借金1400万の俺、マグロ漁船に乗る直前に『サーモン狂いの天才令嬢』に拾われました。 〜ミステリーは彼女が解く。俺は物理で死なないように頑張る〜
第2話(前編) 家宝『黄金の鮭』が消えた? いや、そもそもなぜ鮭を金にした。
第2話(前編) 家宝『黄金の鮭』が消えた? いや、そもそもなぜ鮭を金にした。
「いいですか、カケル。タイムリミットは明日の正午までです」
西園寺アリスは、空っぽのガラスケースの前で仁王立ちしながら宣言した。 その表情は、世界の終わりを告げる予言者のように深刻だ。
「明日の正午? なんでまたそんな中途半端な時間に?」
俺が尋ねると、彼女は携帯端末の画面を突きつけてきた。
「見なさい、このフライト情報を。我が父、西園寺財閥の総帥が、スイスで開催されていた『世界サーモン愛好会』の定例会議から帰国されるのです!」
「どんな会議だよ! 世界のVIPが集まって鮭の話すんのか!?」
「お父様は、この『黄金の鮭』を溺愛しています。毎日寝る前に頬ずりをするのが日課なのです。もし帰国時に鮭がないとわかれば……」
アリスはゴクリと唾を飲み込んだ。
「ショックで寝込み、西園寺グループの株価は大暴落。私のお小遣いは凍結され、屋敷は差し押さえられ、貴方の借金を肩代わりした小切手もただの紙切れになるでしょう」
「待て待て待てェ!!」
俺は絶叫した。 連帯責任のスケールがでかすぎる。 俺の1400万の借金返済計画が、鮭一匹(金属性)にかかっているだと?
「つまり、俺たちは明日のお昼までに、このふざけた置物を取り返さないと死ぬってことか?」
「ふざけたとは失敬な。……まあ、要約すればその通りです。死ぬ気で働きなさい、借金まみれの助手さん」
アリスは優雅に微笑んだ。 その笑顔の裏に「失敗したら東京湾に沈める」という無言の圧力を感じて、俺は震え上がった。
◇
「さて、まずは現場検証ですわ!」
アリスは気を取り直し、ドレスのポケットから何かを取り出した。 それは、ピカピカと七色に発光する巨大な虫眼鏡だった。
「出でよ、探偵七つ道具その1! 『真実を映すハイテク・ルーペ』!」
「……ゲーミング虫眼鏡?」
「失礼な。これはLEDライトが内蔵されており、暗闇でも証拠を見逃さない優れものです。電池式で、連続稼働時間はなんと15分!」
「短っ!! カップラーメン5個作ったら終わるわ!」
アリスは俺のツッコミを無視し、ディスコのように点滅する虫眼鏡を床にかざした。
「ふむ……ふむふむ……」
彼女は這いつくばって床を調べている。 その姿は、獲物を狙う猫のようでもあり、コンタクトレンズを落とした人のようでもある。
「カケル、これを見てください」
アリスが指差したのは、例の『バナナの皮』だった。 黄色く、熟しており、そして無残に踏みつけられている。
「このバナナの皮……ただのゴミではありませんわ」
アリスはLEDライトをバナナに密着させ、まぶしそうに目を細めた。
「見なさい、このシールを。『完熟王』……。高級バナナです」
「で?」
「犯人は、セレブな舌を持っているということですわ!」
「それだけかよ!!」
俺は頭を抱えた。 そんな推理、小学生でも言わないぞ。
「いや、待てよアリス。これ、踏まれた跡があるよな?」
俺はバナナの皮をよく観察した。 茶色く変色した部分に、くっきりと何かの跡が残っている。
「靴跡……じゃないな。これ、裸足か?」
「いいえ、カケル。よく見て。指の跡がありません」
アリスが指摘した通り、そこには指紋も足指の形もなかった。 ただ、丸くて平べったい、不思議な圧痕。
「まるで……着ぐるみのような、のっぺりとした足跡ですわね」
「着ぐるみ? 怪盗パンダだからか?」
「あるいは、犯人は足の裏がつるつるの人間かもしれません」
「どんな人間だよ! 床磨きでもしながら歩いてんのか!」
俺たちの推理(主に俺のツッコミ)が白熱する中、アリスが次なる遺留品へと移動した。 本命の証拠、ガラスケースの中に残された『半額シール付きの切り身』だ。
「これこそが最大の謎です」
アリスはピンセットを取り出し、慎重に切り身をつまみ上げた。 生臭い匂いが鼻をつく。
「なぜ犯人は、時価3億円の『黄金の鮭』を盗み、代わりに『1切れ98円の切り身』を置いていったのか?」
「交換条件……ってわけじゃなさそうだな。レートがおかしすぎる」
「しかもこの半額シール……近所のスーパー『激安王』のものですわ。昨日の日付になっています」
「犯人は庶民派なんだな」
「いえ、これはメッセージです。犯人からの挑戦状ですわ!」
アリスは切り身を高く掲げ、瞳を燃え上がらせた。
「『貴様らの黄金など、この切り身ほどの価値しかない』という、資本主義へのアンチテーゼなのです!」
「深読みしすぎだろ! 単に晩飯の買い物帰りに盗みに来ただけじゃないのか?」
「カケル、貴方はロマンが足りませんわね。もっとこう、劇的な動機を考えなさい」
アリスは不満げに頬を膨らませたが、ふと視線を床に向け、動きを止めた。
「……あら?」
「どうした?」
「これ……何かしら?」
彼女が拾い上げたのは、一本の毛だった。 だが、髪の毛にしては太すぎる。 針金のように硬く、真っ黒で、少し縮れている。
「……剛毛だな」
「ええ。人間のものとは思えません。まるで獣の……」
アリスと俺は顔を見合わせた。
現場に残された3つの遺留品。 1.着ぐるみのような足跡がついた高級バナナ。 2.庶民的な鮭の切り身。 3.獣のような剛毛。
「……なぁアリス。これ、犯人人間か?」
俺が恐る恐る口にすると、アリスはニヤリと不敵に笑った。
「ふふふ。面白くなってきましたわね。これは『密室殺人』ならぬ『密室獣害事件』の可能性が出てきました」
「事件のジャンルが変わってるぞ! 保健所に通報したほうが早くないか?」
「いいえ! これは探偵の領分です! セバスチャン!」
控えていた老執事が、音もなく現れる。
「はっ」
「屋敷内の使用人を全員、広間に集めなさい。犯人は……この屋敷の中にいる可能性が高いですわ!」
「御意」
セバスチャンが下がると、アリスは俺に向き直り、ビシッと指を差した。
「さあカケル、行きますわよ! これから容疑者たちへの尋問、もとい『魔女裁判』の始まりです!」
「冤罪を生む気満々だなオイ!」
俺はため息をつきながら、ハイテンションなご主人様の後を追った。 この時の俺はまだ知らなかったのだ。 集められた容疑者たちが、犯人以上に「濃い」メンツだということを。
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後編もありますのでぜひ読んでください!
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