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こちらから何かを言うべきか? 魂が震え上がりそうなことを……。リジーが口を開くと、それより先にアンジェラが言葉を発した。
「……やっと……会えた」
それは恐怖でも混乱でもなかった。嬉しさと感動に満ちた言葉だった。アンジェラは起き上がり、さらに熱心にリジーを見つめた。
そして涙を流したのだ。それはどうも感動の涙であって――やはり恐怖ではなかった。
――――
アンジェラは流れる涙を拭う。リジーは混乱していた。なぜ泣いてるんだ? やっと会えたとはどういうことか?
「ずっと会いたかったの……」
アンジェラは涙でうるんだ目でリジーを見上げた。リジーはますます混乱し、わずかに身を引いた。
「あなたをずっと見ていたの……。でもあなたは私に気づくことはなかった。それでいいって思ってたの。でもやっぱり辛くて……!」
何を言っているのだろう。リジーにはさっぱりわからない。とりあえず、こちらも何か言うべきかと思った。でも何を言えばいいのだろう。
「私は……幽霊」
よくわからないので、変な自己紹介になってしまった。アンジェラがたちまち笑った。
「知ってるわ! そんなこととっくに知ってる! だって私はずっとあなたを見てきたのだもの! 300年間も!」
そう言ってアンジェラはぎゅっとリジーの手を掴んだ。リジーは驚いた。自分は幽霊で、気体のような体をしている。人間が自分に触れることはできないはずだ。
「……! どういうことだ!?」
この少女は何者なのか? リジーは反射的にアンジェラの手を振り払った。アンジェラがたちまちおどおどとした態度になった。
「ご、ごめんなさい! いきなり手を触ったりして……。失礼よね、私、すごく浮かれてて……」
幽霊に会って浮かれるとはどういうことなのか。いや、その前に、このアンジェラという少女は何者なのか。
「お前は……何者なんだ?」
リジーは尋ねた。半ば、恐れを抱きながら。癪だ。怖がらせる側が、逆に怖がっているとは。
「私は――この屋敷が、人間の形になったもの」
「この……屋敷?」
アンジェラの言葉にリジーは混乱する。アンジェラは背中を伸ばしてベッドの上に座り、真剣な眼差しでリジーを見つめた。
「そう。私はこの屋敷。この屋敷そのものなの。でも人間になりたくて――あなたに会いたくてこの姿になったの」
「私に会う?」
「あなたは――私の推しなの!」
推し。なんだか新しい言葉が出てきた。大体意味は知ってるけれども。リジーはまたわずかにアンジェラから遠ざかった。
アンジェラは自分の胸の前で両手を合わせ、陶酔したようにしゃべりだした。
「私は、つまり、この屋敷は400年近くにわたり存在してきました。いつしかそこに幽霊が住むことになったの。その幽霊はもともとここに住んでいたかわいい女の子。幽霊になってもかわいかったわ……。私はその女の子の活躍を眺めていた……。その女の子こそ、あなた、リジーよ!」
「あ、うん……」
アンジェラのテンションが高い。けれどもリジーはついていけない。
「あなたは……いつしか私の推しとなっていた。ほら言うじゃない? 壁になって推しを見守りたい、って。私は比喩でもなんでもなく壁だった……。でも壁は辛い! こんなに近くにいるのに、あなたは私の存在にちっとも気づいてくれない。で、私は人間になりました。300年の間、魔力をためてね」
そう言ってアンジェラはリジーにウインクした。どうやらお茶目な人のようだ、とリジーは思った。
悪い人間ではない……のだと思う。いや、人間じゃないのか。屋敷なんだから。建物だ。しかし……まあしかし悪い建物ではないだろう。
リジーはどうしていいかわからず、とりあえず、不器用に微笑んだ。
――――
それから数日後のことだった。事件が起こった。幽霊たちの騒動に参ったスーザンが霊媒師を呼んだのだ。
今までにも霊媒師やそういった類の人間がやってきたことはある。けれども彼らはいんちきか、または力の弱い者たちだった。しかし今度は本物なのだ。その影響はたちまち幽霊たちに及んだ。
夜、幽霊たちがリジーの寝室に集まった。一体どうすべきか……これからのことを相談するために。そこにはもちろんリジーもいた。
リジーもやや気分が優れなかった。ひどく苦しいわけではない。霊媒師はたしかに本物だが、こちらが全力を出せば、相手に勝つことはできるだろう。けれども……リジーはそうする気があまり起きなかった。
もしあの霊媒師を放っておけば」リジーは幽霊たちに言った。「我々はあの世へ行くことになるだろう……」
リジーをのぞく幽霊たちはあの世に行きたがっている。だから、霊媒師のやることに反対しようとする者はいないはずだ。
リジーをのぞいては。
私は……リジーは思う。私はそう、あきらめるつもりだった。この世にとどまることを。アンジェラたちがここから引っ越せば、我々はみなあの世に行くのだ。それが少し早まったところで、何か問題があるだろうか。
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