腹ペコヒーロー
人生負け組
第1話
今日もどこかで子供が泣いている。
今日もどこかで、誰かが倒れていく。
今日も獣人と人間がいがみ合い、
そしてまた――飢餓化した者が、ひとり増えた。
城壁の上から、俺は国を見下ろす。
活気も活力も失われた大国。
それでも、そこで暮らす連中は懸命に生きていた。
耳を澄ませても、何も聞こえない。
唯一聞こえるのは、人々の腹の虫だけだ。
風も死んでいる。
灰色の空と同じで、どこか重苦しい。
「……なあ、俺はどうしたらいいんだ」
昔、俺はこのラグナロク王国を変えようと本気で動いた。
相棒と共に、ヒーローとして飢餓化を止め続けた。
けれど――終わった。
あの日、あの飢餓に敗北して。
俺は頬を叩く。
「いけねえ、暗くなっちまう」
ため息ひとつ。
天気のせいだ、と理不尽に空へ八つ当たりする。
その瞬間、ポツリと冷たいものが額に落ちた。
まるで俺の心に合わせるように、雨が降り始める。
胸の奥がじわりと痛んだ。
「……行くか」
立ち止まれば沈んでしまう。
なら、歩こう。
そう決めて、ゆっくり街へ向かった。
◆
街の空気も、空と同じく曇っていた。
すれ違う獣人も人間も、皆が同じ顔をしている。
飢えと、苛立ちと、疲れ。
噛みしめる奥歯。
自分の腕を噛んで空腹を紛らわす者もいる。
この国――ラグナロク王国は、数百年前から
飢餓の呪いに蝕まれている。
食べてもすぐに空腹が飢えを刺す。
それが続けば、やがて“飢餓の病”へ進行する。
自我が壊れ、猛獣のように暴れ出す状態。
それを俺たちは――飢餓化と呼ぶ。
気絶させれば一時的に止まるが、
根本を治さなければいつだって再発する。
そして実際、飢餓化が原因の悲劇は山ほどある。
だからこそ、街には活気がない。
誰もが、空腹という見えない刃に怯えながら生きている。
◆
荒れた石畳を歩いていると、走っていた子供が転んだ。
「大丈夫か」
手を差し伸べる。
少年は細い腕で俺の手を掴み、よろけながら立ち上がった。
痩せすぎて、骨が浮いている。
服もボロボロで、見ていて胸が痛む。
「ねえ……食べ物、持ってない?」
かすれた声だった。
必死で縋るような目を向けられ、心がえぐられる。
「……悪い。何も持ってない」
本当は言いたくない言葉だった。
けれど、俺のポケットも空っぽだ。
少年の表情が一瞬だけ明るくなり、
その直後、深く沈んだ。
その落差が、耐えられないほど刺さった。
何も言わずに、少年は走り去っていく。
「……俺に、もう一度救えるチャンスはあるのか」
思わず、そんな独り言が漏れた。
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