第6話 意図的な検証


仮説を立てた以上、

確かめなければならない。


俺がいる時と、

いない時。


その差を、

意図的に作る。


掲示板の前で、

一枚の依頼書に目を留めた。


【採取依頼:夜露草】

【危険度:低】

【注意:崖付近、足場不安定】


「……ちょうどいい」


戦闘ではなく、

環境要因が絡む依頼。


失敗が起きやすい。


検証には、

これ以上ない条件だ。


「二人で、受けませんか」


声をかけた相手は、

弓使いの少女だった。


年は、

俺より少し下だろう。


装備は質素だが、

手入れは行き届いている。


「え?

 私とですか」


戸惑いながらも、

彼女は名乗った。


「リナです。

 命中率、

 あまり良くないですけど……」


その言葉を聞いて、

胸の奥が静かに高鳴った。


「問題ありません。

 安全第一で行きましょう」


森を抜け、

崖地帯へ向かう。


道中、

特に会話はなかった。


だが、

妙に歩きやすい。


足元の石は安定し、

風も穏やかだ。


「……今日、

 調子いいです」


リナが、

ぽつりと呟く。


「いつもなら、

 小石で滑ったりするのに」


「そうですか」


平静を装いながら、

内心では息を詰める。


――反応が、早い。


崖際に到着すると、

夜露草は

岩棚の下に群生していた。


「私がロープを張ります」


リナが弓を背負い、

作業に入る。


通常なら、

風で揺れ、

固定に手間取るはずだ。


だが。


ロープは、

一度でしっかり固定された。


結び目も、

完璧だ。


「……こんなに

 上手くいったの、初めてかも」


「慎重だったからでしょう」


そう答えながら、

視線を逸らす。


次は、

採取中。


リナが足場を移動する。


「っ――」


一瞬、

バランスを崩した。


だが、

転ばない。


彼女自身が、

驚いた顔をする。


「今、

 落ちると思いました……」


「風向きが、

 変わりましたね」


事実だ。


直前に吹いた突風が、

嘘のように収まっていた。


「……すごい偶然」


リナはそう言った。


だが、

俺は知っている。


これは、

一度や二度の偶然じゃない。


採取は、

何事もなく終了した。


帰路、

崖から離れた途端――


リナが小さく躓いた。


「きゃっ」


今度は、

しっかり転びそうになる。


慌てて、

彼女を支える。


「す、すみません……」


「大丈夫ですか」


「はい……

 でも、さっきまで

 あんなに安定してたのに」


胸が、

強く脈打った。


――範囲が、ある。


俺の仮説は、

さらに形を持つ。


街に戻り、

報酬を受け取る。


「また、

 一緒に組みませんか」


リナが、

遠慮がちに言った。


「今日、

 変でしたけど……

 嫌じゃなかったです」


俺は、

少しだけ考えてから答える。


「ええ。

 機会があれば」


確信は、

ほぼ揃った。


俺のスキル《調整》は、

自分だけに作用するものじゃない。


俺の“近く”にいる者、

俺と行動を共にする者。


その失敗を、

静かに消している。


それは、

強化でも、支援でもない。


ただ――

世界を、

普通に戻しているだけだ。


だが、その「普通」は、

冒険者にとっては

異常なほどの安全だった。


俺は、

無意識に拳を握る。


この力を、

どう扱うべきか。


まだ答えは出ない。


だが一つだけ、

もう逃げられない事実がある。


――外れスキルでは、

決してない。


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