第2話 捕虜の神殿

 ネオネスは、サンガードの神殿の執務室にいた。

 そこから見える礼拝所の広間には、太陽の光が差し込み、大理石の柱に反射して、十分な照明となっていた。

 今日も加護を求めて、人族が神殿に訪れ始めている。

 すでにエルフの巫女たちが、聖人サンルードの加護を与えんと、膝を折り、手を胸に当てて祈祷する人族に儀式を行っていた。


 エルフたちは、この大陸で聖樹と呼ぶ魔物と出会っていた。

 それは探し求めた末の邂逅ではない。

 世界樹を見つけた後、ある時、唐突にその魔物のほうから、干渉があった。

 その際に加護を受け取ったのだ。

 巫女たちの『継承の加護』は、意図的に生み出すことに成功した加護の一つだ。


 彼らの故郷、エルフの大陸にも、多種多様な植物の魔物がいた。

 聖樹は世界樹にどことなく似ているが、根を這うように動かし、自律して移動する。

 その性質から、エルフたちはこれを魔物の一種として認識していた。


 今はエルフたちの拠点ユグ=シルヴァンと、新興サンガード皇国は戦時下にある。

 巫女たちはフードを深く被り、特徴的な長耳が見えないように、儀式を執り行っている。

 サンガードにもエルフがいないわけではない。

 ただ、揉め事に巻き込まれないための、ネオネスの判断だった。


 本来、エルフたちはこんな儀式をする必要はない。

 捕虜となった身を守るために、加護を授ける神官の役割として申し出たのだ。

 捕虜のエルフがどのように扱われるのか、想像に難くなかった。


 加護を「継承」させることができる力を、双子姉妹は授かっていた。

 守らなければならない。この子たちを――『加護を継承させる加護』を。


 神殿で行う儀式が、実は「加護の継承」だと知られぬよう、人族的な儀式を模倣した。

 儀式は、魔力的に少人数しか受け入れられない――時間がかかるように取り繕った。

 神殿の建造を進言し、聖人を称えるべきだと、誘導もした。

 それでいて、神聖に見えるように神秘的な演出も施した。


 最初、サンガード側は難色を示した。

 粘り強く交渉し、実際にサンガードの騎士に加護を発現させたのだ。

 結果、自分たちの有用性を示すことで待遇は改善された。


 だが、このままでいいはずがない。

 帰るべき場所がある。

 ネオネスは、ここから脱出する実現可能な方法を、もう何年も模索していた。

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