第2話
俺が拳を構えると、緑色のモンスターは一歩引いた。力の差は歴然だった。けれども目の前で人を殺され、戦意喪失した相手を見逃すほど、俺は優しくはない。
拳を突き出すが、緑色のモンスターは逆三角形の目から涙をこぼした。そのまま背を向けて敗走していくところ、他のモンスターに短刀で首を切り落とされた。俺は思わず声を上げた。
「何でもやっていいんだな」
周辺にいるモンスターの頭を鷲づかみにし、モンスターは短刀で俺の腕を切ろうとしたが、その短刀を持った腕ごと足を宙に浮かして両足で挟んで捻り曲げた。体が宙に浮き、両手を地面につけて逆立ちした。迫ってくるモンスターを俺は足を回して、プロペラのように薙ぎ倒した。カポエイラなんて習った覚えはないが、即興で出来てしまった。実戦で新しい技を身に付け、俺は気持ちが昂った。
頭を空にして戦い、気付いたら死体の山が広がっていたのだ。見回すと生存者は俺だけだった。落ちていた銃を拾い、引き金を引いてみると、反動で銃が吹っ飛んだ。あまり使いものにならない。素人が使って直ぐに戦力になるものではなかった。威圧感として飾りでもっておいてもいいと思い、一丁拝借することにした。適当な銃を探していると、誰かが岩影から動いたのだ。さきほどの女だった。
「モンスターはもういない?」
女は周囲を見渡し、つま先歩きで俺のほうに寄ってきた。
「あんた、超強いね。素手でばこんばこん倒しちゃうんだもん。あれ、空手っていうの?」
「空手ですけど」
女は興味深く聞いてきた。たった今殺し合いをしていた場所で、呑気に立ち話をする心の強さは感心したが、その勇気が警戒心を覚えるほどでもあった。
俺は女を警戒し、近くに落ちているリュックサックの中身を確認することにした。
リュックサックを覗いていると、女が側に寄ってきた。
「どうやって帰りましょうか」
俺はリュックサックから目を離し、立っている女を見上げた。
「帰るつもりはないです」
「え、帰らないの?」
「このまま帰るよりも、この場所で鍛えたほうが強くなれると見込んでいるので」
「鍛えるって、これ以上強くなってどうするの?」
「さあ」
女は呆れた顔をしていた。俺は食料を一つのリュックサックに集めると、それを背負って、先に進むことにした。
「一人で帰れますか?」
「帰れない。一緒にお願い」
「この先にどんなモンスターがいるか分からないですよ」
「じゃなくて、一緒に帰ってほしいんだけど」
俺は女を見下ろす。自分の願望を殺してまで、この女との関係性はないと判断した。
「帰るなら一人でどうぞ」
俺はそう言って、岩壁に囲われた道を進んだ。
「ちょっと酷くない?」
女は付いてくる様子はなかった。俺は先に進み、奥に十匹ほどのモンスターを発見した。先ほどのモンスターと異なり、マントを羽織り、杖を持っていた。杖に殺傷性があるのか分からないが、警戒して損はない。モンスターは口を開いて、何やら話しかけてきた。どうやら、金色のマントを羽織っているやつが、喋っているようだ。
しかしながら、そいつが何の言語を使っているのか分からない。俺はモンスターの集団に近付く。途端に日本語が飛んできた。
「この言葉は理解できるか?」
俺が立ち止まったのを見ると、モンスターは頷いた。
「先ほどの前衛部隊は全滅したのか?」
「悪いが、殺気があったので、命を頂戴した」
「そうか」
話しかけてきたやつと別のモンスターが言葉をあらげて杖を振ってきた。
炎が目の前に現れる。そして俺のほうに迫ってきたのだ。炎はひどく熱く、俺の幻覚ではなさそうだ。この現象は、先ほどの杖を大きく振ったモンスターのせいだろうか。
どんな手品を使ったか分からないが、そのモンスターに目掛けて走っていき、身体を側転して宙に浮いた。そのまま飛び蹴りをすると、杖を振ったモンスターには当たらなかったが、そいつは悲鳴を上げて尻もちを付いた。
「ところで」
大きな声で制された。
「一つだけ尋ねたいのだが」
金色のマントを羽織ったモンスターが聞いてきた。
「どんな強化魔法を使ったらそんな体術を扱えるのだ?」
疑問を投げ掛けられ、戦う気を無くす。
「戦う気はないのか?」
「我々で敵う相手ではない気がする。だから命を掛けてまで戦う気はない」
モンスターはそう言うと、何やら周りのモンスターに説得し始めているようだった。モンスター達の話が終わると、金色のマントが俺に向かい合う。そして疑問に答えることにした。
「その、魔法というのか。俺は空手の稽古修行をしてきた。だから強いのかもしれない」
「空手、そんな技術があるのか」
モンスターは指を差した。
「この先にずっといったところに、我々の村がある。そこに門番のゴーレムがいる。そいつと戦ってみるがいい。倒したら奥に宝が眠っている」
「宝には少し興味はあるが、そのゴーレムは強そうだな」
「そこにいる他の人間も仲間なのか?」
振り向くと、女が顔を半分だけ岩肌から覗かせていたのだった。
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