないが、俺は彼らに友好的な印象を抱いた。
大きな柱が二つ並んでいた。ゴーレムと思われるやつは、その真ん中に立っていた。
「力試しにどうだろう」
金色のマントのモンスターが言う。
「こいつは強そうだが、動かないのか?」
「動いたところで、誰も倒せない。ゴーレムは帝国の暗黒騎士様でさえ、倒せなかったのだから」
俺はゴーレムの正面に立った。見上げると、ゴーレムの灰色の胸辺りが見えた。俺が手を伸ばすと、ゴーレムの太い足のふくらはぎ辺りと同じ高さだった。俺は両足を構え、腰を下ろした。正拳突きの構えをする。正拳突きは一日に何百回も突いてきた。基本的な動きが一番大切だと理解したのはつい三年前だった。三年間、ひたすら正拳突きを繰り返してきた。その一撃を、俺はゴーレムに撃った。
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