4
「私は……」リジーは辛い表情で、幽霊たちを見た。「私はあの霊媒師のやりたいようにやらせようと思う。我々はあの世に行く。それで――いいだろう?」
幽霊たちの間から、戸惑いと賛成と、入り混じる声が上がった。執事が、リジーの前に進み出た。
「それでよろしいのですか、お嬢様」
「ああ、よいのだ」リジーはなるべく明るく力強く、執事に言った。「どちらにしろこの世とはもう別れることを決めていたのだ。我々は――たしかに歳をとりすぎた」
最近の若者――リジーはアンジェラの顔を思い浮かべる。アンジェラは――まあ、若くはないな。この屋敷の築年数を考えると。けれども「推し」とか……。なんだかよくわかんないし……。うん、たしかに私は最近の若者についていけてない……。
幽霊たちがリジーの言葉にざわめいていると、突然扉が開かれた。そこに立っていたのは、寝巻姿のアンジェラだ。
アンジェラはひどく具合が悪そうだった。顔が真っ青だ。力を振り絞ってここまで来たようで、もはやその力もつき、崩れるようにへたりこんだ。
「アンジェラ!」
驚いてリジーがアンジェラのそばに行く。助けようと、手をさしのべると、アンジェラがそれに寄り掛かった。
「霊媒師が……悪しき者を、この世ならざる者を追い払おうとしてるの……。私も人間の姿が保てそうにない……」
アンジェラは人間ではないのだ。建物なのだ。リジーははっとした。霊媒師の力はアンジェラにも及んでいる。
「私……最後にあなたに会いたくて……」
アンジェラはリジーの腕に顔を埋めた。他の幽霊たちもいつのまにかやってきて、不安そうに二人を見ている。
アンジェラが目を閉じる。心なしかアンジェラの体が軽くなっているように感じる。リジーはアンジェラの背中に手を回した。そして決心した。
――――
アンジェラは目を覚ます。
私は――そうだ、霊媒師が来たのだ。人間の姿が消えてしまいそうになって恐ろしくて、私はリジーのところへ行ったのだ。それから――どうなったっけ? そう気を失ったのだ。リジーの腕の中で……。
推しの腕の中で息を引き取る……。うん、最高じゃないかしら。最高の最期よね。で、そういうことがあったということは、私は死んだのかしら。でも私って建物なわけだから、そもそも命ってあるのかしら。
そこまで考えて、アンジェラは目の前にあるものをまじまじと見た。目の前に広がっているのは、屋敷の自分のベッドの天蓋部分だ。そしてその体は、ベッドの中で横たわっている。……人間になってから何度かこの屋敷で迎えた、いつもの朝だわ。
「おはよう」
声がした。アンジェラは慌てて飛び起きた。ベッドのそばには――リジーがいる。
「ど、どうして!?」
慌てふためくアンジェラにリジーは静かに言った。
「霊媒師の力は私が無効化しておいた」
「助けてくれたの?」
「そういうことになるが、これは我々のためでもあるのだ。我々もあの世には行きたくないので……」
「ありがとう!」
アンジェラはリジーに抱きついた。リジーが声を上げる。
「ま、待ってくれ!」
「ごめんなさい!!」
アンジェラは慌てて離れた。私ったら、私ったら、また推しに対して失礼なことを――。
「いや……いいんだ。驚いただけで怒ってない」
リジーはアンジェラに向かって笑う。照れくさそうに。そしてリジーのほうからアンジェラに近寄った。
「私は――」リジーはアンジェラを見つめながら言う。「長いこと幽霊として暮らしていて、えーっと、人と触れ合うということはなくて、それで人の感触というものが新鮮で、えっと、でも……」
リジーは恥ずかしそうに視線をそらした。そしてやや小さな声で言葉を続けた。
「でも……悪くないものだな、人の体温や重みというものは」
アンジェラは嬉しくなった。けれども何をどう言っていいのかわからない。リジーが再びアンジェラを見、手を伸ばす。アンジェラもそれに応えるように手を伸ばし、二人はいつしか手をつないでいた。
「私、あなたにお礼がしたいな」
アンジェラが言った。
「お礼?」
「そう。なんでもいいから言って」
「……うーん……」
リジーが考えている。そして決まり悪そうに口を開いた。
「このドレスにちょっと飽きてるんだ。ずっとおんなじもので、たまには他のものが着たいな、と。これは古臭すぎるだろう?」
「そんなことない!」アンジェラは陽気に声をあげた。「でもあなたはかわいいからいろんなものが似合うと思う! そうね、私の魔力を使えば、あなたの服装を変えることができるかも! ああ、楽しみ! いろんな推しの姿を見れるなんて!!」
リジーは苦笑いしている。けれども、アンジェラから手を離すことはなかった。
外は明るい光に満ちていた。霊媒師は満足して帰っていった。たしかに満足する理由はあったのだ。それ以来、この屋敷で幽霊たちがスーザンを脅かすことはなかったのだから。
けれども幽霊たちは、人間の姿を得た屋敷とともに、その後も幸せに暮らしたのであった。
リジーちゃんはあきらめないっ! 原ねずみ @nezumihara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます