借金1400万の俺、マグロ漁船に乗る直前に『サーモン狂いの天才令嬢』に拾われました。 〜ミステリーは彼女が解く。俺は物理で死なないように頑張る〜
第2話(後編) 家宝『黄金の鮭』が消えた? いや、そもそもなぜ鮭を金にした。
第2話(後編) 家宝『黄金の鮭』が消えた? いや、そもそもなぜ鮭を金にした。
「それではこれより、第一回『犯人は誰だ会議』を開催します!」
西園寺家の広間。 アリスが踏み台(なぜか跳び箱の1段目)の上に立ち、高らかに宣言した。
俺、赤城カケルは、その横でホワイトボード係をやらされている。 目の前には、セバスチャンによって招集された3人の容疑者が並んでいた。
「……なぁアリス。こいつらが容疑者か?」
「ええ。全員、我が家が誇る『精鋭』たちですわ」
俺は改めて3人を見渡した。 そして確信した。 こいつら、全員ヤバい。
一人目は、白衣にねじり鉢巻の寿司職人風の男。 だが、なぜか目隠しをしている。
二人目は、派手なネイルに金髪のメイド。 仕事中のはずだが、スマホに向かってピースサインをしている。
三人目は、作業服を着た巨漢。 手にはスコップを持ち、床をじっと見つめている。
(……動物園かここは?)
「では一人ずつ尋問します。まずは料理長、
「うむ……!」
目隠しをした男が一歩前に出る。 渋い声だ。いかにも職人という風格がある。
「貴方が昨夜、厨房で『ドンドン』という不審な音を立てていたという証言があります。何をしていたのですか?」
「……調理だ」
「何を?」
「マグロだ」
俺は首を傾げた。
「あの、すみません。なんで目隠ししてるんですか? 危なくないですか?」
源三は俺の方(だと思われる方向)を向き、重々しく答えた。
「拙者、魚恐怖症でな」
「はい?」
「魚の目を見ると、怖くて失神してしまうのだ。ゆえに、こうして心眼で調理するしかないのである!」
「料理長失格だろ!!」
俺はホワイトボードのペンを投げそうになった。 魚恐怖症の寿司職人? なんだその矛盾塊は。
「しかし、心眼は万能ではない……。昨夜もマグロを解体しているつもりだったが、気づけば指を詰めそうになった」
「やめちまえよ仕事を!」
アリスがうんうんと頷く。
「源三の料理は絶品ですのよ? たまにビニール片とか入ってますけど」
「それ心眼で見えてないだけだろ!」
俺はため息をつきながら、ホワイトボードに『料理長:魚が怖い(=鮭を盗む動機がない?)』と書き込んだ。 いや待てよ。 逆に「鮭が憎くて盗んだ」という可能性もあるか?
「次はメイドの星野キララ!」
「うぃ〜っす」
ギャルメイドが気だるげに手を挙げた。 片手には自撮り棒を持っている。
「キララ、貴方は昨夜、屋敷内を徘徊していたそうですね?」
「あー、それな。てか、今ライブ配信中なんで挨拶してくんない? 『西園寺家のとんでもお嬢様』ってタイトルで釣ってるからさ〜」
キララはスマホをアリスに向ける。
「みんな〜! こいつがウチのヤバいお嬢様だよ〜! 鮭が盗まれてマジ凹み中! ウケる〜!」
「コラ! 勤務中に配信するな!」
俺が注意すると、キララは舌を出した。
「うるせーな借金男。スパチャ投げてから文句言えよ」
(こいつ、俺の情報まで握ってやがる……!)
「キララ、真面目に答えなさい。貴方が徘徊していた時、不審な人物は見ませんでしたか?」
「んー? あー、そういえば」
キララは指を顎に当てて考えるポーズをとる。
「なんか〜、廊下の隅で『モフモフした塊』が動いてるの見たかも〜」
「モフモフ?」
俺とアリスは顔を見合わせた。
「それって、着ぐるみみたいな?」
「知らな〜い。オバケかと思ってスルーしたし。映えそうにないし」
重要な証言だ。 現場に残された「着ぐるみのような足跡」。 キララの証言はそれと一致する。
「……なるほど。では最後、庭師の
「…………」
巨漢の男がのっそりと前に出る。 無口だ。 だが、その目は危険な光を宿している。
「土門、貴方は裏口の鍵を管理していますね? 昨夜、鍵を開けましたか?」
「…………穴」
「え?」
「穴を……掘っていた……」
土門はうっとりとした顔でスコップを撫でた。
「昨日は最高の土だった……。柔らかく、湿り気があり……3メートルほど掘ったところで、地底人の声が聞こえた気がした……」
「ただのヤバい奴じゃねーか!!」
俺は一歩後ずさった。 こいつが一番危険だ。
「アリスお嬢様……。この庭師、解雇したほうがいいんじゃ……」
「土門は優秀ですわよ? 落とし穴を作らせたら右に出る者はいません。防犯対策に最適です」
「普通の庭師を雇ってくれ!」
俺は頭痛をこらえながら、ポケットから例の証拠品を取り出した。 現場に落ちていた「剛毛」だ。
「……おい、土門。これに見覚えはないか?」
俺は剛毛を彼に見せた。 さっきアリスが言っていた通り、この毛からは微かに「土の匂い」がする。 こいつが犯人なら、状況証拠と一致する。
土門は剛毛をじっと見つめ、鼻をひくつかせた。
「……違う」
「え?」
「俺の毛じゃない……。これは……ケモノの毛だ……」
「ケモノ?」
「ああ……。俺が掘った穴の近くに……時々、こういう毛が落ちている……。二本足で歩く、デカいケモノの……」
(二本足で歩くケモノ……?)
料理長の「魚恐怖症」。 メイドの「モフモフした塊」目撃情報。 庭師の「二本足のケモノ」発言。
すべての証言が、一つの奇妙な像を結ぼうとしていた。 だが、それが何を意味するのか、常識人の俺にはさっぱりわからない。
「ふふふ……」
その時、アリスが不敵な笑みを漏らした。
「繋がり……ましたわ!」
「えっ、わかったのか!?」
「ええ! 犯人はこの中にいます!」
アリスはビシッと3人を指差した。
「犯人は……料理長、板前源三! 貴方ですわ!」
「な、なんだと!?」
源三が(目隠しのまま)驚愕する。
「理由は簡単です。貴方は魚恐怖症だと言いましたが、それは嘘! 本当は魚を愛しすぎるがゆえに、誰にも渡したくなかったのです! だから黄金の鮭を盗み、自分の部屋でこっそり愛でているのでしょう!」
「ち、違う! 拙者は本当に怖いのだ! 鮭なんて名前を聞くだけで鳥肌が……!」
「往生際が悪いですわね! カケル、彼を捕まえなさい!」
「いや待てアリス! 推理が雑すぎるだろ!」
俺が止めようとしたその時だった。
ズドォォォォォン!!
屋敷全体が揺れるような轟音が響いた。
「な、なんだ!?」
全員が体勢を崩す。 メイドのキララがスマホを落とし、庭師の土門がスコップを構える。
「地震か!?」
「いいえ……!」
アリスは青ざめた顔で窓の外を指差した。
「あれを見てください!」
俺たちが振り返った視線の先。 屋敷の庭にある噴水が、粉々に吹き飛んでいた。
そして、その土煙の中から、ゆっくりと姿を現す影があった。
それは、クマだった。
いや、ただのクマではない。 サングラスをかけ、背中にロケット花火のようなものを背負った、二足歩行のクマの着ぐるみだった。
「……は?」
俺の思考が停止する。
クマ(着ぐるみ)は、片手に拡声器を持ち、屋敷に向かって叫んだ。
『――聞こえるか、西園寺家の諸君! 我々は「秘密結社くまさん」である! 要求した鮭の中に隠された「マイクロチップ」が見つからん! 隠し場所を言わねば、この屋敷を更地にしてやるクマァ!!』
「……しゃ、喋ったァァァァッ!?」
俺の絶叫が広間に響く。
アリスは勝ち誇った顔で言った。
「ほらご覧なさいカケル! 私の言った通り、『密室獣害事件』でしたわ!」
「どこがだよ! あきらかに中に人が入ってるだろアレ!」
「しかもマイクロチップですって? ……はっ!」
アリスは何かを思い出したように、ハッと息を呑んだ。
「まさか……お父様が言っていた、『鮭の目玉にはスイス銀行の隠し口座の鍵が入っている』というのは本当でしたの……?」
「重要な情報を今さら出すなァァァッ!!」
状況は最悪だ。 タイムリミットは明日の正午。 容疑者は変人だらけ。 そして外には、武装した(?)クマの着ぐるみ集団。
俺の借金返済計画は、もはや風前の灯火。 いや、それどころか命の灯火が消えそうだ。
『カウントダウンを開始するクマ! 3、2、1……』
「待て待て待て! 早すぎるわ!」
俺はアリスの手を引いて走り出した。
「とにかく逃げるぞ! このままだと屋敷ごとミンチだ!」
「嫌ですわ! 私の鮭ちゃんを取り戻すまでは!」
「命あっての鮭だろ! 行くぞゴキブリお嬢様!」
「あら、褒め言葉ですわね!」
爆発音と怒号が飛び交う中、俺たちの本当の戦い(とドタバタ)はここから始まるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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