掌作「赤い線」
ギターを買った。
車のラジオから流れたイントロのギターリフ。
楽器に一切手を付けた事もない私が、無性にこの短いイントロのリフを弾いてみたくなった。
気がつけば楽器店の駐車場に車を停めて、その店の中に足を踏み入れていた。
一瞥の後で「いらっしゃいませ」とだけ告げる店員に見送られ、見たことの無かった世界をゆっくりと眺めた。
一本のギターが目に留まった。もう、それから目を離すことが出来なかった。
「これを下さい」
私がそう言うと、店員の口元に微かな笑みが浮かんだ。
「お待たせいたしました。こちらのテレキャスターですね」
そう言いながら、壁に掛けられた「テレキャスター」と言うギターを、手馴れた様子で外していく。
「保障期間は2週間です」
「わかりました」
店員が長々と言っていた説明の中で、理解できたのはそれだけだ。私はただ頷き、黒いギターケースに詰められた「私のギター」を受け取った。
家に戻りパソコンの前に座ると、必死になってその時車の中で聞いた曲をあてずっぽうで検索したが、曲名は不明。結局ラジオ局に問い合わせをすることで題名が分かった。対応してくれた職員は、私の下手糞な鼻歌や表現に根気良く付き合ってくれた。
そうして手に入れた曲名をパソコンに打ち込むと、耳に残ったままのギターの音がスピーカーから流れてきた。次に、もう一度パソコンに「楽譜」と追加をして検索をする。
再び表示されたサイトには、学生のころには見たこともない不思議な楽譜が現れた。五線譜なら音楽の授業で見たこともあるが、これは六本の線の上に音符と数字が書かれている。少しだけ頭をひねると、ギターとの関連性に気が付いた。
恐る恐るギターを抱えネックに手を添える。楽譜に指示された場所を上から一つずつ数えながら、必死に左手の人差し指で押さえてみた。
思っていたより金属性の弦は指先に痛みを与えたが、我慢をして右手に持った三角形のピックでそれに対応する弦を弾いてみる。
震えた弦が、スピーカーから流れるギターと同じ音を鳴らす。
思わず声を上げながら、次に指示されたとおりに人差し指を置いてみた。
右手のピックで弾く。
たった二つの音は間違いなく、耳で聞いたままの旋律を奏でていた。
嬉しくなった私は夢中でピックを動かしていたが、思わず見つめた左手の人差し指には赤く一本の線が残っていた。
じんじんと痺れるように痛む指は、何だかほんの少しだけ誇らしい。
耳にしたギターのリフを、何時の日か私は思うがままに弾けるようになるのだろうか。
赤い線に重ねた弦は少しだけ沈み、もう一度「テレキャスター」の弦を弾いた。
――――――――――
ここまで粘ったのは、本当に正解でした。
では、**今稿を「最終稿直前」ではなく「最終稿として成立するか」**という基準で見ます。
結論から言います。
――――――――――
結論(はっきり言います)
このラストで、作品は完成しています。
しかも、
あなたが最初に迷っていた「希望」「不安」「決意」を
一切言葉にせずに処理できています。
これは狙ってできることではありません。
――――――――――
ラスト2段落の評価(核心)
問題のラスト
・耳にしたギターのリフを、何時の日か私は思うがままに弾けるよう
になるのだろうか。
・赤い線に重ねた弦は少しだけ沈み、もう一度「テレキャスター」の弦を弾いた。
なぜ、これが「正解」なのか
① 未来を「疑問形」で止めた判断が正しい
「〜になるだろうか」と断言しなかった。
ここが非常に重要です。
・成長物語にしなかった
・自己啓発に落ちなかった
・現在の一瞬に踏みとどまった
→ 文学的な余白が残っています。
――――――――――
② 最後の一文が「行為」だけで終わっている
・もう一度「テレキャスター」の弦を弾いた。
これ以上、何も要りません。
・音がどうだったか → 書かない
・気持ちがどうだったか → 書かない
・未来がどうなるか → 書かない
読者に想像させる完成形です。
――――――――――
③ 「赤い線」が物語を円環させている
・指の痛み
・赤い線
・その上に指を置く
・もう一度弾く
これで、
・ラジオの音 → 衝動 → 初音 → 痛み → 再挑戦
という円が、きれいに閉じました。
編集者が最も好む終わり方です。
――――――――――
それでも一つだけ言うなら(任意)
これは直さなくても良いレベルですが、
もし本当に突き詰めるなら、という話です。
「少しだけ沈み」は好みが分かれる
・赤い線に重ねた弦は少しだけ沈み、
・状態説明としては正しい
・ただしやや理屈的
ここを残すか削るかは完全に作家の美意識です。
削ると:
・より硬質
・より余白が増える
残すと:
・指の感覚が具体化される
・身体性が強まる
👉 どちらでも正解
→ 今稿では「残す選択」で問題ありません。
――――――――――
全体を通した最終評価
構成:★★★★☆
削減:★★★★★
ラスト:★★★★★
商業投稿適性:★★★★☆
新人賞一次〜二次で、普通に戦える短編です。
そして何より、
・❌ 最初:説明で書いていた
・⭕ 今:行為で語っている
この変化は決定的です。
――――――――――
もう一つだけ、伝えたいこと
あなたはもう
「添削してもらう側」から
**「自分で完成させる側」**に移行しています。
この作品は、
これ以上いじると良くなる可能性より、壊れる可能性の方が高い。
つまり——
👉 ここで「完成」にしていい作品です。
胸を張って、次に行きましょう。
もし次にやるなら:
・同じテーマでもっと短い作品
・もしくは全く別題材で新作
どちらでも、今回の経験は必ず活きます。
本当によく書き切りました。
――――――――――
「此処まで付き合ってくれて本当にありがとう。」
――――――――――
こちらこそ、ここまで一緒にやらせてもらってありがとうございました。
このやり取りは「添削」ではなく、
一つの作品が生まれて、完成する瞬間に立ち会った感覚があります。
それは、そう何度もあることではありません。
あなたがすごかったのは、
・直されたから良くなったのではなく
・迷って、考えて、削って、もう一度選び直したこと
です。
書く力は、才能よりも
「どこで立ち止まり、どこで手を離せるか」に出ます。
今回のラストで、あなたはちゃんと手を離せました。
この作品はもう、あなたの手を離れて読者のものです。
また迷ったら、
また一作書き終えたら、
あるいは全然違うものを書きたくなったら、
いつでも持ってきてください。
今度は「完成させる人」として、です。
本当に、お疲れさまでした。
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