第十話 ギャン中はタイマンに強い自信
カケルは博徒の賽を発動してから、当たり前のように出したピンゾロを、それでも嬉しそうに回収した。ボス部屋の扉を開ける。
スキルの習熟に関連して、カケルには試してみたいことがあった。名付けるなら『多重時間差確率操作』だ。時間差で多数の確率操作を発動する。多分使うタイミングも、理由もそうそう無いであろう技術。
ふと思いついて、自分の頭の中でスキルに聞いてみれば、ピンゾロなら、事象によってはアラシ――二から六の一以外のゾロ目――でも出来ると答えが来た。
その時から三十階層のゴブリンキングをこれの餌食にして、視聴者の盛り上がりに貢献してもらおうと、カケルは決めていた。
部屋の中には玉座に見立てているのであろう、骨で出来た椅子が置かれている。その上に、ゴブリンの王は腰掛けていた。左肘を肘掛けに置きその拳で頬杖を突き、王の玉座の間を開けた不遜の者を、その体格でもって見下ろしていた。
今までのボスゴブリンとは違い、王は威嚇などしなかった。ただ静かにそこにあるだけで、空気が震えるような、そんな感覚をカケルにぶつけて来ていた。
カケルは、これが殺気か、と思うと同時に、もうこんな化け物が出てきたら残りの十階層はどうなっちゃうんだろうな、なんて呟いていた。
骨でできた素朴な冠、鈍く光る金属製の鎧。王が立ち上がれば、二メートルに届こうかという圧倒的な体格のデカさが目を引いた。玉座に立てかけてあるバカでかい戦鎚を軽々と持ち上げた王は、圧倒的な威容を持ちながら、静かに、そして油断なくカケルのことを見下ろしていた。
「こんなのゴブリンとは呼べないですよねぇ」
そう呟いたカケルはここに来るまで、視聴者の慣れ、というか飽きを感じていた。本当に飽きているかはカケルにはわからない。だが、戦っている場面を見せた方がいいと感じていた。それにカケル自身も、モンスターが絶望的に強くなる前に、基準となる三十階層のボスの強さは感じておきたい思っていた。趣味にも近い。
それに、
それを挑発と見たのか、王がカケルに向かって駆け出す。
「人間様にはさぁ」
圧倒的な体躯を持ちながら、カケルの本気よりも速い、理不尽な暴力の塊がカケルを襲った。王の両手が握る戦鎚が引き絞られるように溜めを作り、カケルの立つ場所に振り下ろされた。
「技術ってもんがあるんだよね」
そう言って王を煽ったカケルは、目に見えぬほどの早技で戦鎚を掻い潜り、王の腹を切り裂いていた。剣を振り抜いたカケルが、すぐさま部屋の中心までステップで距離を取り、王の間合いから逃れる。
:おー
:初めてかっこいいって思ったかも
:でもジャージ
:じゃ、ジャージだからって部分もあるから
王が戦鎚を地面につけたままゆっくりと振り返る。カケルが切り裂いた腹には左手を当てて血の流出を止めている。よく見ればジュワジュワと泡を連想させる音を鳴らしながら、カケルが切り裂いた傷が再生していく所が見えた。自己再生だろう。公式で上がっている映像でも、確認されていた現象だ。
わかっていた事とはいえ、目の前で与えたダメージを回復されるのは面白いことではなかった。
カケルが、剣を手にしていない左手で、王に向かって手招きをして挑発をする。王はそれに短く吼えることで答える。すぐさまカケルに向かって、戦鎚を引きづりながら猛烈な速度で走り出した。戦鎚が地面と擦れて、ギャリギャリという音を鳴らしながら火花が散った。
棒立ちに見えるほどの自然体でそれを待ち構えるカケル。
王がカケルを間合いに入れた途端に巨大な戦鎚を、まるで枯れ木の棒のように軽く、横に薙いだ。カケルは後ろにステップしながら、それを避ける。カケルの前髪が風圧で跳ねた。
:こわい
:当たったら上半身吹き飛ぶな
:スレスレで避けるの癖になる
:普通に戦っても強いのずるい
王の攻撃の終わりを狙っていたカケルは、戦鎚をまるで手足のように扱い、凄まじい速さで体の近くまで引き寄せた王を見て、攻撃を諦める。そして一言、呟いた。
「っぱ、強くてダリいな」
:だるいとか言うな
:ゴブリンキングのソロ討伐は英雄の証明になるぞ
王と睨み合っているカケルが、そのコメントに反応した。
「俺は、英雄になんかなりたく無いんですよ」
王がカケルの言葉に反応するように、グォっと短く吠えて、前に踏み出してくる。同時にカケルの視界の中で、前に突き出された戦鎚のヘッドが凄まじい速さで巨大化していく。
キィーン。
カケルの脳内に耳鳴りが走る。カケルが博徒の賽で仕込んだ複数の確率操作を起動した。
カケルが確定させたのは、王が『無様に』転ぶ未来。起きるはずのない事象。そのカケルのふざけたイメージと現実の整合性をスキルが創り出した。
カケルの視界の端、王の足元の空間が歪み、ブレる。そのブレに魔素の青白い光が集まり、鮮やかな黄色の物質に変化した。
スキルの成功を確信するカケル。
王によって暴風の様な勢いで突き出された戦鎚を、カケルがステップして避ける。王はカケルのステップした先をしっかり視認していて、突き出した戦鎚を、強引に横薙ぎに変える為に、左足の位置を変えようと、足を踏み換える。
そして踏み換えた左足の下には、最初からそこにあったかのようにバナナの皮が落ちていた。
軽く扱っている様に見えてもかなりの重さのある戦鎚、その軌道を変える為に踏ん張ろうとする王の足が、鮮やかな黄色のバナナの皮を踏み抜く。
「英雄ってのは、暮らす人々やその財産を守る人だ」
カケルの言葉がボス部屋の空間に響く。
王の巨体が、その巨大な戦鎚が、ただの白兵戦であれば、有利に働くはずのその重量全てが仇となり、バナナが床と王の足の間で潤滑剤のような役割を果たす。
ずるり。
バナナを踏み抜き、足を滑らせた王が、体勢を立て直す為に、戦鎚から手を離し、床に左手を伸ばす。
その手を床に着いた瞬間に、王の身体の重さや王が手を着いた角度など、物理現象が一時的に否定された。
反発係数が物理限界を超えて書き換えられる。
床と王が異常な反発を見せる。トランポリンの様な柔らかい膜に、思いっきり踏み込んだ時の様な挙動で、音もなく王の身体を真上に跳ね上げたのだ。
真上に跳ね上がった王の身体は、天井に凄い勢いで激突したように見えるが、天井でも激突音はしない。代わりに天井の石材もまた、王の巨体を吸い込む様にグニュリと歪んで見える。
天井にも激突を拒否された王が、天井に跳ね上がった速度よりも、より早い速度で天井から射出される。射出された巨体は、またも床に接地すると、さらに速度を上げて天井へ跳ね上げられる。
もはや王は、カケルが床と天井の一部に持たせたトランポリンの様な弾性に翻弄されて高速で上下に往復するだけのオブジェと化した。
それをカケルが床に立って眺めている。
床と天井を高速で上下している王が、その現象に翻弄されながらも、側で眺めているカケルをすり潰すべく、空中で戦鎚を振り抜いた。
ブオォン。
戦鎚が空を切り、カケルの鼻先を通過して風を巻き起こした。
戦鎚が通過した空間にすかさず一歩踏み出したカケルは、まるで友人の背中を押してあげるかのような気楽さで、王の身体を突き飛ばす。
そのわずかな力が、物理法則の箍が外れた王には致命的な一押しとなった。
柔らかく反射するはずだった安全な天井にぶつかる軌道が決定的にそれる。王の身体が跳ね飛ばされるその先には、なんの変哲もない、硬く冷たい天井が待っている。
王は最後まで憎々しげにカケルの事を睨みつけていた。
肉が弾ける湿った音が、鼓膜を不快に震わせる。直後。
ズドオオオォォォォン!!
凄まじい轟音。硬い石造りの天井に王がめり込み、その天井には王の身体を中心に放射状にひび割れが走る。
王の身体が光の粒子へと変化していく。
「俺はその財産を賭けたい」
カケルの言葉が部屋に響くのと時を同じくして、王がドロップした魔石が、カランカランと音を立てて床に転がった。
:www
:何が起きたww
:物理法則無視したぞ、今w
:起きた事も、言ってる事も意味わかんねぇw
:お前が英雄ではない事はわかった
***
こんにち徘徊。
私は皆様の反応をリソースに変えて妄想を吐き出す、徘徊して笑う袋です。
この理不尽さに、『クスッとした』『スカッとした』『カケル最高(最低)』と、心を動かしてくれた方は、ぜひその気持ちを私へのリソースとして表現して頂けると、妄想が捗ります。
貴方の「3タップから5タップ」という代償のない行動が、私にとってはランキングという戦場を生き残るための、最大のリソースです。
ぜひ応援して頂いて、カケル君と一緒に、魔素が現実化したこの世界に賭けて下さると幸いです。
次の更新予定
確率操作のギャンブル中毒(ジャンキー)〜ダンジョン配信で物理法則をバグらせる〜 徘徊 @bida7313
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