第13話 不在という検証


それは、

意図的な判断だった。


王都・軍務会議室。


地図の前で、

軍務大臣が言う。


「次の南部作戦、

 カインは

 同行させない」


空気が、

一瞬凍った。


「……確認ですが」


魔導院長が、

慎重に言葉を選ぶ。


「それは、

 彼の安全のためですか」


「違う」


軍務大臣は、

首を振る。


「検証だ」


「彼が“必須条件”なのか、

 それとも

 偶然の重なりなのか」


誰も、

即答できない。


鑑定官が、

低く呟く。


「不在時のデータは、

 確かに不足しています」


国王は、

黙っていた。


しばらくして、

短く言う。


「……やむを得まい」


「だが、

 最精鋭で臨め」


こうして、

決まった。


俺の知らないところで。


---


南部戦線。


作戦は、

理論上は完璧だった。


戦力配置。

補給線。

魔導支援。


どこにも、

無理はない。


現地の指揮官も、

自信を持っていた。


「今回は、

 問題ない」


「例の男が

 いなくてもな」


戦闘開始。


序盤は、

順調だった。


魔物の数は、

想定通り。


被害も、

軽微。


だが――

三刻後。


最初のズレが、

起きる。


「……伝令が、

 遅れました」


ほんの数十秒。


だが、

それで

隊列が乱れた。


「立て直せ!」


叫びが飛ぶ。


次に、

魔法陣が

微妙に噛み合わない。


「詠唱、

 やり直し!」


焦りが、

連鎖する。


さらに。


本来崩れるはずの

魔物の連携が、

妙に続く。


「おかしい……

 統率が

 切れない?」


指揮官の声に、

苛立ちが混じる。


判断が、

一手ずつ遅れる。


結果。


包囲。


撤退判断は、

正しかった。


だが、

一歩遅かった。


死者。

多数。


生き残った者たちは、

呆然と

戦場を見つめる。


「……なんでだ」


「条件は、

 同じだった」


「前線で、

 何が違った?」


誰も、

答えられない。


---


数日後。


敗報は、

王都に届いた。


会議室は、

重苦しい。


数字が、

すべてを語る。


「被害率、

 三倍以上」


「判断ミス、

 連鎖的に発生」


鑑定官が、

静かに言う。


「……彼がいない戦場は、

 “通常通り”だった」


沈黙。


魔導院長が、

拳を握る。


「つまり――」


「我々が

 これまで

 異常に

 恵まれていただけだ」


国王は、

目を閉じた。


短く、

息を吐く。


「呼べ」


「……カインを、

 正式に

 戻す」


誰も、

異を唱えない。


---


その頃。


俺は、

王都郊外の

簡易宿舎にいた。


理由も告げられず、

待機命令。


胸騒ぎが、

消えない。


扉が、

強く叩かれる。


開けると、

王直属の使者。


「至急、

 王城へ」


その目を見て、

理解した。


――世界が、

答えを出した。


俺が、

いないと。


均衡は、

簡単に崩れる。


望んだわけじゃない。


証明したかった

わけでもない。


それでも。


世界は、

俺を

必要条件として

扱い始めた。


もう、

戻れない。


不遇スキル持ちの

居場所は、

偶然ではなく。


構造の中に

組み込まれてしまった。

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