第七話 ギャン中は拗らせを患っている

【幸運か必然か】ギャン中のスキルについて議論しよう


 1:名無しの冒険者

 身体能力強化は自白済み

 モンスターが転んだり、矢が逸れるのはスキルか否か、どんなスキルなのかを議論しよう


 2:名無しの冒険者

 スキル。以上。

 このスレ終わり。解散。


 3:名無しの冒険者

 2

 どした?話聞こか?


 4:名無しの冒険者

 2

 ギャン中本人かと思う位冷たい

 と思ったけど本人はスキルなの認めてないんだよな


 5:名無しの冒険者

 絶対スキルでしょ

 矢が逸れるだけならまだ許すよ

 いや、やっぱり許せない


 6:名無しの冒険者

 許せねぇよなぁ

 ここで皆で正解を見つけ出してコメントでギャン中にぶつけようぜ


 7:名無しの冒険者

 スレ主から仮説を述べていこう


 8:名無しの冒険者

 7

 お、おう

 スキルは経験を昇華したもの、これはもうデータで出てる

 ギャン中って名前とかダンジョンの雑談で見る限り、本人がとてつもなくギャンブルやってることは間違いない

 ギャンブルに関連するスキルだろうな


 9:名無しの冒険者

 8

 お、おう、どころじゃない文量

 ドヤ顔で語ってる割に誰でも思いつく内容

 何も出ていない結論

 スリーアウトだ。お前出禁な


 10:名無しの冒険者

 9

 語ってる内容には同意だが、荒れてんな。本当にどうした

 話聞くぞ


 11:名無しの冒険者

 おい、今の見たか


 12:名無しの冒険者

 あれ当たってたらギャン中タヒんでたな


 13:名無しの冒険者

 11

 12

 出かけちゃって見れないんだけど何があったの?


 14:名無しの冒険者

 13

 ゴブリンの団体、素手と剣持ちに連携されて弓持ちの処理に手こずるギャン中

 完全に隙を突いて横から襲いかかる剣持ち

 ギャン中に剣を振り下ろすが、直前で何故か剣が持ち手から折れる


 15:名無しの冒険者

 14

 いやいやいやいや笑えないでしょ

 どんなスキルな訳


 16:名無しの冒険者

 10

 14

 妬ましい恨めしい羨ましいもどかしい憎たらしい狂おしい


 17:名無しの冒険者

 16

 やばくて草

 そんな言うならどんなスキルだと思ってるわけ?


 18:名無しの冒険者

 17

 起こした事

 確実に当たるはずだった矢に小石がぶつかって逸れる

 スキル発動したゴブリンナイトが足を滑らせて転ぶ

 切りつけられる寸前でモンスターの剣が折れる


 何この守護られてる感。神の愛みたいなのすらあり得るよコレ


 19:名無しの冒険者

 てかさっきの戦いとか見直してたんだけど

 外れたと思ってたこれ

 『画像』

 ギャン中からは絶対に見えてないはずの矢の攻撃を

 『画像』

 避けてるよね、これ


 20:名無しの冒険者

 スキル二つ持ってる可能性ない?

 一つのスキルで起こしてる現象じゃないとか


 21:名無しの冒険者

 ステータス実装はよ

 

 ★


 :無傷?無傷だよね?

 :やば

 :昔『ジャージだから良い』今『頼むから防具着てくれ』

 :二十五階層も無傷で突破。これ本当に踏破しちゃうんじゃない

 :今、見えてないはずの攻撃避けなかった?

 :その前に剣が折れた話だろ

 :昔も今も今日で草

 :どこまで行く気なの


 盛り上がるコメント欄をよそに、カケルはふうと息を吐いてリュックの中から水を取り出した。


 やっと二十五階層を終えた所で、今はまだなんとか無傷で来れている。だがもう安全マージンはこれっぽちもない事を薄々感じていた。この階層になってくると、練度はさておき、身体強化は当たり前。その上で重武装したタンクが攻撃を受け止め、アタッカーが処理する。


 今更言う事でもないが、カケルは一人だし、装備は鉄パイプとジャージだ。


 こんなにスレスレで命を削っているのに、視聴者数は四万人で頭打ちが続いている。これは確かに、バズではある。だがこの程度のバズではすぐに二発目を狙わなくてはいけないだろう。二発目を狙う、それでは意味がないのだ。カケルの目的を達するには、ダラダラと雑談配信をして生きていける程度には、大バズりしないといけなかった。


 普通は無理なバズり方である。だからカケルは命を賭けた。今、ここまで来て、自分の命ではそこまで届かないのではないか、と言う不安がカケルを襲っていた。


 そんな不安を抱いてしまう自分の甘さにも苛立っていた。どう生きるか、なんて高尚な事を言うつもりはカケルには毛頭ない。だが、自分で賭ける、と口にした命を、ここに来て惜しみ始めている自分に気づいた。


 死にたくない、そう思わざるを得ないほど、二十階層以降のモンスターはカケルの精神を削ってきた。


 :さっきから無言だし、顔が険しいな

 :スキル使いまくって疲れてるんじゃないんですか

 :さっきの戦いも随分ラッキーでしたねw


 そんな自分の甘さに、カケルは舌打ちが止められなかった。愚痴ならいくらでも吐けた。そもそも投げ銭ないから頑張れない、とか。パイプの方が馴染みが良い為、ここまで使い続けて来てしまった、とか。


 拾ってすぐにボスの剣を使っておくべきだった、とカケルは今になって後悔していた。


 働かなくてもいい位バズる事に賭けた、自分の命。安全マージンを完全にとっぱらった所で、視聴者四万人程度の命。直接的に死に向かって歩いている現在、自身の中に新しく生まれた価値観に自分で驚いていた。


 カケルが使い古した愛着のある鉄パイプを地面に投げ捨て、リュックからボスの剣を取り出す。


 ゴブリン達のドロップで溢れるその場で地面に座り込んで、リュックからテーピングを取り出す。無言のまま、新しい相棒の持ち手に巻き始めた。


 これが馴染むまでの時間で死んだら、四万人の命だったと自分に認めることになる。そんな事は嫌だった。そんなの嫌だ、と強く言える自分が、カケルにとっては自分でも意外だった。

 

 なぁなぁの妥協で、どれだけ自分のその命の価値を下げてきたのか、カケルは意図せず自分に突きつけていた。それに気付いた時には、視聴者に取り繕うことも出来ず、舌打ちを続けていた。


 ボスの剣の持ち手にテーピングを巻きながら、ボトルを手にして、水を口に含む。スライムゼリーの保温効果で、今でもキンキンに冷たいままの水が、カケルの喉を通り抜け、腑に染み渡るようだった。


 :明らかに余裕なくなってきたな

 :もう帰ろうぜ

 :防具つけてきたらお前なら踏破できるよ


「まだ行けますよ」


 カケルはギャンブルの怖さを知らない視聴者を騙すように、そして自分に言い聞かせるかのように、その言葉を口にした。


 まだ行ける、そんな言葉は、ないんだよ。


 これはカケルが長年のギャンブルで学んできた一つの哲学だった。まだ行けると思った時には、最低でも胸まで浸かってると思え、と言うことである。


 :一発くらったら引き返そう

 :まだ無傷だしな


 自分事ではないコメント欄の気楽さに、カケルも思わず笑った。カケルは、自分の事だからわかっていた。安全マージンを全て取っ払ったここはすでに死地で、一撃でもまともに貰えば、それは即死か、いずれ死に向かう事を。


 ただそれでよかったのだ。これこそが、安全な地上でぬくぬくと考えたカケルの望んだものだったはずだった。


 自らの細胞のひとかけらに至る全てを賭け事のテーブルの上に放り投げて、労働を拒否してダンジョンへと逃げ込む。深層で相棒のスキルと一緒に情けなく逃げ回る姿でも配信できれば、それだけでバズるんじゃないかなんて、甘い考えをしていた。


 ここに立つ前に密かに決めていた事が、カケルにはあった。


 道なかばで死ぬか、踏破するか。


 途中で降りると言う選択肢は、今回自分から排除していた。理由は特になかった。当然そうするべきだと思った。


 ははっと、乾いた笑いが、カケルの胸元に込み上げる。


「死にたくねぇなぁ」

 

 :死ぬなよ

 :じゃあ帰れ


 そう呟けば、カケルの心は軽くなった。それに反応してコメント欄が至極当然なモノで埋まった。

 

「何言ってんすか。心の弱い俺にとっては、今やっと賭け事ギャンブルが始まった所なんですよ」


 :ん?

 :ずっとギャンブル見させ続けられてる

 :続けて

 :嫌なら見るな定期


「死に行く者には皆さん、優しいですね。俺は最初から命が賭け金だと、言ってきました。でも心の弱い俺には覚悟が足りなかったみたいです」


 カケルの心が、死を想像してゾクゾクと震える。


 :嫌な予感

 :帰らない宣言じゃねぇか


「なんて言うか、うまく言えないんですけど、生きる為に死に行く、みたいな今の、無為な感じ、最高に賭け事ギャンブルしてるなぁって思えるんですよねぇ」


 死という、甘い快楽に似た恐怖で、ゾクゾクと震えたカケル。震えを寒さだと誤認した脳味噌が、カケルの手を無意識のうちにジャージのポケットに忍ばせた。そのポケットの先には、家を出る時に、これまた無意識のうちにお守りがわりに入れておいた三つのダイスが入っている。その時、その三つともが、カケルの手に触れた。


 その瞬間、カケルがサイコロを振り続けてきた膨大な経験と、ダンジョンの中で確率操作を使い続けた経験が、ダンジョン内の濃密な魔素を吸って覚醒した。


 刹那、新しいスキルの使い方や効果がカケルの頭の中を駆け巡る。


 :何かに気付いた顔してるぞ

 :マヌケ面、スクショタイム


「そろそろドキュメンタリになるだろうなって思ってたけど」


 :頭からずっとファンタジーな件

 :全部ギャン中の匙加減次第じゃん


 自分の脳内の感覚が信じられなくて、そう口に出してみるカケル。唇が乾いているのを感じる。今、自分の脳内で、信じられないことが起きた事を理解した。手に当たった三つのサイコロを握りしめる。


 そこでカケルは、自分の発言の続きが待たれている事を感じた。スキルが、進化した。これを視聴者には言えない。だが生き残る為にも、そしてバズのためにも。手中のサイコロをゴリゴリと擦りながら、真っ直ぐにカメラを見返した。


「皆さんには、もう少しコメディショーをお届けできそうです」


 :うざ

 :きもww

 :あいたたた




 

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