第4話 最後で最初の召喚
いく年かたった。
私は自分の生まれた世界で、日々鍛錬を欠かさず、その日が来るのを待ち続けた。二度目の召喚で老いた女王から託された愛と願い、そして、三度目の召喚で若きサーシャを救うという使命。その全てを果たすために。
究極のミニマリストとでも言うのだろうか、私は家族をさえも持たず、周囲とは最低限必要なかかわりだけで、わずかに繋がりのある人には世捨て人と呼ばれていた。全ての時間を、異世界での戦闘に適応するための鍛錬に費やした。
そして、ある日、ついにその時が訪れた。身体の奥底から込み上げてくる強烈な予感。これが、最後の召喚。
まばゆい光の通路を通り抜けると、懐かしいローデシア王国の召喚陣に降り立っていた。
私の目の前に、彼女が見えた。
召喚陣から見る彼女は、幼く、たよりなく、そしてなにより愛おしかった。
「あなたが勇者様?」
不安と期待に揺れるその瞳を見て、私の胸は熱くなった。
「そうです、王女様。もう大丈夫ですよ」
私は優しく、しかし確信に満ちた声で答えた。
「今までも、これからも、ずっとあなたをお守りします」
【最強の魔王】
その魔王は、歴代で一番強かった。
老いた女王が言った通り、この三度目の召喚は、世界の命運を賭けた、本当の最終決戦だった。魔王の力は強大で、その影はこの世界全体を覆いつくしていた。
私は、過去の経験と、長年の鍛錬の全てをぶつけた。若きサーシャが守る王国のため、そして時を超えて愛を告げてくれた女王サーシャのため。
グリフォンは傷だらけになり、聖剣もひび割れた。王国軍は全滅寸前。最後に残されたのは、私と魔王の一騎打ちだった。
激しい攻防の末、魔王の心臓に聖剣を突き立てることに成功した。しかし、同時に魔王の怨念が込められた剣が、私の右の脇腹から背中に突き抜けた。
「あ、相打ちか。なんとかなったな……」
魔王は灰となって消滅したが、私はすでに身じろぎさえもできなかった。
途絶えそうな意識の中で、走馬灯のように、愛する王女との思い出が次々に浮かんできた。
幼く無防備な王女、サーシャ。
訓練場で私を叱咤激励してくれた、若くて美しいサーシャ。
数十年を経て、愛を告げてくれた、年老いた女王としてのサーシャ。
私は、傷だらけになったグリフォンに聖剣を託した。
「ありがとう、よくやってくれた。まだまだ迷惑をかけるだろうが、許してくれ」
グリフォンは、そんな事を言うなという目つきでコチラを見ている。その温かい視線が、私の最期を見とってくれるのかと思うと、寂しくなくてよかった。
やっぱり死ぬ時は大切な思い出が走馬灯のように出てくるんだな……。意識を手放そうとしたその刹那、目の前が光で溢れ、厳かな、それでいて優しい声が聞こえてきた。
【祝福】
「私は時の女神」
「タケル。あなたはよくやってくれました。最初にして最後の魔王を倒してくれたました。おかげで魔の力の輪廻が断ち切られ、この世界は解放されたのです」
女神の声は、世界そのもののように広大だった。
「さあ、あなたの王女様が待っていますよ……」
え……待っている?
まばゆい光の向こうに、美しい少女がいた。それは、私が愛した、そして私を愛してくれた、最初に会ったときのサーシャだった。
「サーシャ様……」
私が呼ぶと、彼女は一気に駆け寄ってきた。
「タケル様!」
彼女は、私の傷が治り、召喚された頃の若い姿に戻っていることに気づいていないようだった。ただ、私の存在だけを求めていた。
「さあ、二人とも、これからは、自分たちのために生きてください。あなたたちの愛は、時空と運命を超えて、この世界を救いました」
女神の声は穏やかだった。
「与えられる加護は少ないですが、二人に幸多からんことを」
女神の加護により、私たちは傷を癒され、この世界から解放された。
始めて召喚された頃の姿になった僕は、サーシャに手を引かれ、光のベールを抜けて、穏やかな草原に踏み出した。
草原の先には、とても大きな木があった。世界の重責から解放された、私たちだけの新しい場所。
サーシャは私の目を見上げ、静かに問いかけた。
「タケル様、ずっと一緒にいてくれますか?」
私は、彼女の手を強く握りしめた。
「はい、もちろん、私の王女様」
時を超えた勇者の愛の物語は、ここで永遠の結びを迎えた。
勇者の帰還 エラー・ハンドラー @uekitoken
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