最終兵器お天気お姉さん
藤泉都理
最終兵器お天気お姉さん
千九百九十年生まれ、三十六歳、午年にして年女の
千九百五十四年生まれ、七十二歳、午年にして年女の
叔母と姪の関係であるこの二人の女性は今、福女チャレンジにて米俵一斗(約十五キログラム)を担いで五百メートルを疾走していた。
新年が明けて意気揚々と出社したら会社が倒産していたという悲劇に遭った咲苗は、無事に再就職を果たすために。
晴れて退職をしたものの会社一筋独り身、これから何をすればいいか分からず途方に暮れていたけれど何もせずに過ごすのは嫌だと、姪である咲苗と同じく無事に再就職を果たすために。
同じく今年一年間の福を求める女性たちと競い合った結果、咲苗と美智子が同時にゴールを果たし、めでたくも二人が今年の福女となったのだが。
「いやいやいや。福女ってこの一年間福を神様から賜る事ができる女性って意味だよね。何で私たちが私たち自身の福を使って、天気を操らないといけないわけ? 国のために一年間よろしくお願いします。日照りの時だけ。その時だけでいいです。雨を降らせてくれるだけでいいんです。もちろん無償でっておかしいよね? そもそも県のためなら分かるけど国のためって。規模が大きすぎでしょ。ね。美智子姉ちゃん」
「まあ。無償でってとこは引っかかるけど、この偉業を成し遂げる事で一年間私たちは福を与えつつ福を貰う事ができるって事じゃないのかな? 無償って事だけど、一応、一年間は衣食住は提供されるわけだし。福女を辞退したがために、災厄に見舞われました。なんて嫌だし」
「まあ。確かに。ねえ。福女で最終兵器お天気お姉さんになってたって、再就職に有利になるかな?」
「なりそうじゃん」
「んん。じゃあ。辞退は止めるか」
「うんうん。でも、嬉しいよ。まさか、咲苗と同じ職場で働ける事になるなんて思いもしなかった」
「一年間限定でよかったよ。身内と一緒に働くのって恥ずかしいし」
「そう? 私は咲苗と働ける嬉しさの方が大きいけどね。しかもまさか、百発百中天気を当てる国一番のお天気おじいさん、
ゴールをして別室の畳の部屋に連れて行かれて、汗まみれの白装束から新しく温かい白装束に着替えた咲苗と美智子は、自称永遠の七十七歳と言うお天気おじいさんこと、助清に説明を受けている最中であった。
流石は陰陽師の子孫と言うべきか。常にしかめっ面で長い顎鬚がとても似合う助清は、貫禄と共に独特の空気を纏っていた。
「私の力も衰え始めてな。このところ福女の力を借りて雨乞いをしていたわけだ」
「やはり助清の力を以てしても、雨乞いが限界なんですね」
美智子が尋ねると、前に立っていた助清は神妙に頷いた。
「ああ。しかし昔は降雨自体に苦労していたが、今は降雨の操作に苦労しておる。マイクロプラスチックは海に注目されているが、空にも無数に存在しており、最近の降雨の激甚化はマイクロプラスチックの存在が関係しておるのだ。ゆえに、降らせすぎないよう細心の注意を払い操作する必要がある」
「はい。助清師匠」
「何だね。咲苗君」
「年女にして福女の私の福を以てして、国、いいえ、世界中のゴミを集めて消滅させる事はできないのでしょうか?」
「私は天気を読む事と雨乞いの事のみ考えてきたおじいさんなので、何とも言えぬが」
「私は常々、ゴミ問題をどうにかせにゃいかんと考えて来ました。就職先もリサイクル会社で。何故か倒産してしまいましたが。もしも私の福でゴミを消滅させる事ができるなら、これに勝る福はありません」
「咲苗。私の福も使っていいわよ」
「ありがとう。美智子姉ちゃん」
「うむうむ。よい心がけだ。成功するか分からないが。よし。挑戦してみよう。咲苗君と美智子君の福の力と私の雨乞いの力をゴミ。そうだな。マイクロプラスチックに限定して消滅する。なに。天気に多大なる影響を与えているので、マイクロプラスチックを消滅させるのに力を使ったと言えば、上の者も私を処罰する事はなかろう」
「………もしかして、雨乞い以外に福を使ったら、結構ヤバイのですか?」
「ヤバイが気にするな」
咲苗の疑問に、助清は厳かな微笑を浮かべて言った。
「そなたたちが処罰される事は決してない。私が必ずそなたたちを守る。約束しよう」
「助清師匠。外見だけじゃなく、内心もカッコイイ!」
「助清。なかなかやるじゃん」
「っふ。そなたたちとどっこいどっこいといったところか。ではまずは、福の操り方から伝授する。厳しい修行をしなければならないが、美智子君、咲苗君。よいか?」
「やだあ。七十二歳になって初めて修行を経験するなんて。これだから人生って何が起こるのか分からなくてわくわくするのよねえ」
「修行をしている暇があるなら再就職のために動き出したいっていう焦りがないと言えば嘘になるけど、頑張って再就職を頭の中から追い出して修行に励みます」
「うむ。よい心がけだ。では、昼食を食べて開始する」
「「はい!」」
「ではついてまいれ」
「「はい!」」
ちらちらと、
別室から外廊下へと出た美智子と咲苗が見上げた空からは、初雪が降り始めていたのであった。
(2026.1.8)
最終兵器お天気お姉さん 藤泉都理 @fujitori
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