デート

 聖川さんとのデート。女の子同士で遊ぶ、というのは実はない。いつも幼馴染の大地くんと遊びに行ったりしてたからだ。


 お母さんにもお姉ちゃんにも「この子と遊びに行くんだけど……」と相談したら、服はちゃんとしろ、髪型はアレンジしろと色々アドバイスを貰った。


 なので、今日の髪型はハーフアップにコンタクト。無難なワンピースを着ただけだ。


 お姉ちゃんが聖川さんを知っていたみたいで「あの爽香とデートならこのワンピ着ていきな!!」と身長が同じくらいのお姉ちゃんから服を貸して貰えた。


 お姉ちゃんが居て、こんなに心強い事はなかった。ありがとう。オシャレ好きなお姉ちゃん。


 待ち合わせ場所に着くと、色んな人が遠目にコソコソと話して居るが、それは多分待ち合わせ場所にもう着いている聖川さんの事だろう。


 だって、あの子、まるでラウンドマークくらい目立つし。


「美澄せんぱーい!!」


 うわ、美人。ベージュのコーデって本当に大人っぽくないと似合わないのに凄く似合ってるし、やはりモデル。オーラが違う。


 なのに、私に駆け寄って来る姿はいつもの、学校で出会う彼女そのものだ。


「美澄先輩。おはようございます」


 ニコニコしながら、私に挨拶してくる聖川さん。相変わらず人懐っこいなぁ。


 なんか犬みたいだ。尻尾と耳が見える。


「聖川さん。おはよう。いつもと髪型とかコンタクトにしたのによく分かったね」


 朝、お父さんが「べ、別人!?」とリアクションしてたくらい普段の私と違うし。


 ちなみにメイクはお姉ちゃんがやってくれた。


「先輩の事なら直ぐに分かりますよ。だって、大好きな美澄先輩ですから。今日、本当に美澄先輩との初デートでドキドキします。そのハーフアップもコンタクトも服装も全部似合ってて可愛いですし。……というか美澄先輩、そろそろ私を名前で呼んでくださいよ〜」


「へ、な、名前?」


「はい。私、先輩に名前で呼ばれたいです」


 うっ、美人の困り眉、凄く可愛い。


「じゃ、じゃあ、爽香ちゃん」


「はい。美澄先輩。じゃあ、水族館に行きましょ〜!!」


 私に名前を呼ばれて、嬉しそうに返事をしたご機嫌な聖川さん……改め、爽香ちゃんに手を引かれて意気揚々に水族館へと向かうのだった。








「美澄先輩、見てください! あのペンギン可愛いですね!」


 ナチュラルに腕を組んで、ペンギンが可愛いと言うが、私的に見ればペンギンよりも爽香ちゃんが可愛いと思う。


 なんというか、太陽くらい眩しいし、人懐っこいし、愛嬌あるし。


「ペンギンも確かに可愛いけど、私は爽香ちゃんの方が可愛いと思うけどなぁ」


「へっ!?」


 瞬間的にボッと顔を真っ赤にさせて驚く爽香ちゃん。いや、個人的には本音なんだけれども。


「……あ、ありがとうございます。その、美澄先輩に褒めて貰えるのはかなり嬉しい、です」


 こういう世辞なんて浴びる程受けてそうな爽香ちゃんが動揺してるのは珍しい。


 なんて呑気に思いながら、イルカショーも見たいという爽香ちゃんと歩いていたら、近くに見覚えのある人物を見掛けた。


「あ、」


 大地くんと鹿野さんだ、と気が付いて身体がフリーズする。二人共、楽しそうにしていてまだ、胸が少し痛む。


「……美澄先輩?」


 頭に疑問符を浮かべて私の様子を伺う爽香ちゃん。


「あ、えと、遠回りして良いかな?」


 明らかに様子がおかしい私を見て、爽香ちゃんは静かに頷いてくれた。


 結果的にあの二人に鉢合わせしそうなイルカショーは見送って、遠回りした上に来た、クラゲの水槽を見つめる。


「あの、ね。爽香ちゃん」


 とりあえず、説明した方が良いだろう、と私が一方的に大好きで、最近私が失恋してしまった相手の幼馴染が彼女とデートしてた所を見て、まだ引きずっている事を。


 すると、爽香ちゃんは何も言わずに私を抱き締めてくれた。


「美澄先輩」


「……えと、ごめんね。デートなのにこんな事言っちゃって」


 最悪だ。爽香ちゃんはせっかくの休みを私の為に使ってくれたのに。


「美澄先輩。なんで、先輩が謝るんですか。何にも悪くないのに、しかもその人、こんなに可愛い幼馴染の先輩をフッてるの、見る目なさ過ぎです。しかも、お弁当、その人に元々作ってたんですか。尚更、腹立ちます」


 モデルの時のクールな表情とは真逆で、プンプンと可愛らしく怒る爽香ちゃん。


 そんな爽香ちゃんが可愛らしくてなんか笑ってしまう。


「あ、先輩。笑わないでくださいよ〜。もう、とにかく、そんな人の事なんて思い出せないくらい、今日は私が美澄先輩を楽しませてあげます!!」


「ふふっ、そうだね。ありがとう。楽しみにしてるね!」


 爽香ちゃんの陽だまりの様な体温、眩しいくらいの笑顔に、傷んでいた胸がスっと消えていった。







「美澄先輩。お揃いの物を買いましょ〜!」


 そう言って爽香ちゃんが見せてきたのはペンギンのぬいぐるみ。


「お揃いの、ってもう普通のぬいぐるみじゃない。普通はキーホルダーとかじゃないの?」


 まぁ、愛くるしい顔したペンギンのぬいぐるみは、抱き締めたら気持ち良さそうではある。


「ふっふっふ。私は水族館の中でもペンギンが一番好きなんですよ。なので、このペンギンをお弁当のお礼にプレゼントします!! 材料費も手間も栄養バランスも考えて貰ってるお弁当を作って貰ってるので、絶対に貰ってくださいね! 後、私と思って可愛いがって欲しいです!」


 などという強欲なお願いにまた吹き出してしまう。


「爽香ちゃん、お願いが強引だし、強欲で面白い」


 でも、そっか。私がお弁当を考えて作ってるってのは分かってくれてたんだ。爽香ちゃん。


「ふふっ。有難く貰うね。ありがとう。爽香ちゃん」


 それから、水族館から出ると爽香ちゃんはタクシー捕まえて私を家まで送ってくれた。


 先輩なんだから、絶対に逆じゃないかと言ったら、爽香ちゃんがサラッと「先輩は本当に可愛いんですから、ナンパされちゃいますよ。それに、今日デートに誘ったのは私なので。このくらいさせて下さい」なんてウインクされて、ドキリとした。


 自宅に帰り、自室で今日爽香ちゃんに貰ったペンギンを見つめる。


「可愛い。あのクールそうな見た目で可愛いペンギンが好きってのも、かなりギャップあって可愛い」


 ぎゅっと試しにペンギンを抱き締めると、ふと今日爽香ちゃんに抱き締められた事を思い出した。


「なんか、安心したな……」


 見た目はクールな孤高の美しい狼って感じなのに、内面は陽だまりのように眩しい爽香ちゃん。


 爽香ちゃんの事を丁度考えていたら、メッセージアプリに爽香ちゃんからのメッセージが来た。 


「返信不要。今日は楽しかったので、また誘います、か」


 ふふっ。今度は私に誘わせて欲しいな。


 なんて、思いながらその日は大地くんとの失恋の傷はもう癒えたかのように思い出さなかった。

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