【第二章:偶然は、過去を連れてくる】

「朝比奈さん、今日このあと予定あります?」


仕事終わり、

佐久間が声をかけてきた。


「特には」


「知り合いの集まりがあるんですけど、

 よかったら一緒にどうです?」


断る理由はなかった。

むしろ、

何かで気を紛らわせたかった。


会場は、

駅から少し歩いたところにある小さなバー。


木目のカウンター。

柔らかい照明。

静かに流れる音楽。


“ちゃんとした大人の空間”だった。


数人と名刺を交換し、

グラスを手にした、その瞬間。


——視界の端が、揺れた。


ありえない輪郭。

ありえない色。


心臓が、

一拍遅れて、

激しく跳ねる。


「……は?」


喉が、

乾く。


そこにいたのは、

澪と瓜二つの女性だった。


同じ顔じゃない。

でも、

脳が拒否するほど似ている。


世界が、

音を失った。


「初めまして」


その声が、

記憶を直撃する。


——同じじゃない。

——違う。


何度も自分に言い聞かせる。


それでも、

視線が離れない。


名前を聞くのが、

怖かった。


「結城(ゆうき)です」


その名を聞いた瞬間、

少しだけ、救われた。


澪じゃない。

でも、

澪じゃないからこそ、

余計に残酷だった。


彼女は生きている。

笑っている。

目の前にいる。


——澪が、

そうであってほしかった姿。


朝比奈の中で、

閉じたはずの箱が、

音を立てて開き始めた。

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