第3話 主人公やめろと言われた日

パイラントは、

縛り上げたおにぎりマンを見下ろしながら、

淡々と、しかし残酷に告げた。


「――お前、もう、主人公やめろ」

その一言は、

鞭よりも、

打ち切りよりも、

はるかに深く刺さった。


「……」

おにぎりマンの動きが止まる。


夜風に、

崩れかけの米粒が舞った。


「主人公ってのはな、

 人気があって、

 活躍して、

 編集に守られる存在だ」


パイラントは肩をすくめる。


「お前は違う。

 縛られて、

 放置されて、

 誰にも助けられない」


その瞬間。

――ブチンと、

何かが切れた音がした。


それはロープではない。


おにぎりマンの中の、

最後の理性だった。

「……」

震える声で、

おにぎりマンは言葉を絞り出す。


「……俺には」

顔を上げる。


「強くなんかなくたって

 一緒にいて欲しい仲間がいねえから………!!」

米粒が、

拳からこぼれ落ちる。


「俺が誰よりも強くならなきゃ

 俺が俺を失っちまう!!!」

声が、

街に響く。


「力いっぱい戦う方法を考えた…

 俺を失わねェ様に………!!」


パイラントの表情が、

初めて歪んだ。


「主人公の座が

 遠くへ行かねェ様に……」


おにぎりマンは、

ゆっくりと立ち上がる。


「お前はもう……

 俺について来れねェぞ……」

縛りが、

勝手にほどけた。


説明はない。

主人公補正だ。


「俺の技はみんな……

 一段階進化する」

おにぎりマンは、

力士のように大地を踏み鳴らし、

片方の拳を地面に叩きつけた。


――ドンッ。


その瞬間。


蒸気が、

おにぎりマンの全身から噴き上がる。


「……ニギリ」

白い蒸気が渦を巻く。


「2」

心臓の鼓動が、

不自然な速さで鳴り始める。


ドクン。

ドクン。

ドクン。


「な……なんだ、その雰囲気……」

パイラントが一歩、後ずさる。


おにぎりマンの目は、

赤く光り、

米粒が高速で振動していた。


「主人公、

 ナメんなよ……」


同時刻。


ラブーンシティ近辺、

人気のない森林地帯。


大地を溶かす熱を放つ存在――

溶岩マンの前に、

ひとりの女が立っていた。


SM女王、

フジキちゃーん。


彼女は、

ゆっくりと微笑む。


「……ふふ」

そして、

目元に付けていた

SM嬢特有のアレを、

指でずらした。


露わになったその目は――


水色に光っていた。


「……カラコンかよ……」

溶岩マンが呟いた瞬間。


フジキちゃーんは、

楽しそうに言った。


「あたし……

 最強だから♬」

その言葉と同時に。


空気が、

重く沈む。


重力が増したかのように、

周囲の空間そのものが歪み始めた。


木々が軋み、

溶岩の流れが止まる。


溶岩マンは、

初めて理解する。


――あ、

こいつ、

ギャグ世界の外の存在だ。


二つの戦場。


二人の覚醒。


主人公の座を巡る戦いは、

誰の想定も超え始めていた。

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