第9話看病は、蜜の味と鉄の掟
お泊まり会の翌朝。
昨夜の「将来設計マシンガントーク」による寝不足と、愛良の猛攻にさらされ続けた精神的疲労がたたり、僕は激しい頭痛と共に目を覚ました。
「う……頭が……」
フラフラとリビングへ向かおうとした瞬間、背後から音もなく伸びてきた手に肩を掴まれる。
「……見つけた。和馬くん、体温37.8度。心拍数、通常より15%増加。顔面紅潮……これは完全に私の見落とし。一生の不覚……!」
「愛良……お前、いつ起きたんだよ……」
「和馬くんの寝顔を4時間ほど録画し終えたところだよ。さあ、今すぐベッドに戻って。ここからは、私の『完全隔離・至福の看病プラン』の開始だから」
僕がベッドに押し戻されると同時に、愛良は驚くべき手際で部屋の窓をすべて施錠し、カーテンを閉め切った。
「愛良、そこまでしなくても……」
「ダメだよ。風邪のウイルスは、和馬くんが弱っている隙に外から侵入してくるかもしれないし、何より『弱っている和馬くん』を他の女に見せるなんて、国家機密を漏洩するようなものだもの」
愛良はどこから取り出したのか、看護師のような白いエプロンを装着し、トレイに乗せたお粥を運んできた。
「はい、あーん。……もし自分で食べようとしたら、栄養剤を点滴(自作)で打ち込むからね?」
「その点滴、中身が怖すぎて熱が上がりそうなんだよ……」
僕が大人しくお粥を食べている間、愛良はその様子を1秒たりとも見逃さないよう、至近距離で凝視し続けていた。
「おいしい……けど、愛良、お前は休まないのか?」
「私はいいの。和馬くんの免疫細胞が頑張っている音を聞いているだけで、私の細胞も活性化されるから。……あ、そうだ。熱を下げるために、一番効果的な方法を試そうと思って」
愛良はそう言うと、おもむろに自分の上着を脱ぎ始めた。
「なっ、何してんだお前!?」
「『人間湯たんぽ』。古来より伝わる、体温を分け与える究極の民間療法だよ。さあ、和馬くん、シーツを捲って。私が直接、君の毒素を吸い取ってあげるから」
「それはただの添い寝だろ! 余計に心拍数上がって悪化するわ!」
その後も、僕のスマホが鳴るたびに(クラスメイトからの「大丈夫?」というLINE)、愛良は「不純物が混ざった電波は遮断しなきゃ」と言ってスマホを冷蔵庫の中に封印した。
「愛良、やりすぎだ……。僕はただの風邪なんだから……」
僕が弱々しく笑うと、愛良は一瞬だけ寂しそうな顔をして、僕の額に乗せた冷えピタをそっと押さえた。
「……だって、和馬くん。君が弱ってると、私がいないとダメなんだって思えるから。……このまま、ずっと治らなければいいのにって、少しだけ思っちゃうんだよ」
その瞳は、ゾッとするほど深く、そして震えるほど純粋だった。
僕はため息をつき、重い腕を伸ばして彼女の頭を軽く叩いた。
「……治るよ。治って、また学校で君に追いかけ回されるんだ。だから、そんな顔するな」
「……っ。和馬くんが……弱ってるのに、カッコいいこと言った……!」
愛良のスイッチが再び入った。愛良は僕の手をギュッと握りしめ、目を輝かせる。
「決めた。和馬くんが完治するまで、この部屋の鍵は私が管理しておくね! 栄養満点の特製ドリンク(謎の緑色)もあと3リットル作ってくるから!」
「……やっぱり、早く治さないと命が危ないな」
愛良の「監禁看病」は、熱が下がるまで丸二日間、一睡もさせてもらえない勢いで続いたのだった。
◇
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幼馴染の愛が重すぎて、僕の家の鍵が毎週増える件 冰藍雷夏(ヒョウアイライカ) @rairaidengei
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