①ずっと一緒にいたかった-号泣ゲート-
わずかに残る年少の記憶。
僕は母に車で送り迎えをしてもらっていた。
幼稚園のゲートをくぐれば僕と母は離れ離れになる。
笑顔で家族に手を振ってゲートを飛び越えていく子たちが多い中、
僕はというと母親から手を離された瞬間に毎度号泣していた。
「泣くことじゃないよ。ほら、りんくんもあっちで待ってるよ!」
唯一の幼馴染の男の子、りんくん。
親同士の交流が深く、
入園する前から虫取りに行ったりと家族ぐるみで仲が良かった。
ひょいっとゲートを軽々しく飛び越えたりん君は、
僕の名前を笑顔で手を振り呼んでいた。
母親に背中を押され、りんくんに招かれた僕は少しずつ泣き止み、
渋々ゲートをまたぐ。
りん君の親は顔が広く、幼稚園に入る前から友達が多かった。
一方僕の家庭は少し家が離れていたり、
田舎特有のめんどくさいお家事情があったり、
友達と言えるのはりん君しかいなかった。
1日の途中に必ず自由時間があった。
体育館で大きなクッションブロックを使って遊ぶのが年少の時にかなり流行っていたが、
友達が1人しかいない僕は教室でずっと折り紙をしていた。
ちなみに超下手くそである。
そんな僕を見かねてか、1人の女の子が声をかけてくれた。
名前はほのかちゃん。
幼稚園は牢獄のようなもので、りんくん以外は全員敵だと思っていたので、
最初声をかけてくれた時は何も反応しなかった。
しかし、ほのかちゃんは諦めなかった。
何度も僕に無視されようが手を振り払われようが、
一緒に折り紙を横でしてくれた。
しつこく話しかけてくるほのかちゃんに、僕は心を開いていった。
りん君もそこに参加してきて、3人で自由時間を過ごすことが日常になっていった。
帰る時も母親が迎えに来てくれていた。
「今日はどうだったの?」と聞いてきた母親に、
僕はほのかちゃんの話をするようになっていった。
「じゃあ今度、ほのかちゃんの親にも挨拶しないとだね」
幼稚園に通い始めてかなりの期間が経過していたので、
母親も少し安心していたように思える。
「パパ、仕事の電話中だから静かに家入ってね」
家に着くとせかせかと仕事をしている父親がいた。
僕の家は隣(敷地内)に工場がある。
父親は工場で現場対応をしつつ、家のリビングにワークスペースがあり、
パソコンでメールを返したり、先方との向き合いなど
いわゆる営業のような立ち位置だった。
母の父、つまり僕のおじいちゃんも同じ敷地内に家があり、
工場の代表はおじいちゃんで、父はその下で働いていた。
今考えると義父の下で働くと決心し、職場の隣に引越し、
家でもずっと仕事をしている父のストレスは相当なものだったと思う。
特に第一子である僕が生まれ、余計に逃げることができなくなってからは、
とてつもない責任感を抱えていたはずだ。
そんな父は僕が幼稚園に嫌々行く僕を見かねて、
大好きな仮面ライダーのおもちゃをよく買い与えてくれた。
2階建ての一軒屋のどこかにおもちゃを隠し、
母親とどちらが早く見つけれるかゲームをしていた。
僕は恵まれていると幼少期ながらに感じていた。
しかし、父も人間である。
ストレスや責任感の吐口はお酒だった。
帰った時の幸せな空間は父親がお酒を飲み始めた時に、
一瞬にしてピリピリとした空気に変化する。
母親はかなりポジティブな人間なのだが、
父親は正反対の性格をしているため、
お酒を飲むとそのポジティブさが鼻につくのか、
夫婦喧嘩というか一方的な罵倒がよく始まっていた。
「自分で稼いでないくせに」「お前の親父はクソだよ」
「誰のおかげで生活できてると思ってるんだ」
何回聞いたかわからない。
矛先は僕に向くこともあった。
「男のくせに」「なんの障害も持ってないのに」「他人の前で泣くとか情けない」
僕の頭に「弱いことは悪くて恥ずかしいこと」という考えが染み付いた。
よく泣いてしまう僕が怒られるのは仕方のないことだと。
他人の前で泣くことは恥ずかしい。
そんな考え方が頭の中をグルグルしていた中、
ゲートの前で母親と別れるほのかちゃんが見えた。
りん君もいた。
2人がこちらに気づいて手を振ってくる。
僕はその日、始めて泣かなかった。
驚く母に「行ってきます」と元気よく返し、
ゲートを軽々としたステップで飛び越え、僕は1日を始めた。
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