③ずっと一緒にいたかった-嘘つきの始まり-
居場所を失った年中の僕は、年長さんへと成長を遂げようとしていた。
そんな時、母親から提案があった。
「今短時部だけど、長時部さんの方にかえてみる?」
僕の幼稚園には両親が早く迎えに来れる短時部、
両親が共働きの時に所属する長時部があった。
また、かなり田舎だったため、それぞれ1クラスだけだった。
実はりんくんも、ほのかちゃんが居なくなってしばらく経った頃、
年中の途中で長時部に変えていた。
短時部でも交友関係が少しできてはいたが、
そこまで楽しくなかったこともあり、思い切って長時部に変えることにした。
結論から言うとあまりの環境の違いに驚いた。
長時部は園児同士で過ごす時間が多いせいか、
グループごとの「カースト」が既に存在していた。
そして「恋愛」というものも存在していたのだ。
あまりに大人びた場所に僕はついていけそうになかった。
ただ、僕も成長はしている。ゲート前でもう泣いていない。
頑張って話しかけようと、スーパーの広告を細く丸めて、
剣を作っている男の子に話しかけてみた。
彼の名前はあさぎくんだった。
あさぎくんは体は大きいがポワッとしていて、
訳隔なくクラスの子たちを紹介してくれた。
順番にクラスの子たちに自己紹介をしていく僕。
なぜかクスクスと笑いながらこちらを見ているグループがあった。
りんくんも輪の中に入っているグループだった。
なんでだろうと思いながらも、あさぎくんについてまわり、
そのグループにも自己紹介をしてみた。
すると、たかくんと呼ばれていた男の子が「ハイハイ」と
笑いながら返事をした。
何かしたかなと思い、りんくんの方を見てみるが目が合わない。
今日はもういいやと思い、あさぎくんとスーパー広告剣を一緒に作った。
次の日のお昼休み。
みんなが運動場に向かったので僕も行きたいと思い、
最後に教室をでて上履きから外靴へと履き替えようとした時だった。
靴が一足だけない。
あさぎくんが不思議そうにこちらを見ている後ろの方で、
見覚えのある4人がこちらを見ている。
たかくんたちだ。
何か知っているかなと思い、上履きで歩けるところのギリギリまで行き、
たかくんたちの元へ駆け寄ってみると、
物陰に見覚えのある靴が一足落ちていた。
拾い上げて不思議そうにしていたら、またクスクスと笑い声が聞こえる。
鈍感な僕も自覚した。これはハブられていると。
そんなことが数日続くことになったが、あさぎくんや、
あさぎくんが紹介してくれた子たちが仲良くしてくれたので、
僕はなんとか毎日をやり過ごすことができた。
ここ数日で分かったことがあるのだが、
たかくんは紛れもなくボスだった。
恋愛にキャーキャー言っている女子をみるとからかい、
女子と仲良くしている男子をからかい、
僕以外にもイジワルしてみたり。
祖父が地元の政治家らしく、
先生も保護者も注意するとめんどくさいことになるので、
多少のことは見逃すというスタンスだった。
そんな中、僕に対して好意を持ってくれる女の子が現れた。
名前はかなちゃん。
恋愛するとからかわれる環境下にあったため、
僕とかなちゃんは密かに手紙を交換する仲になった。
ただ幼少期の恋心はうまく隠すことができず、
自由時間は一緒に過ごしてみたり、お昼寝の時間は隣で寝たりと。
あいつらやけに親しくね。と、周囲が気付き始めてしまった。
当然たかくんが見逃すわけがない。
お前ら好き同士?と、しつこくニヤニヤ聞いてきたり、
主に僕への集中からかい攻撃を仕掛けてくる。
嫌な気持ちになりつつも、常に否定し続けたのだが、
からかいはエスカレートしていく。
トイレの靴から上履きへ履き替えようとした時、
ハリが上向きになった画鋲が上履きの中に入っていたのだ。
偶然とは思えない。絶対にたかくん達の仕業だ。
僕はたかくんに始めて言及をしてみたが、
決めつけするとかよくないでしょ。と、
否定されるどころか、またからかわれてしまう。
もうどうしようもないことに気付き、
親に頼るしかないと決心した僕は、
晩御飯の途中にこの話をすることになるのだった。
「なんで何も言い返さねえんだよ!それでも男か!」
晩御飯を食べている途中、母親とお酒が入った父親の前で、
この話をしたら盛大に父に怒られてしまった。
「俺の子なのに情けない…いい加減にしろよほんとに。」
母が必死になだめるが、逆効果で終わってしまう。
「お前しっかり先生に言っとけよ。うちの子が惨めなことになってるって。」
母は小さな声で「はい」とだけ返事し、約4時間にわたる説教は幕を閉じた。
翌日からの幼稚園は少しだけ平穏を取り戻した。
たかくんがイジワルをすることもなくなり、
だんだんと僕も輪の中に入れてもらえるようになった。
この頃は言葉にできなかったのだが、
その平穏が僕にとっては居心地が悪かった。
「またいじめられるんじゃないか、いじめられたら家で怒られる」
2つの思いが、輪の外に出されるのが不安で不安で仕方なかった。
だから僕は必死で自分をよく見せようとした。
当時流行していたドランゴンボールのグッズが家にあるとか、
実はお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるとか、
習い事の体操クラブで凄く人気ものだとか。
呆れるくらいの嘘をついて、気を引こうとした。
5つ嘘をついたら、1つくらいは彼らの興味を引くことができた。
僕はこの頃、歪な興味の引き方を学び始めた。
輪の中に必死に入れてもらおうと余裕が全くない僕を見てか、
かなちゃんとの手紙のやり取りの頻度は次第に減っていき、
卒園する頃には会話をすることもなくなっていった。
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