第六話 ギャン中は二十階層のボスを蹂躙する
【ギャンチュウ】ジャージと鉄パイプで中野中型ダンジョン中層で配信している冒険者がいる件
912:名無しの冒険者
次スレのスレタイは下層にしてどーぞ
913:名無しの冒険者
下層までは流石に行かないんじゃない
914:名無しの冒険者
ギャン中、本人より先に乱数調整スクワットが万バズw
戦闘の切り抜きも結構凄いの多いのにw
915:名無しの冒険者
宝箱の中身がうさぎのフンなのもポイント高い
916:名無しの冒険者
915
爆笑
配信者としては満点だろ
917:名無しの冒険者
「これは……流石にフンは無いよね。ほら、仙豆とか、貴重な丸薬的な……有識者!有識者の人ぉ」
「……うさぎの、うんちですね」
腹抱えて笑った
918:名無しの冒険者
916
なお本人は本当に不満で一言も喋らずに中層を蹂躙している模様
919:名無しの冒険者
913
踏破って言ってるのに引き返したらダサいだろ
920:名無しの冒険者
919
それ、ギャン中にタヒねって言ってるのと同じだからな
★
:乱数調整スクワットから来ました
:もう二十階層?はや
:視聴者鰻登りだ
乱数調整までしたのに、文字通りクソを引き当てて不機嫌になっていたカケルは、そのコメントを見て、ふと視聴者数を確認した。
「ん?一、十、百、せ……」
カケルは視聴者数を確認しながら、ゴブリンエリートの攻撃を軽やかにステップして避ける。
:桁の確認してやがるw
:本当にジャージなの
:しかもこいつスレスレで避けるよな
:スリルが癖になる
「いちまんにんっ!」
そう叫びながら、ゴブリンエリートの脚に鉄パイプを叩きつけたカケルは、流れるような動作で崩れ落ちたゴブリンを光の粒子に変えた。髪を整え、ジャージの埃を落とし、右手で妄想のパチンコのハンドルを握ると、叫んだ。
「ギャン中!」
:うるせぇw
:でた
:何回やんねん
:目がイってるのよ
:こわいこわいこわい
:ダンジョンでは静かにしろってあれほど
:視聴者減ってるぞw
「こんなに沢山の方に見てもらってるのは初めてですねぇ。中野ダンジョン二十階層からこんにちわ。どうも、ギャン中です」
まだ一万人。カケルの想像するバズには届いていない。だが、一万人。肩を並べたとは思っていないが、幼馴染の「ナナミ」の視聴者数と比べても見劣りしない人数になってきたのが、嬉しかった。
:え、二十階層?ジャージでゴブリンナイトに勝てるわけ?
:ヨォ新入り、ギャン中は初めてか
:多分勝てるぞ
:大半は初めてな件
:ヨォ新入り、ギャン中は初めてか
コメント欄ではこの配信の前から登録していた三十人の内一人らしき、古参様のマウントが始まっている。本当に古参だと思うと嬉しかったので、カケルはその程度は見逃すことにした。
歩き続けていた足を止めると、目の前には大きな盾のレリーフが施された扉。この奥にはコメント欄にもあった重装備のゴブリンが待っているはずだった。
カケルがゴブリンナイトに挑むのは二度目だ。前回は普通に防具を着ていた。壁際にスマホを置いていい感じの角度で俯瞰で配信出来ていると思ったら、衝撃でスマホが倒れて床しか写っていなかったことを思い出す。
:ドキドキする
:こいつでかいんだよな
:かっこよくて強いから好きなゴブリン
:好きなゴブリンとかあんのか
コメント欄では総じて心配や不安の声が多いように見えたが、カケルは鼻歌を歌っていた。自分のスキルを深く理解しているカケルは、タイマンならどんな相手でも倒せるという自信があった。それほどに確率操作と勝負師の勘のコンボは強いからだ。
カケルがボス部屋の扉に手を当て、ゆっくりと押し開ける。
広く平らな何もない部屋の真ん中に、今まで遭遇してきた奴らよりも一際デカい体格のゴブリンが青白い金属鎧を着て立っていた。
獰猛な笑顔でカケルを見たゴブリンナイトは、左手でフェイスガードを下げると、右手で腰の直剣を引き抜き天に掲げた。
「いちいち仕草が大仰なのよね」
ポツリとカケルが呟くと、コメントが荒れる。
:だからいいんだろ
:ナイトさんの悪口はやめろ
:急なお姉口調は減点一
カケルがリュックを置き、鉄パイプを握りしめると、ゴブリンナイトが咆哮した。ビリビリと空気が震える。その圧力など感じていないかのように、肩にパイプを乗せて、軽やかな足取りで距離を詰めていくカケル。
:足取りでわかる。こいつはダンジョン舐めてる
:ひぇぇ、軽装すぎて怖い
:頼むから防具つけて欲しい
:ナイトはでかいけど早いからな
ゴブリンナイトが金属鎧の防御力を全面に出して、大上段に直剣を振り上げる。隙だらけの胴体ではあるが、装甲はかなり分厚く作られているのが見るだけでわかる。カケルの目の前、数ミリの所をゴブリンナイトが振り下ろした直剣の切先が通り過ぎた。
そのままゴブリンナイトが左足を前に踏み出す。それを見たカケルがゴブリンナイトが繰り出すであろう追撃に備えて、重心を後ろに移した瞬間。
首元にピリッと感覚が走る。視界のゴブリンナイトの直剣がぼんやりと青白く光っている。何らかのスキルによる攻撃がくる前兆だった。
だがそれは危険信号ではない。カケルにとっては大当たりの確定演出だった。
「くそがぁー!」
カケルが叫ぶ。叫びながら、明確に一つの未来をイメージしていた。あいつの顔面、俺がフルスイングでぶっ飛ばす、と。
確率操作を発動する。
瞬間、世界の処理がガタついていく。
ゴブリンナイトの剣には青白い光が渦を巻くように集まり出していた。踏み出した左足を起点に、全身が捻転運動へ入り、今にも強烈な攻撃を放ちそうだ。
しかしカケルは焦らない。相手のスキルの『確定』された演算をカケルのスキルが上書きしている事を理解していた。
世界の演算が、強引な修正パッチを実装した。
その瞬間、ゴブリンナイトの輪郭が震え、ブレた。次の瞬間、ゴブリンナイトは踏み出した左足を、何もない平な床でずるりと滑らせる。
「うさぎのフンだなんてぇぇぇぇぇ」
カケルがゴブリンナイトには何も関係のない怒りを口にしながら、往年の大スター、世界のホームラン王のように足を高く上げて、鉄パイプを構える。
左足を滑らせたゴブリンナイトが、驚愕に体を硬直させていた。その体は回転するように体勢を崩し、初撃の鋭い踏み込みと比べれば随分ゆっくりと、地面に倒れ込んでいく。
カケルはゴブリンナイトの顔面をまっすぐに見据えていた。フェイスガード越しにゴブリンナイトと目が合っている気がした。
「糞食らえぇぇぇぇぇぇぇ」
カケルが高く上げた足を、ゴブリンナイトの方向へ体重移動しながら自然と下ろしていく。足が地面に着き、そこから膝、腰、肩とカケルの全身が捻転して、蓄えていた運動エネルギーを放出した。
カケルが全開で下からアッパーに振り抜いた鉄パイプは、正確にゴブリンナイトの顔面を捉えて、それから一瞬だけ遅れてヒュンとガシャンとパァンが混ざったような音を鳴らした。
振り抜いた後、カケルは鉄パイプを右手で支えにしながら、左手をおでこに当て、ゴブリンナイトが飛んだ先を眺めていた。
ゴブリンナイトは頭部が外周に来るように回転しながら空中を飛んでいく最中に、光の粒子になり消えていった。
カラン、カシャン。と魔石と他に何か、空中に出現したドロップが落ちた音が部屋に響いた。
「スッキリした。ゴブリンナイトの飛距離としては世界一だった可能性、あるかな」
そんな言葉を気安く口にしたカケルに、コメント欄は発狂していた。
:草
:ふざけんな
:ゴブリンナイトさん……
:モンスターって転ぶの?
:何も発動してない時ならまだしも、スキル発動時は絶対ない
:まぁ転ぶこともあるんだよな?な?
:ギャン中お前何した
カケルはゴブリンナイトのドロップ品を拾いに歩きながら、ヘラヘラと喋り出した。
「いやぁ、足を滑らせるなんてラッキーでしたねぇ」
:白々しい
:スキルだとしたらどんだけ強いスキルだよ
:スキル以外に何があるっていうんだ
:いやどんなスキルならこんなことが起きるんだよ
:合成動画再生
:実在!実在!ギャンチュウ実在!
「お、ドロップは魔石と剣でした」
今までで一番大きな魔石はゴブリンナイトが強敵だった事の証である。そんな奴が剣をドロップしたのはカケルの心にヒットした。剣が強いとか、それも確かにあるが何より、ダンジョン産の武器は高く売れるのだ。二十階層のボスの剣ともなれば、一振りで四百万円は硬いだろう。
カケルが拾い上げて抜き放ちカメラに見せた直剣は、ゴブリンナイトが使っていたものによく似たシンプルなものだった。一見して上等な物だとわかるそれを鞘におさめ、リュックの隙間に突っ込んだ。
:スキルに関しては吐かないな
:当たり前っちゃ当たり前なんだけど
:納得できないスキル
:強化の他に二つスキル持ってる説
「やだなぁ。スキルなんか使っていませんよ。昨日八百万も溶かしたんですから、これ位いい事がないとやってられません」
:ボスのレアドロが話題にならない配信
:そういえば
:てか運良すぎないか?
:矢もそれてたしな
:それもスキルか?
:ゴブリンナイトの剣とかいくら
:六百万くらいだろうか
「へぇこれ、そんなにするんですね」
ゴブリンナイトの魔石をリュックに入れるために、水を飲み干していたカケルが、コメントに反応する。
:お前スキルの事には露骨に反応しないな
:今回はお疲れ。収穫だったな
:帰れよ。それ売って次はちゃんと装備整えて戻ってこい
くだらない事を言いだすコメント欄にカケルが思わず反応する。
「えぇ?収穫なんてないじゃないですか。帰りませんよ。踏破するんですから」
:六百万は収穫ゼロ
:ダンジョンでは人格破綻者が強いって
:本当に死ぬぞ
:頼むから帰れよ
:いけいけ
言われなくても行くとも。頷いたカケルが確認すると、視聴者は三万人に届きそうな勢いだ。
「さぁ、ここから先は、ほぼ初探索の階層になります。俺が危なくなりそうだったら、苦手な方や、辛くなってしまう方は迷わず配信切ってくださいね。応援しようなんて思わないように」
***
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