第3話 理不尽な世界
この世界は、あまりに理不尽だと思う。
捕虜として神殿に囚われたままの私――ネオネスは、そう考えずにはいられなかった。
百年ほど前、新天地を求めて船団を組み、この大陸に降り立った。
この地には、恐ろしいほど強力な魔物が跋扈していた。
四千年前の魔神戦争のあと、世界に溢れ出した魔物だけではない。
言葉を理解する知性を持った魔物も存在していた。
思うように開拓を広げられず、幾重にも辛酸をなめた。
多くの犠牲を出したことを、今でも忘れない。
ようやく、まともな生活ができる兆しが見え始めたころ、無慈悲な暴力が襲った。
神々を滅ぼした存在、竜の出現だ。
魔法はほとんど無効化された。
氷の魔法だけが、かろうじて通じる程度だった。
そんな災厄が、周期的に訪れるようになった。
戦いと呼べるものではなかった。
何度も逃げ回り、同胞も、私も傷ついた。
最初はゼイナの強力な氷槍で、翼を傷つけることができた。
聖樹から加護を授かるようになってからは、徐々に竜の襲撃から身を守れるようになった。
だが、ある時から、竜の襲撃に合わせて、闇に潜んでいた古の狼が夜襲を仕掛けてきた。
知性ある魔物の中でも、こいつは非常に厄介な存在だった。
私の妻ゼイナも、命を奪われた。
銀瞳のエルフ、中でも加護を持つ者ばかりを襲うようになった。
竜と戦うための貴重な戦士たちを、狙うようになったのだ。
人族がこの地に足を踏み入れるようになったころだ。
最初は魔物の討伐で共闘することもあった。
だが、争いが起きるのに時間はかからなかった。
分かっていたことだ。
彼らは、世界樹の果実を狙っていたのだから。
今にして思えば、聖樹の魔物の存在を、もっと念入りに隠しておきたかった。
加護を授かる瞬間を隠し切れず、人族に争いの口実を与えてしまった。
加護のことは、何を言われようと秘匿し続けようとしていたのだ。
だが結果として、魔物を庇っていると見なされた。
真実ではないが、彼らにとっては耐え難い「事実」を作ってしまった。
分水嶺だったのかもしれない。
もっと早くに世界樹の果実を分けていれば。
聖樹の魔物からの加護を、人族にも与えるべきだったのだろうか。
いや、だめだ、戦いは避けられなかった。
人族を排除しても、世界樹の果実を奪いに何度でも現れたはずだ。
だから、今こうしているのも必然なのだ。
世界樹の果実は、寿命を延ばし、万病に効き、魔力すら伸ばす。
サンガードとの交渉の場で捕らえられた私は、愚かすぎた。
甘すぎたのだ。
戦時中だというのに、人族を信用しすぎた。
サンブラントが、あれほど強力な加護を得ているとは。
全くの想定外だった。
こちらも加護持ちの精鋭を選んでいたが、
まったく歯が立たなかった。
仲間を危険にさらし捕虜にされた。
その挙句、したくもない人族の真似事を、誇り高い同胞に強いている。
巫女たちは、私からの指示を受け取り、見せかけの儀式を行う。
私は同胞を助ける方便として、サンガードを欺いているのだ。
いつまでも、こんなことは続かない。
「それでも、私を信じてくれている仲間を、あきらめはしない」
一人でいると、無意識に言葉に出てしまう。
自分に言い聞かせているのだろうな。
自問自答ばかりだ。
ここに留まるわけにはいかない。
西の地に同胞の住む、ユグ=シルヴァンへ脱出しなければ。
もう、何人ものエルフが、銀狼に殺されている。
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