【第十章: 修学旅行 — 京都の三日間】

桜ヶ丘高校の2年生の修学旅行は、秋の終わりに京都へ。3泊4日の日程で、班別行動がメイン。健とあかりは、くじ引きの結果、奇跡的に同じ班になった。班メンバーは他に田中裕太、山田花子、高橋美咲、そしてクラス委員の真面目な男子・鈴木大輔(あかりとは遠い親戚だが同姓のみ)。

出発の日、新幹線ホームで集合。あかりは少し大きめのリュックに、お土産用のスペースをしっかり確保してワクワクしている。健はいつものように少し遅れて駆け込んでくる。

「すまん! 駅で迷子のおばあちゃんを改札まで送ってたら……」

あかりは苦笑いしながら、健のリュックを軽く叩く。

「もう、修学旅行の日くらい早く来てよ。でも……健くんらしいね」

裕太がニヤニヤしながら割り込んでくる。

「はいはい、ラブラブは後にして乗車ー!」

新幹線の中。座席は班で固まっていて、健とあかりは隣同士。窓の外を紅葉の山々が流れていく。あかりはガイドブックを開きながら、

「金閣寺と清水寺は班行動だけど、自由行動の日もあるよね。一緒にどこ行きたい?」

健は少し照れながら、

「俺、京都詳しくないけど……あかりが行きたいとこならどこでもいいよ。あ、あと甘いもの好きだから、八つ橋とか食べたい」

あかりがくすくす笑う。

「じゃあ、夜の自由時間に祇園あたり散策して、甘味処探そうか」

『1日目 — 到着と金閣寺』

京都駅に着き、バスで宿へ向かう。宿は嵐山近くの老舗旅館。夕食は豪華な懐石料理で、みんな大興奮。

夜、班ごとの部屋割り。男子部屋で裕太が健をからかう。

「健、お前今夜あかりちゃんの部屋に忍び込むつもりだろ?」

健が枕を投げつける。

「バカ言え! 先生の見回り厳しいって聞いてるぞ」

一方、女子部屋では花子と美咲があかりを囲む。

「あかり、健くんと同じ班でよかったね〜。もう半年以上付き合ってるのに、まだ初々しいよね」

あかりは布団に顔を埋めて、

「もう……恥ずかしいよ。でも、健くんと一緒に京都に来れて嬉しい」

『2日目 — 清水寺と自由行動』

朝から清水寺。舞台からの眺めは絶景で、紅葉が燃えるように美しい。班で写真を撮りまくる。

その後、班別自由行動。健とあかりは少し班から離れて二人で歩く。三年坂、二年坂の石畳を手を繋いで歩き、おみやげ屋さんを覗く。

あかりが可愛いかんざしを見つけて、

「これ、似合うかな……?」

健が即座に、

「似合う! 買おう、俺が出す」

「え、でも高いよ……?」

「記念だろ。修学旅行の」

健が笑顔でレジへ。あかりは後ろからぎゅっと健の腕を抱きしめる。

昼食は湯豆腐の老舗で。個室で二人きりになり、ちょっとドキドキ。

「健くん、京都似合うね。なんとなく、侍みたい」

健が照れ笑い。

「目つきが源頼光みたいってか? ……あかりは、京美人って感じ。ほんとに綺麗」

あかりの頰が赤くなる。二人は静かに手を重ねて、しばらく見つめ合った。

夕方、班に合流して東福寺へ。塔頭の一つで座禅体験。静かなお堂で、健とあかりは隣に座る。座禅中、健が小声で、

「……足しびれた」

あかりが吹き出しそうになって、必死にこらえる。

『修学旅行 — 京都の波乱』

修学旅行の2日目夜。旅館の宴会場で班ごとのレクリエーションが終わった後、みんなはそれぞれの部屋に戻る時間だった。

健は男子部屋で裕太や大輔と布団を敷きながら、ふと時計を見た。もう23時近く。先生たちの見回りが始まる頃だ。

そんな時、女子部屋から花子が慌てて男子部屋のドアをノックしてきた。

「健くん! 大変! あかりがいないの!」

健の顔色が変わる。

「え……どういうこと?」

花子が息を切らしながら説明する。

「さっき大浴場に行ったって言って出て行ったんだけど、30分経っても戻ってこなくて……美咲と探したけど、女湯にはいないし、フロントにも見てないって」

健は即座に立ち上がり、スマホを手に取る。あかりのLINEには既読がつかない。

「俺、探してくる」

裕太が心配そうに、

「でも先生に見つかったら停学ものだぞ……」

「構わねえ」

健は廊下に飛び出した。

旅館の廊下は静まり返り、畳の匂いが濃く漂う。健はまず大浴場の入り口へ。女湯の脱衣所はもう閉まっていて、中は真っ暗。フロントのおばさんに聞くと、

「最後の入浴のお客様は1時間前に上がられましたよ」

次に、旅館の庭園へ。月明かりの下、池の鯉がゆったり泳いでいる。誰もいない。

不安が募る。健はあかりに電話をかけるが、電波が悪く繋がらない。京都の山間部にある旅館だからか、圏外表示が出る。

その時、旅館の裏手にある小さな神社の方から、かすかな声が聞こえた。

「……誰か……」

健は走る。石段を上り、鳥居をくぐると――

あかりが、神社の石段の下で座り込んでいた。足首を押さえ、顔をしかめている。

「あかり!」

健が駆け寄る。あかりは驚いた顔で健を見上げ、すぐに涙目になった。

「健くん……ごめん、心配かけた……」

どうやら、大浴場を出た後、少し夜の庭を散歩していたあかりが、暗い石段で足を滑らせて捻挫してしまったらしい。スマホは湯船の近くに置き忘れ、動けなくなって30分以上そこで座っていたという。

健はあかりの足首をそっと触る。腫れ始めている。

「痛いか?」

「うん……ちょっと。歩けないかも」

健は迷わず、あかりをおんぶした。

「え、健くん!?」

「静かに。先生に見つからないように戻るぞ」

あかりは恥ずかしそうに健の首に腕を回す。健の背中は温かく、安心感でいっぱいだった。

「ごめんね……せっかくの修学旅行で、迷惑かけちゃって」

健は小声で、

「バカ。迷惑なんかじゃねえよ。あかりが無事でよかった」

旅館に戻る途中、見回りの先生の懐中電灯の光が見えた。健は素早く物陰に隠れ、あかりを抱えたまま息を潜める。先生が通り過ぎるまで、二人はぴったりと寄り添っていた。あかりの心臓の音が、健の背中に伝わる。

無事に女子部屋の近くまで戻り、花子と美咲がドアを開けて待っていた。二人はあかりを見てホッと胸を撫で下ろす。

部屋の中で、健はあかりを布団まで運び、フロントから借りてきた氷と包帯で応急処置をする。

「明日、病院行こう。ちゃんと診てもらわないと」

あかりは健の手を握って、

「ありがとう……健くんが来てくれて、本当に安心した」

花子が小声で、

「もう、まるで王子様とお姫様……」

美咲が頷く。

「健くん、かっこよかった……」

健は照れくさそうに頭を掻き、

「早く治せよ。明日は嵐山行くんだろ? おんぶしてでも連れてくから」

あかりが涙を浮かべて笑う。

「うん……健くんに、ずっとおんぶされてたいかも」

『翌日 — トラブル後の甘い時間』

朝、先生に事情を説明し、あかりは近くの病院へ。軽い捻挫で、松葉杖とテーピングで済んだ。班行動は問題なく参加できるが、長時間の歩行は控えるように言われた。

3日目の嵐山観光。健はあかりの松葉杖を持ち、荷物も全部背負い、休憩ごとにベンチを探して座らせる。竹林の小径では、健がまたあかりをおんぶした。

「あかり、重くない?」

「全然! 健くんの背中、好きだよ」

周りの班員がからかう。

裕太「もう完全に新婚さんじゃん」

花子「写真撮ろ撮ろ! 最高の思い出!」

渡月橋では、みんなで記念写真。健がおんぶしたままのあかりと、紅葉をバックに最高のショットが撮れた。

夜の帰りの新幹線。あかりは健の肩に頭を預け、松葉杖を横に置いて眠る。

健はそっとあかりの髪を撫でながら、心の中で思う。

――トラブルがあったからこそ、もっとあかりの大切さがわかった。

どんなことが起きても、俺が守る。

修学旅行は、少しの波乱を乗り越えて、二人の絆をさらに深くした。

京都の思い出に、甘くて少し痛い、でも最高のエピソードが加わった。

桜ヶ丘高校の恋物語は、どんな困難も二人でなら乗り越えられる――

そんな確信を、胸に刻んで。

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