第7話 欠けたもの
その噂を聞いたのは、
ギルドの掲示板前だった。
「聞いたか?」
「ロルフのところ、
やらかしたらしいぞ」
足を止める。
ロルフ――
かつての、
俺のパーティリーダー。
嫌でも、
耳に入る。
「Bランク依頼だろ?
連携ミスで半壊だって」
「え?
あの堅実なパーティが?」
ざわめきが、
広がっていた。
無意識に、
拳を握る。
「詳しくは?」
声をかけると、
冒険者の一人が
俺を見て目を細めた。
「……ああ、
追放されたって噂の」
「違います。
抜けただけです」
そう言うと、
男は肩をすくめた。
「まあいい。
内容だが――」
依頼は、
洞窟内の魔物掃討。
地形は複雑だが、
彼らなら問題ないはずだった。
だが。
「索敵役が、
判断を誤った」
「魔法使いが、
詠唱を噛んだ」
「前衛が、
一瞬遅れた」
どれも、
致命的ではない。
一つ一つは、
よくある失敗だ。
「だが、
全部が同時に起きた」
その言葉に、
背筋が冷えた。
「結果、
包囲されて撤退。
重傷者が出た」
男は、
ため息をつく。
「不運だったな、
って話だ」
――不運。
その言葉が、
胸に重く落ちる。
「以前は、
こんなことなかった」
別の冒険者が、
そう呟いた。
「判断が、
噛み合わなくなった感じだ」
「昔は、
もっと安定してたよな」
俺は、
何も言えなかった。
言えるはずがない。
――それは、
俺がいたからだ。
確証はない。
だが、
状況は
あまりにも一致している。
酒場へ入ると、
偶然にも
元パーティの面々がいた。
空気が、
張りつめる。
ロルフは、
俺に気づき、
一瞬だけ視線を逸らした。
ミレアの顔色は、
悪い。
包帯が、
腕に巻かれている。
「……カイン」
ロルフが、
低い声で呼んだ。
「聞いたか」
「ええ。
噂程度には」
短い沈黙。
「……俺たちは、
間違っていたのか?」
その問いに、
答えは出せなかった。
俺がいなくなったから
失敗した、とは言えない。
それは、
傲慢だ。
「分かりません」
正直に、
そう答える。
「でも……
以前と同じ条件でも、
結果が変わることはあります」
ロルフは、
苦く笑った。
「そうだな。
運、だよな」
その言葉が、
胸に刺さる。
「俺たちは、
運が良かっただけだ」
――違う。
だが、
それを証明する術はない。
酒場を出ると、
夜風が強く吹いた。
看板が揺れ、
誰かが躓く。
世界は、
いつも通り不安定だ。
「……欠けてたんだな」
独り言が、
漏れる。
俺は、
英雄じゃない。
指揮官でも、
戦力でもない。
だが――
そこにいるだけで、
失敗を起こしにくくする存在。
それが欠ければ、
当然、崩れる。
元パーティの失敗は、
偶然ではない。
そう、
確信に近いものが
胸の奥に生まれていた。
そして同時に、
恐怖も。
もしこの力が
完全に理解されたら――
俺は、
どう扱われる?
考えを振り払い、
歩き出す。
検証は、
まだ続く。
だが一つだけ、
はっきりしたことがある。
――俺は、
もう「外れ」ではない。
そしてこの世界は、
俺がいないことに
確実に気づき始めている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます