第2話 なぜか楽勝の初ソロ依頼
灰爪ウルフの生息域は、
街から半日ほど北に進んだ森の奥だ。
木々が密集し、
視界も足場も悪い。
ソロで来る場所じゃない――
それは、分かっている。
「……静かだな」
森に入って最初に感じたのは、
不自然なほどの静けさだった。
鳥の鳴き声も、
獣の気配も薄い。
耳鳴りがするほど、
空気が澄んでいる。
本来なら、
ウルフは群れで行動する魔物だ。
一匹見かければ、
必ず他が潜んでいる。
だが、
気配がない。
俺は慎重に剣を抜き、
足音を殺して進む。
――その瞬間だった。
茂みの向こうから、
灰色の影が飛び出してきた。
「来た……!」
反射的に剣を構える。
灰爪ウルフ。
素早さが売りの魔物で、
正面からの一対一でも油断はできない。
だが。
ウルフの動きが、
わずかに遅れた。
ほんの一瞬。
踏み込みの角度がずれ、
牙が空を切る。
「……?」
驚く暇もなく、
俺の剣が肩口を捉えた。
浅いが、確実な一撃。
ウルフは距離を取ろうとするが、
足がもつれたように転ぶ。
あり得ない。
地面は平坦で、
障害物もない。
「まさか……」
追撃。
今度は確実に、
急所へ。
倒れ伏したウルフは、
二度と動かなかった。
荒い息を吐きながら、
周囲を警戒する。
――来ない。
群れが、
現れない。
「一匹、だけ……?」
信じられず、
周囲を探索する。
だが、
痕跡はあるのに、
なぜか遭遇しない。
足跡は途中で乱れ、
消えている。
縄張り争いの形跡も、
途中で途切れていた。
「……変だ」
依頼書には、
「群れに注意」と書かれていたはずだ。
それなのに、
まるで最初から
俺と一匹だけが
戦うように調整されていたかのような――
嫌な考えが、
頭をよぎる。
いや、
考えすぎだ。
たまたまだ。
そう自分に言い聞かせ、
解体を済ませる。
素材の状態も良好。
牙も皮も、
傷が最小限だ。
「運がいい、だけだ」
そうだ。
運がよかった。
そう思うしかない。
帰路につくと、
途中で足を滑らせかけた。
だが、
体が自然とバランスを取り、
転ばずに済む。
以前なら、
確実に尻もちをついていたはずなのに。
「……疲れてるな」
首を振り、
街へ戻る。
ギルドで依頼完了を告げると、
受付嬢が目を丸くした。
「え?
お一人で、ですか?」
「はい。
問題ありませんでした」
「け、怪我は……?」
「ありません」
素材を確認した彼女は、
さらに驚いた表情になる。
「品質が……
かなりいいですね」
周囲の冒険者たちが、
ざわつく。
「灰爪ウルフをソロで?」
「新人じゃないのか?」
「運が良すぎないか?」
視線が集まる。
だが、
誇らしさよりも、
違和感の方が大きかった。
――本当に、運だけか?
帰り道、
ふと空を見上げる。
雲の流れが、
妙に整っている。
風も、
歩きやすい向きに吹いている。
「……まるで」
俺が生き残る前提で、
世界が動いているみたいだ。
そんな考えを、
慌てて打ち消す。
あり得ない。
スキル《調整》は、
効果不明の外れだ。
そう決まっている。
だが。
胸の奥で、
何かが静かに噛み合い始めている感覚だけは、
否定できなかった。
――俺はまだ、
何も知らない。
だが、
この世界は、
確実に俺を見落としている。
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