第8話 地獄の(?)お泊まり会。パジャマと監視と眠れない夜
それは、些細なきっかけだった。
僕の両親が急な法事で一晩家を空けることになり、それを聞きつけた愛良が、光の速さ「和馬くんの護衛」を名乗り出たんだ。
「いい、和馬くん? 泥棒、火事、そして雌狐(他の女)。夜の危険は至る所に潜んでいるの。私が君の枕元で24時間体制で監視……じゃなくて、守ってあげる」
そう言って、愛良は特大のスーツケースを抱えて僕の家に乗り込んできた。
「愛良……その荷物、何が入ってるんだ? 一晩だぞ」
「最低限の生活必需品よ。着替え、洗面用具、和馬くんの予備の心拍計、それから万が一のための催涙スプレーとスタンガン……」
「今すぐ帰れ!!」
結局、武器類は没収して玄関に置かせたものの、愛良はまるで自分の家のように僕の部屋に馴染んでいた。
彼女はクローゼットの隙間やベッドの下を丹念にチェックし、「よし、盗聴器も女の髪の毛も落ちてないわね」と満足げに頷く。
風呂上がり、僕はリビングで凍りついた。
愛良が着ていたのは、可愛らしいピンクのフリルがついた……ではなく、「僕が去年捨てたはずの、中学校時代のジャージ」だった。
「お前、それ……! 捨てたはずだろ!?」
「ふふ、ゴミ捨て場から救出して、毎日洗濯して神棚に飾ってあったの。やっぱり和馬くんの匂いに包まれてると、魂が安定するわ……」
「恐怖でこっちの魂が不安定だよ!」
その後、夕飯を食べ終えても愛良のテンションは衰えない。
僕がソファでテレビを見ようとすると、愛良は当然のようにその隣、というかほぼ膝の上に密着して座ってくる。
「ねえ、和馬くん。これ、実質的にハネムーンだよね? 明日の朝、私が作ったお味噌汁を君が飲んで、私が君のネクタイを締めて……」
「まだ高校生だし、お前と結婚した覚えはない!」
◇◇◇
夜11時。
僕は愛良にリビングのソファで寝るよう説得したが、愛良が「和馬くんが寝ている間に誰かに誘拐されたらどうするの!」と泣いて(演技で)抗議したため、渋々同じ部屋に布団を並べて寝ることになった。
電気を消すと、暗闇の中で愛良の吐息が近くに聞こえる。
「……和馬くん。起きてる?」
「……寝る努力をしてるところだ」
「私、今、人生で一番幸せ。和馬くんの寝息をBGMにして眠れるなんて。……あ、今の寝息、ボイスレコーダーで録っていい?」
「ダメだ。寝ろ」
「……ねえ、和馬くん。ちょっとだけ、手、繋いでもいい? 寂しくて死んじゃうかもしれないから」
暗闇の中で、愛良の震える手が、探るように僕の手を探している。
その指先には、料理をした時についた、あの絆創膏がまだ貼られていた。
僕はため息をつき、「……一瞬だけだぞ」と、彼女の小さな手を握り返した。
「……っ!!」
愛良の体温が急上昇するのがわかる。 愛良は和馬の手を壊れ物のように両手で握りしめ、幸せそうにシーツに顔を埋めた。
(……まあ、たまにはこういう平和な夜も……)
僕がそう思ったのも束の間。
「和馬くん、手が繋げたから、次は同じ布団で……」
「調子に乗るな! 離せ!」
結局、愛良が興奮しすぎて深夜まで「将来の子供の名前(12人分)」を語り続けたため、僕が眠りにつけたのは夜が明ける頃だった。
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