【第九章: 文化祭の魔法】

桜ヶ丘高校の秋は、文化祭の季節で一番賑わう。

今年のテーマは「桜ヶ丘☆夢祭」。校庭には屋台が並び、校舎内は各クラスの出し物で溢れていた。2-Aは「お化け屋敷」、2-Bは「メイド&執事カフェ」。準備期間から、健とあかりはほとんど毎日のように放課後一緒に残っていた。

「お化け屋敷の演出、もっと怖くしたいんだけどさ……」

健が美術室でガイコツの模型にペンキを塗りながら言う。あかりは隣でメイド服の試着を終えたばかりで、頰を赤らめながら健の横に座る。

「健くん、血のりつけすぎだよ。怖がりの子が本気で泣いちゃう」

「でも俺の目つきだけで十分怖いって裕太が言ってたぞ。俺、出演しなくていいって」

健が自嘲気味に笑うと、あかりはそっと健の手に自分の手を重ねた。

「私は健くんの目つき、大好きだけどね。優しい目だって、ちゃんとわかるよ」

文化祭前夜。準備が終わり、校庭で花火のテストが行われていた。二人は屋上からそれを見上げている。

「明日、忙しくなるね」

あかりが呟く。健はあかりの肩を抱き寄せ、

「でも、楽しみだよ。あかりのメイド姿、ちゃんと見たいし」

「もう……恥ずかしいんだから」

あかりが顔を埋める。夜空に小さな花火が弾け、二人の影が重なる。

『文化祭当日』

朝から校内は大盛況。来場者で溢れ、笑い声と音楽が響き渡る。

まず、健は2-Aのお化け屋敷に立つことになった。役は「最後のボス幽霊」。黒いマントを羽織り、顔に白いメイクをして薄暗い部屋の奥に座る。鋭い目つきが逆に効果抜群で、入ってきたお客さん(特に女子生徒)は悲鳴を上げて逃げていく。

「きゃあああ! 佐藤くん怖すぎ!!」

「本物の幽霊かと思った……!」

田中裕太が控室で大笑い。

「健、お前マジで需要あるぞ。来年もこれでいこうぜ」

健はメイクの下で苦笑い。

「疲れるわ……早くあかりのとこ行きたい」

一方、2-Bのメイド&執事カフェは大行列。あかりは黒と白のメイド服に身を包み、トレイを持って笑顔で接客している。長い黒髪にヘッドドレス、フリルのスカートが揺れるたび、周りの男子生徒がどよめく。

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

あかりの優しい声と完璧な笑顔に、客たちはメロメロ。山田花子が執事服で隣に立ち、

「あかり、今日やばい人気。もうチケット完売しそう」

高橋美咲も慌ててオーダーを運びながら、

「でも、あかりの一番のご主人様は健くんだけどね〜」と小声でからかう。あかりは真っ赤になりながらも、嬉しそうに頷く。

『二人の再会』

お化け屋敷のシフトが終わった健は、メイクを落として2-Bのカフェにやってきた。入り口で並んでいた男子生徒たちを横目に、スタッフ入り口からこっそり入る。

あかりがちょうどトレイを置いたところで、健と目が合う。

「健くん……! 来てくれた」

メイド服姿のあかりを間近で見て、健は一瞬固まる。

「……かわいすぎて、死にそう」

小声で呟くと、あかりが慌てて周りを見回す。

「もう、声が大きいよ……!」

休憩時間。二人は裏庭のベンチに座る。あかりは健に手作りのクッキーを差し出す。

「カフェのメニューに入れたんだ。健くんの好きなチョコチップ」

健は一口食べて、目を細める。

「最高……あかりが作ったってだけで、もう」

あかりは少し照れながら、健の頰に付いたメイクの残りを指でそっと拭う。

「まだ少し白いよ。お化け屋敷、楽しかった?」

「怖がらせすぎて悪い気もしたけど……みんな喜んでたみたいでよかった。でも、正直あかりに会いたくて早く終わらせた」

その時、校内放送が流れる。

「次は生徒会主催の『カップルコンテスト』です! 参加希望のカップルはステージへ!」

花子と美咲が突然現れて、二人の腕を引っ張る。

「行きなよ〜! 絶対優勝できるって!」

「え、ちょっと待って……!」

あかりが抵抗するが、健は笑って立ち上がる。

「いいじゃん。一緒に出ようぜ」

『カップルコンテスト』

ステージの上。照明が明るく、観客席は満員。他のカップルが次々と自己紹介やパフォーマンスをする中、健とあかりの番。

司会の生徒会長がマイクを向ける。

「それでは、2年佐藤健くんと鈴木あかりさん! お二人の馴れ初めをどうぞ!」

健がマイクを握り、少し緊張しながらも明るく話す。

「俺、目つき悪くて学校じゃ誤解されてばっかだったんですけど……あかりが、ちゃんと俺のことを見てくれて。助けてくれたんです。俺の方が、いつもあかりに助けられてるけど」

あかりがマイクを受け取り、優しく続ける。

「健くんは、毎日誰かを助けてるんです。街中で困ってる人を見ると、放っておけないって。それを知ってから、私……どんどん好きになりました。健くんは私のヒーローです」

観客席から大きな拍手と歓声。裕太が一番前で指笛を吹いている。

最後の質問。「お互いに一言どうぞ!」

健があかりの手を握って、はっきりと言う。

「あかり、いつもありがとう。これからも、ずっとそばにいてくれよ」

あかりの目が潤む。

「健くん、私も……大好きだよ。ずっと、一緒にいたい」

会場がどっと沸く。審査の結果、見事優勝。賞品は「校内どこでも使えるフリーパス券」と、巨大なクマのぬいぐるみ。

『夜のフィナーレ』

文化祭の締めくくりは、校庭でのキャンプファイヤー。生徒たちが輪になってフォークダンスを踊る。

健とあかりは、ぬいぐるみを抱えながら輪の中へ。炎がゆらゆらと揺れ、二人の顔を赤く照らす。

音楽が流れ、手を繋いでステップを踏む。ときどき目が合って、照れ笑い。

ダンスが終わると、二人は少し離れたベンチに座る。頭上には満天の星。

「今日は楽しかったね」

あかりが健の肩に頭を預ける。健はあかりの髪を優しく撫でながら、

「最高の一日だった。あかりと一緒にいると、毎日が文化祭みたいだよ」

あかりが顔を上げて、健の目を見つめる。

「私も。健くんと出会えて、本当に良かった」

炎の向こうで花火が上がり、夜空を彩る。二人は自然と唇を重ねる。柔らかく、温かく、甘いキス。

周りの歓声もBGMも遠く感じるほど、世界に二人しかいないような時間。

文化祭は終わったけれど、二人の恋はこれからも、もっともっと輝いていく。

桜ヶ丘高校の秋は、甘く熱い思い出でいっぱいになった。

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