第5話 証紋と命令
神殿騎士の立会いの下、書類へのサインをしたところだった。
そして証紋官が呪文を呟くと、一枚の高級そうな紙に、模様が現れた。
その模様はペンも用いないところで、人の手が書いているように模様が描かれる。
消えたり書かれたり、見たことのない不思議な光景だった。
「これは……何をしているのでしょうか」
レンドルは初めて見る光景を、神殿騎士に率直に尋ねた。
「君の魔力紋を記録しているんだ。証紋の記録だね」
「これが証紋、学校では習っていましたが、初めてみました」
「商人や冒険者になると見ることは多い。今回のものとは違うが、同じようなものだと思っていればいい」
「これを記録して何になるんですか」
「君が魔法で悪さをすると、魔力の痕跡が残る。それと照合することで犯人が分かる」
「えっ、悪さなんてしないですよ……」
「はは、そうだろうが、法で定められているからね。あとは、君の加護を調べるために使うんだ」
「わかるんですか?」
「あぁ、ある程度分かる、身体強化や火の加護は多く見てきたからね」
そう話しているうちに、紋が描かれた。
証紋官は一呼吸おいて、レンドルのほうを向いた。
「身体強化だ。かなりの強い紋だな」
「火の加護ではなかったんですね」
「それは稀だ。私が見た中では一人だけだった。おいおい悲観するなよ。火の魔法も訓練次第で使えるようになる。身体強化魔法なんだ、使えば使うほど馴染む」
証紋官はそういうと、作成した証紋を頑丈そうな鞄にしまった。
年季の入った革の鞄は、よく手入れをされているようだった。
証紋官が何かつぶやくと、鞄から僅かに淡く銀色に光ったように見えた。
分かる。
これは魔力だ。
魔力を感じたのだ。
直接手で触れていないが、力を感じ取れた。
そういえば、父親も似たような鞄を持っていたことを思い出した。
盗難防止用の護紋が鞄の内部に描かれていて、魔力を流すと内側から鍵が掛かる仕組みだったはずだ。
「よかったなレンドル君、ではこれを渡そう、必ず届けるように」
神殿騎士から二通の封書を手渡された。
皇国の紋で封蝋された上質な紙で作られた封書だ。
封書を渡されたときに、一瞬手を止めた。
こちらもわずかだが魔力を感じた。
加護を授かる前だったら、まったく分からなかっただろう。
「同じものを、君の所属している部隊に届ける。君からも上官に渡してほしい」
小さく頷く俺に、神殿騎士が続けて説明してくれた。
「レンドル君、これは君が、聖人サンルードの加護を与えられたことを証明する重要な書類だ」
一通は直属の上司に、もう一通は父親に渡すように指示された。
「先ほど証紋官が作成した魔力紋は国で管理される。
それと、急がないと昼時間が終わるぞ、レンドル訓練生」
レンドルはあわてて頭を下げ、急いで宿舎に戻った。
わずかな時間、高額な祈祷料だったが、彼は喜びを隠せなかった。
火の加護ではなかったけれど、火の魔法も訓練次第では使えるようになるらしい。
魔力を感じ取れるようになり、身体強化魔法もすぐに使えた。
体に生命力が満ちるのを感じ、感覚的に魔法が使えることが分かった。
レンドルは、間違いなく力を得た。
それはブルード教官の強さに匹敵すると感じた。
歴戦の魔法戦士であるエルフたちのような強さを。
そして、英雄と呼ばれる者たちが、なぜ英雄たりえたのか――
少し、分かった気がした。
「うれしそうだったが、訓練生とはいえ有用な人材を遊ばせておくわけにはいかん」
神殿騎士は、風のように走り去ったレンドルを見て、証紋官に話しかけた。
「明日ルベリア遠征だと言っていたな、訓練生は後方支援、だが」
証紋官は一瞬複雑そうな顔をしたが、あきらめたように肩を落とし、神殿騎士に目を向けた。
「最前線だ」
神殿騎士は短く答えた。
それが、ルベリア王国遠征の前日だった。
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