外れスキル《調整》を持つ俺は追放されたが、世界の方が俺を必要としていた
塩塚 和人
第1話 外れスキル認定
「――結論から言う。
お前は、ここまでだ」
焚き火の爆ぜる音の向こうで、
パーティリーダーのロルフがそう告げた。
酒場の奥、いつもなら笑い声が響くはずの席は、
今夜に限って重苦しい沈黙に包まれている。
視線を向けられているのは、俺――
冒険者カイン。
剣も魔法も中途半端。
そして何より、持っているスキルが最悪だった。
《調整》。
鑑定結果に表示される説明は、
「効果不明」「戦闘能力への影響なし」。
要するに、外れスキル。
「次の依頼はBランクだ。
これ以上、お前を連れていく余裕はない」
ロルフの言葉に、
隣に座る魔法使いのミレアも視線を逸らした。
誰も反論しない。
分かっていたことだ。
俺のステータスは、
半年間ほとんど伸びていない。
命中率も、魔力量も、
数値で見れば平均以下。
一方で、パーティは順調に昇格し、
次は中堅冒険者の壁を越えようとしている。
――俺だけが、足を引っ張っている。
「分かってます」
そう答えた自分の声が、
驚くほど冷静だったことに、少し驚いた。
「今日で、抜けます」
あっさりと立ち上がると、
ロルフが一瞬だけ戸惑った顔を見せる。
「……恨み言はないのか?」
「ありません。
合理的な判断ですから」
本心だった。
この世界で、
数値は絶対だ。
弱い者が切り捨てられるのは、
冒険者なら誰もが理解している。
だから、怒りも悲しみも、
胸の奥に沈めるしかなかった。
荷物をまとめ、酒場を出る。
夜風が冷たく、
街灯の明かりがやけに遠く感じた。
「外れスキル、か……」
呟いて、苦笑する。
《調整》。
発動ログは出ない。
戦闘中に何かが変わる感覚もない。
鑑定師に何度聞いても、
首を傾げられるだけだった。
「珍しいが、役には立たん」
それが、全員の一致した見解。
――それでも。
思い返してみれば、
妙なことはいくつもあった。
危険な依頼で、
なぜか致命的な事故だけは起きなかった。
敵の攻撃は、
紙一重で外れることが多かった。
罠の誤作動や、
仲間の詠唱ミスも、いつの間にか修正されていた。
だが、誰もそれを
俺のスキルだとは思わなかった。
数値に出ないものは、
存在しないのと同じだからだ。
「……まあ、いいか」
独り言を言いながら、
俺は冒険者ギルドへ向かう。
明日からは、ソロだ。
ランクを落として、
低難度の依頼を受けるしかない。
生き残れれば、それでいい。
そう考えていた、その時――
ギルドの掲示板に貼られた一枚の依頼書が目に入った。
【討伐対象:灰爪ウルフ】
【推奨人数:三名】
【難易度:D+】
一瞬だけ、躊躇する。
本来なら、
今の俺一人で受けるべき依頼じゃない。
だが、不思議と胸騒ぎはなかった。
「……いける気がするな」
理由は分からない。
ただ、
いつも通りの感覚だった。
この世界は、
なぜか俺がいると、少しだけ静かになる。
その意味を、
俺はまだ知らない。
だが――
この選択が、すべての始まりになる。
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