第11話 同じ場所に立っていない


北方防衛線、

補給拠点。


戦闘が一段落し、

各部隊が

再編のために集められた。


俺は、

指揮官の横に立っている。


それだけで、

周囲の視線が

妙に落ち着かない。


――その時だった。


「……カイン?」


聞き覚えのある声。


振り向くと、

そこにいた。


元パーティの面々。


剣士のロルフ。

魔法使いのミリア。

回復役のトーマ。


全員、

どこか疲弊した顔をしている。


装備も、

傷だらけだ。


「生きてたのか」


ロルフが、

気まずそうに言う。


「まあな」


それ以上、

言葉は続かない。


沈黙。


先に破ったのは、

ミリアだった。


「……あんた、

 ここで何してるの?」


その問いに、

答える前に。


指揮官が、

俺の肩越しに言った。


「彼は、

 今回の作戦の要だ」


三人が、

固まる。


「……は?」


ロルフが、

聞き返す。


「冗談だろ。

 そいつ、

 何もできないだろ」


昔と同じ口調。


懐かしさすら、

感じない。


指揮官は、

淡々と続けた。


「彼が前線に立ってから、

 我々は

 一度も大きな損害を

 出していない」


「魔物の包囲は崩れ、

 判断ミスも減った」


「偶然とは、

 言えない」


ミリアの顔色が、

変わる。


「……待って」


「それ、

 前も――」


言葉が、

途中で止まった。


思い出したのだろう。


俺がいた頃、

致命的な失敗が

なかったことを。


トーマが、

震える声で言う。


「じゃあ……

 俺たちが

 上手くいってたのは……」


誰も、

続きを言わない。


ロルフだけが、

強く首を振った。


「違う。

 そんなわけない」


「こいつは、

 戦えなかった」


「役に立たなかった」


指揮官は、

静かに返す。


「戦う者だけが、

 役に立つわけではない」


「彼は、

 戦場を

 壊さない」


その一言で、

全てが終わった。


三人は、

何も言えなくなる。


しばらくして、

ロルフが

俺を見た。


悔しさと、

混乱と、

恐れ。


全部混ざった目だ。


「……戻ってこい」


唐突だった。


「お前がいないと、

 最近、

 全部うまくいかない」


「条件は、

 前より良くする」


俺は、

少し考える。


そして、

首を横に振った。


「無理だ」


短く、

はっきりと。


「俺たちは、

 もう

 同じ場所に

 立ってない」


「俺は、

 支えだった」


「それを

 不要だと言ったのは、

 お前たちだ」


責める声では、

なかった。


ただ、

事実を述べただけだ。


ロルフは、

何も返せない。


ミリアは、

唇を噛みしめる。


トーマは、

俯いた。


俺は、

踵を返す。


背後で、

誰かが

小さく言った。


「……ごめん」


振り返らない。


謝罪は、

遅すぎた。


そして――

必要でもない。


俺は今、

選ばれる側にいる。


追放された不遇スキル持ちは、

もう

“不要な存在”ではない。


それが、

何よりの答えだった。

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