白銀に刻む誓い

八坂 葵

白銀に刻む誓い

 ザクッ……ドサッ

 ……ザクッ、ドサッ


 毎朝聞こえる、屋根の雪下ろしの音。ボレリアスの街ではこれをしなければ、家は雪の重さで潰れてしまう。

 私、マリーナも領主の娘として、街の役に立とうと日々走り回っていた。


「マリーナ嬢ちゃん、もういいよ。早く学校へお行き」

「これだけやったらね。じゃないとアウラおばあちゃん、また無理するから」


 去年その言葉を受け入れて、早々と学校へ向かい、アウラおばあちゃんはギックリ腰になった。

 ――もう、あんな目には合わせたくない。

 私は再び雪にスコップを突き挿した。



 その日の放課後の帰り道、とある家の前に人が集まっていた。


「かわいそうになトールのやつ。まさか雪の中の石段に頭をぶつけるなんて」

「せめて高いところの雪だけでもどうにか出来れば、死ぬことはなくなるんだがなぁ」


 家の前で、真新しい棺桶の前で泣き叫ぶ奥さんを、大人たちが遠巻きに囲んで話していた。


(またっ……!)


 胸を抑え唇を噛み、それ以上聞かず、その場を離れた。


 私はこの街のみんなが好きだ。

 冬の厳しさにも負けず、何かあれば互いに助け合う、とても温かい人たちばかり。

 だけど雪が毎年不幸を運んでくる。


 私はお父さんともう一度話をするために、足を速めた。


 ◇◆◇


「マリーナ、何度も言ってるが、それは無理だ」


 いつも答えは同じ。

 雪下ろしの人や道具を導入してくれと言っても、決して首を縦には振ってくれない。


「お父さんはこの街が嫌いなの!?」

「バカ者!」


 いつもとは違う、厳しい答えが返ってきたことに、私は言葉を失った。

 見るとお父さんは涙を流していた。


「聞いたよ、トールのやつが転落して亡くなったってな。あいつは初等学校以来の友人だったんだ」


 そう言ってまた涙を零す。


 ――えっ!?

 二人が仲良くしてるところを私は見たことがなかったから、全く知らなかった。


「マリーナ、父さんも今すぐ雪対策はしてやりたいさ。しかし冬で仕事も減る中、領主として暮らしを守ることが優先されるんだ」

「……」


 大切な友人を亡くしても、暮らしを守るためにと言い切ったお父さん。

 納得できない。

 でも、その言葉の重みに、今の私が言い返せるものは何もなかった。



 夕方、家政婦のゲルダさんと一緒に街へ炊き出しのスープを配りに出掛けると、あることが気になり、ついゲルダさんに尋ねてみる。


「ねぇ、ゲルダさん。なんでこのスープって野菜たくさん入れてるの?」


「あぁ、それは旦那様が街の皆さんに少しでも栄養をつけてもらおうとね。本当にお優しい方だよ、旦那様は」


 こんな優しさにも気付けず、私は何回お父さんへ酷いことを言ってきただろう……。


 あまりの情けなさに、涙がじわっと出てきたが、ここで泣いたら心配かけちゃう。

 お父さんの気持ちに応えるため、私は無理に笑い手を動かした。


 ◇◆◇


 家に戻り、私は雪でまみれた防寒着を椅子にかけて、暖炉の近くで乾かす。


 いろいろ考えた一日で、頭が少し疲れた。

 ぼんやりしていると、防寒着の雪が滑り落ちた。


「あっ!雪はらい落とすの忘れてた!!」


 私は慌てて玄関先で雪をはらってまた椅子にかけ直す。


 すると、ふと光景が浮かぶ。

 屋根の上に温かいシートが敷かれ、雪が降っても積もらない魔導具。


 お抱えの工房で魔導具を作らせてもらっているからこそ分かる。それでは魔力がもたない。どんなに効率的に回しても一日もてばいいところだ。

 けど、もしそれが出来たら……?


 私は急いで机の奥にしまっていたある紙を取り出し、必要なことを書き入れる。

 そして両親のところへ行き、紙を差し出した。


「ごめん!私、ウルヴィス高等学校受験することにした」

「お前、王都の高等学校はどうするんだ?」

「そうよ、王都の方が近いし、私も安心だわ」


 二人の心配も分かる。

 でも!


「本当は開発に力を入れてるウルヴィスに行きたかったの。でも遠くなって心配かけると思って言い出せなかった」


「でもね、私は魔導具師を目指してる。だったら最高の環境で開発を学んで、仲間を作って、一日も早く、この街の雪事情をどうにかしたい!」


 そう言い切った私に二人とも黙り込む。

 しかしすぐにお父さんが


「分かった、マリーナの意思を尊重しよう」


 そう言ってくれた。

 お母さんも私の顔に諦めたのか、


「こまめに連絡しなさい。それだけが条件よ」


 と許してくれる。


「ありがとう、お父さん、お母さん」


 私は深々と頭を下げた。


 ◇◆◇


 その夜。

 部屋の窓から外を眺めていた。

 相変わらず深々と積もる雪。

 私はベッドに寝転んで、開いた手を天に向ける。


「神様」


 声はほんの少し震えていたけれど、言葉は迷わなかった。


「私はウルヴィス高等学校で開発を学び、この街の冬を必ず変えると誓う。だから……見届けてください」


 そうつぶやき、一度だけギュッと強く握り込んだ。

 私の誓いが天に届けと思いながら……

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白銀に刻む誓い 八坂 葵 @aoi_yasaka_1021

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