第2話 失われた相棒
「俺に……もう一度救えるチャンスはあるのか」
雨に打たれながら、自分に問い直す。
俺の職業――いや、元職業はヒーローだ。
ヒーローの役割は大きく二つ。
一つは食料調達。
街の外で動物や魔物を狩り、国に食料を持ち帰る。
もう一つは、飢餓の病で暴走した“飢餓化”の鎮圧。
つまりヒーローは、
「空腹で狂うこの国を守る最後のライン」
というわけだ。
「……で、そのヒーローになれるのが、能力を持った人間と、獣人のペアだけって訳だ」
能力者の人間。
そして必ず、獣人の相棒が必要。
だが――。
「俺には、その相棒がもう居ねえ」
水たまりに映った空は、どこまでも灰色だった。
そのくすんだ色が、俺の胸の奥まで入り込んでくる。
獣人たちは長い尻尾と体毛を持ち、二足歩行で、見た目は人間とほぼ変わらない。
ガリガリもいればガッチガチもいる。
ラグナロク王国の人口は人間六に獣人四。
本来なら相棒探しに困る比率じゃない。
儀式も縛りもなく、お互いが「選び合う」だけでいい。
――そこが問題だ。
「相棒……な。俺には、もう怖ぇんだよ」
何人か獣人が声をかけてきたこともある。
だが俺は全部断った。
ヒーローを辞めた自分。
資格がないと思う自分。
それでも、「もう一度ヒーローになりたい」と願う自分。
「……中途半端で、ほんとダセえよな俺」
そんな時だった。
通りの向こうで怒鳴り声が響く。
「てめぇ何見てんだコラ、人間!」
獣人の女が、人間の男二人を相手に暴れていた。
男たちは筋肉ムキムキなのに、手も出さずにじっと耐えている。
獣人は周りの視線に気づいたのか、
「下等種族が。目障りなんだよ!」
と捨て台詞を吐いて去っていった。
誰も助けない。
誰も逆らわない。
これが、ラグナロク王国の現実だ。
「……変えられると思ったんだけどな、昔は」
胸の奥が重くなる。
けれど今の俺には、もう何もできない。
そんな気持ちを押し込みながら、曲がり角を曲がった。
◆
人通りの少ない裏通り。
ボロ布で作られた粗末な屋根の下には、やせ細った商人たちが座っている。
「……ここも変わらねえな」
そう思った瞬間――。
ガシャーン!
金属の器が落ちる音と、怒声が響いた。
「チッ、人間が食い物独り占めしてんじゃねえよ!」
振り返ると、獣人の少女が背中を丸め、毛を逆立てて怒っていた。
「だから違ぇって言ってんだろが!」
怒鳴り返したのは、ゴリラみたいにでかい料理職人の男。
あれだけ体格差があっても、獣人はまったく怯まない。
むしろ睨み返している。
「俺は職人だっつってんだろ! ヒーローが狩って来たモンを調理して配るのが仕事なんだよ。
俺がこんな量独り占めできるか! ほら、シッシッ!」
手を払う仕草は、完全に野良猫扱いだ。
獣人は舌打ちして、俺の横を走り去っていく。
「……珍しいじゃないか、ノアス」
獣人が去ったことで、大男が俺に気づいた。
さっきまでのだるそうな顔が、嘘みたいに明るくなる。
「久しぶりだな、ヒバナ」
俺はそう言って、一歩踏み込んだ。
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