第3話「それぞれの家路」

終電間際、山田はラグビー経験を活かして神田への改札口へ駆け抜ける。

それを見て、漠は思う。

「ああ、こういうところに片鱗があるんだなぁ」と。

岩村は、さっきまで山田をふざけて羽交締めにしたが、ヌルく解放してやった。


岩村の妄想録

痴呆について思う。水にも似た感情というか、とりとめもなく忘れていく。

美しいとさえ感じる。

私も迷惑をかけないなら、そうなりたい。ふと思うが、真剣ではない。四十歳を手前にして、思うことがこのようなものかと思うと、我ながら笑ってしまう。

「どうだって良いじゃない」が口癖であった二十代を通り過ぎると、どうしても他人の人生も歩むことになる。

「どこからが個か」。この答えを出した人はいるのだろうか。私は少なくとも模索中である。

話は変わるが、最近白髪が増えてきた。といっても、一般的にはほぼ黒髪である。鏡を見た時にキラリと光る白髪を見つける度に、宝石を発掘したような小さな喜びがあり、必死に抜く。

岩村には、披露しない類の妄想録が結構ある。

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