三日目

20○○年7月17日。この日はいつもより研究所内が騒がしかった。

沢山の研究者が縦横無尽に駆け巡っていた。奥からは少し怒鳴り声が響いていた

そんな中でも俺は担当の研究者に呼ばれ、少女に飯と話し相手になる。


重い扉が閉じるのと同時に少女の姿が見えた。

今日は座っているのではなく、引きずる様に歩いていた。


「よう。嬢ちゃん」

そう俺が話しかけると、その少女は俺に気づいたのか、歩くのを止め鉄格子の前に座った。


「……よう」

そう返答する。と言うよりは発音を真似して呼んでいる。に近かった。

「今日は何か知らんが飯の量が多いぞ」

そういいながら持ってきたトレーを受渡し口に入れる。

少女はそれを受け取り、ゆっくりと食べ始める。


「……なぁ、嬢ちゃん。日本では食べる前に言う言葉があるんだが、知ってるか?」

そう俺は聞いてみた。


「し……知らない」

俺は明らかに返答した少女に驚いたが、何も聞かずに

「それはな、"いただきます"だ。日本人は飯を食べる前に感謝の気持ちを伝えるんだ」


「感謝……気持ち……」

そうすると少女はスプーンを置き

「い……いた……だきます」

そう言い飯を食べ始めた。


その姿に思わず笑ってしまった


「ど……どう……した?」

そう言いながら首を傾げる少女


「いや、なんでもないよ」


少女がふと自分の娘に見えた。

初めて「いただきます」を言ったその日を思い出した。


「泣い……てる?」

そう指を指され俺はいつの間にか流れていた涙を指で拭く。

「いや、泣いてないよ少しゴミが入っちゃったんだ」

そう言い聞かせるように言う言葉に少女は腕をぐるぐると回す。

その行動の意味が分からず理由を聞く。


「ゴミ消してる」

そう言った言葉を理解するのに少し時間があった。

俺は思わず大笑いした。

少女は"何がおかしい?"と言う表情で俺を見ていたが、次第に少女もくすくす笑っていた。


「いいじゃねぇか、嬢ちゃん。ありがとうな」


「あ……ありがとうな!」

鉄格子越しに見える少女は少し楽しげだった。


「ね……ねぇ、星って何?」

心臓が跳ねるのがわかった。

誰も"星"なんて言葉を使っていない。

ましてや、禁止事項で外の世界の話をする事が載ってあったから言っていなかった。


「誰から聞いたんだ?」


「わ……分からない」

少女は隠している訳でもなく、本当に自分でも分からない様だった。


「やっぱ……いい」

そう言うのと同時に扉がノックされた。


「帰る時間だ。またな」


「明日……来る?」


「……あぁ。」


「またな!」


そう言い俺は二重扉を開け外に出ていく。



そして、いつもの研究者から記録用紙を渡される。


《記録用紙》


様子:大人しい少女


言語能力:低め。学習している


身体状況:右眼付近にヒビのような傷あり


重要事項:外の話をしていないのにもかかわらず、【星】の単語を使った。


そしてその記録用紙を研究者に渡す。

研究者はじっくりと記録用紙を読み、数回頷いてから

「このことは上に報告させていただきます。ご協力ありがとうございます。」

そうロボットの様な無機質に言う研究者が不気味に感じられた。


俺は夜風を浴びて1日が終わった。

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檻の中の鬼 wkwk-0057 @wkwk-0057

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