第9話 崩れ始めた均衡
異変は、
前触れもなく起きた。
朝、
ギルドの鐘が
異様な間隔で鳴り響く。
警告音だ。
街の空気が、
一瞬で張りつめる。
「全冒険者に通達!」
「至急、
ギルドホールへ集まれ!」
怒号が飛び、
人々が走り出す。
俺も流れに従い、
ホールへ入った。
掲示板には、
見慣れない赤い封印が
貼られている。
国家封鎖級依頼。
ざわめきの中、
ギルドマスターが
壇上に立った。
「北方防衛線にて、
大規模な異常が発生した」
地図が展開される。
山脈沿いに敷かれた
結界線。
その一部が、
歪んでいた。
「魔物の出現頻度が
急激に増加」
「連携が異常に良い。
統率されているかのようだ」
背中に、
冷たいものが走る。
――ズレが、
拡大している。
「通常なら、
ここまで一致しない」
ギルドマスターの声は、
低く重い。
「原因は不明。
だが――」
一瞬、
言葉を切る。
「戦場が、
不安定すぎる」
会場が、
ざわついた。
熟練の冒険者たちが
首を傾げている。
「判断が噛み合わない」
「事故が多すぎる」
「予測が外れる」
――俺がいない。
その考えを、
必死で押し殺す。
だが、
否定できない。
「よって、
特別編成を行う」
ギルドマスターは、
名簿を手に取った。
「戦力ではなく、
安定性を重視する」
その瞬間、
嫌な予感がした。
「呼ばれた者は、
前へ」
数名の名が、
読み上げられる。
そして――
「カイン」
会場が、
一瞬静まった。
「……俺?」
視線が集まる。
困惑と、
疑念と、
好奇の混じった視線。
俺自身が、
一番驚いていた。
壇上へ上がると、
ギルドマスターが
低い声で言う。
「鑑定師エドガルから
進言があった」
胸が、
強く鳴った。
「君がいる現場では、
致命的事故が起きていない」
「理由は不明だが――
事実だ」
周囲の視線が、
一層鋭くなる。
「今回は、
それに賭ける」
逃げ場は、
なかった。
「……分かりました」
短く答える。
その夜、
特別編成隊は
北方へ向かった。
前線の空気は、
街とは別物だった。
魔力が乱れ、
風が不規則に吹く。
兵士たちの表情は、
硬い。
初動の偵察中、
異変はすぐに起きた。
魔物の群れが、
信じられない精度で
連携してくる。
包囲。
挟撃。
退路遮断。
「来るぞ!」
叫びと同時に、
戦闘が始まる。
だが――
俺が前線に立った瞬間。
風向きが、
変わった。
足場の崩れが、
止まる。
兵士の判断が、
噛み合い始める。
「……いける!」
誰かが叫ぶ。
魔物の連携が、
わずかに乱れた。
ほんの僅か。
だが、
致命的なズレ。
結果、
戦線は持ち直した。
戦闘後、
指揮官が
俺を見つめる。
「君は……
何をした?」
「何も」
それは、
事実だった。
俺は、
剣を振っていない。
魔法も使っていない。
ただ、
そこにいただけだ。
だが。
前線は、
明らかに安定していた。
夜、
簡易陣地で
一人空を見上げる。
星の配置が、
妙に整って見えた。
――均衡が、
崩れている。
そして、
それを戻せる存在が、
ここにいる。
逃げ続けることは、
もうできない。
この力は、
俺一人の問題じゃない。
国家が、
世界が、
それを必要としている。
そう、
理解してしまった。
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