第4話 領域展開…『苦情無理処』

――少し時間を遡る。


溶岩マンが、

この最悪な依頼を受けた理由。


それは、

闇の魔王

**『ガンメン・スクナッ』**の一言だった。


「……あの女を、消せ」

魔王は玉座に座っていた。


威厳? ある。

邪悪? ある。


だが――

やたら小顔だった。


「……顔ちっさ……」

溶岩マンが思わず呟くと、

ガンメン・スクナッは

ニッと笑った。

「顎、削ってるからな」


どうでもいい情報だった。


「相手はSM女王フジキちゃーん。

 だが所詮は人間。

 お前なら余裕だ」

溶岩マンは、

その言葉を信じた。


――これが、すべての間違いだった。


そして現在。


森の中。


フジキちゃーんの前に立つ溶岩マンは、

すでに汗をかいていた。


(……帰りたい)


心の底から、

そう思っていた。


フジキちゃーんは、

楽しそうに微笑みながら、

ゆっくりと呪文を唱える。


「――苦情無理処」


一瞬、

世界が止まった。


「……は?」

溶岩マンがそう言った時には、

もう遅かった。


――領域展開。

苦情無理処(くじょうむりっしょ)。


逃げ場のない、

完全密閉空間。


ここでは、

相手の言い分・過去・言い訳・トラウマが

すべて一方的に流し込まれる。


「や、やめろ……!」

溶岩マンの脳内に、

勝手に映像が流れ込む。


溶岩マン過去篇…


少年時代の溶岩マンは、

遠くから銭湯を眺めていた。


夕暮れ。

湯気。

暖簾。


「……」

少年は、

入れなかった。


理由は単純。


――体温が高すぎた。

「入浴はご遠慮ください」

そう言われた日のことを、

溶岩マンは今でも覚えている。


(……俺、

 溶けちゃうから……)

友達は、

みんな中へ入っていく。


笑い声。

桶の音。

瓶牛乳。


少年溶岩マンは、

一人、外で待った。


「きっかけは……

 単純だった」

銭湯のガラス越しに、

楽しそうな笑顔が見えた。


その瞬間。


――ドロリと、

感情が溶けた。


「……熱いってだけで……」

胸の奥で、

何かが燃え始めた。


「……仲間外れ……」

その日から、

少年は決めた。


全部、溶かそう。

世界を。

常識を。

ぬるい場所を。


――そして、

溶岩マンは生まれた。


「や、やめろォォ!!」

現在。

溶岩マンは頭を抱えて叫ぶ。


「その記憶は……

 俺の……!」


フジキちゃーんは、

冷たい目で見下ろしていた。


「はい、苦情通りません」

領域内に、

無慈悲なアナウンスが響く。

「こちらは

 苦情無理処ですので」


溶岩マンの足元が、

固まり始める。

溶岩が、

冷やされ、

閉じ込められていく。


(……ああ……)

溶岩マンは悟った。


――この依頼、

 最初から詰んでた。


遠くで、

ガンメン・スクナッが

くしゃみをした。


理由は分からない。


多分、顔が小さいからだ。

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