第2話 洋館のメモは大体どうでもいい

ムリス(※ムリ(ッ)スの略称)は、

洋館の中を慎重に調査していた。


慎重、とはいえ

この世界で慎重に行動しても

だいたい無駄になることは、

まだ彼は知らない。


埃まみれの机。


引き出しの一段目。


そこに、一枚のメモ書きがあった。


ムリスは、声に出して読んだ。


『お…お刺身…食べたい』


『じゃあ、パチンコやめなきゃね』


『パチンコ…やめたくない…』


『じゃあ、お刺身やめなきゃね』


『お…お刺身…食べたい…』


『じゃあ、パチンコの「パ」抜きしなきゃね』


『…ち…ちん…自主規制』


「……」

ムリスはメモをそっと机に戻した。


数秒、沈黙。


そして、静かに結論を出す。

「……パチ狂いのおばあちゃんと、

 闇金屋のホストの会話だな」


なぜ分かったのかは、

本人にも分からない。


だが、この世界では

分かる時は分かるのだ。


「……でも、なんでこんなやり取りがこの洋館に……?」

そう思いながら、

ムリスは机の引き出しをさらに開けた。


二段目。

そこにあったのは――


『闇金ウシ〇マくん』全巻。


「……あ、なるほど」

すべてを理解した顔だった。


理由も背景も伏線もどうでもいい。


この洋館の住人は、

たぶん精神がだいぶ終わっていた。


その時。


――ギャアアアアアア!!

洋館の外から、

はっきりとした悲鳴が聞こえた。


ムリスは、

「うわ、事件じゃん」と

一応警察官らしい反応をし、

窓に近づいて外を覗いた。


そこに見えた光景。


夜の街灯の下。


人外人造モンスター

《パイラント》。


筋肉と拘束具と悪意で構成された存在。


そして――

その前に、

亀甲縛りで縛り上げられ、

鞭打ちされている


ゾンビ化したおにぎりマン。

「た、助けてくれええ!!ムリスゥゥ!!俺、主人公なんだぞおお!!」

必死に叫ぶ、

賞味期限切れヒーロー。


ムリスは、

一瞬だけ、

ほんの一瞬だけ目を細めた。


「……」

そして、

カーテンを閉めた。


「……外は危ないな」

ムリスは、

何事もなかったかのように

洋館の捜索を再開した。


警察官としてどうなのか。

主人公としてどうなのか。


そもそも物語としてどうなのか。


そんな疑問は、

この世界では全部自主規制だ。


外では、

おにぎりマンの悲鳴が

しばらく続いていたが――


やがて、

夜の街に溶けて消えた。

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