第2話「同窓会 ヌルいビール」
幹事の岩村は、いわゆる幹事キャラではない。場を仕切るのがうまいわけでも、声が大きいわけでもない。ただ少し寂しく、少し暇で、そういう理由だけで、こうした行事になると重い腰を上げて手配をする。今回も特別に何かがあったわけではない。端的に言えば、彼が寂しかったのだ。
岩村は、朝起きたら新聞を読むような大人ではない。ギリギリまで家でじっとしている。脳を軽くするんだと、自分に言い聞かせている。
岩村は考えるのが面倒なのか、店選びはいつも同じだった。三千五百円の飲み放題が付いた安い居酒屋。可もなく不可もなく、誰かが強く文句を言うほどでもない。結果として、毎回同じような席、同じような料理、同じような空気になる。
そして、いつもヌルいビールが出てくる。
漠はこのヌルいビールが苦手だった。冷えていないというだけで、妙に気持ちが緩む気がする。けれど同時に、ヌルいビールでなければ同窓会ではない、という感覚的な刷り込みもあった。冷えすぎていないことが、この集まりの正しさを証明しているようにも思えた。
岩村は決まって一人一人に「げーんき? ○○ちゃん」と言って回る。ちゃん付けは昔からやめろと言っても止めないので、もうそこにコメントする人はいない。
岩村は妄想録として文字を起こすことがあり、同窓会の度に酒の肴として披露する。
「大湊700kmの旅」
寒い日
電車の旅 心の旅
起きる度に進む線
価値あるもの 無価値なもの
線はひっくるめて続いていく
立ち止まる時の賑わい
忘れたい時の夕暮れ車窓
心は電車の駆動部に
やがて体は眠ったまま北へ北へ
終着駅への記憶
おぼろげな記憶
恥ずかし気にパシャリ
一枚の写真 そっと撮る
ここに意味なくやってきた
寝ぼけ眼でやってきた
その後、定番の決まりとして岩村の妄想録を学友が品評するが、「何しに行ったの?」と皆が笑う。漠も山田もつられて笑う。
漠は岩村のこういうところが憎めないと思う。漠は照れ屋なので、散文を披露するこの男を、少し違った目で見ている。
さて、山田はどうだろう。山田は「うん、うん」と頷きながら、眠りかけていた。
山田が書き留めたメモ
私はいつしか私達になっていた。
ラグビー部での四年間、拙くも愉しく過ごした日々を一言で表現すると、そうなる。
私達は特段熱心ではなかった。けれども、グラウンドの中に魂はあったと思う。ボールを握れば表情は変わったし、涙を流すこともあった。言ってみれば、涙を流す程度には取り組んでいた。
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