第四話 ギャン中は浮かれて初心者でもハマらないような罠にハマる

 【ギャンチュウ】ジャージと鉄パイプで中野中型ダンジョン中層で配信している冒険者がいる件


 1:名無しの冒険者

 八百万を馬で溶かしたヤケクソで踏破を目指してるらしい。


 『リンク先』


 2:名無しの冒険者

 釣り乙


 3:名無しの冒険者

 2

 いやちょっと見てみてくれ。ゴブリン七匹を数秒で蹂躙してんだそいつ。

 今も中層でゴーレム殴り倒してる。

 速さが尋常じゃない。てか鉄パイプ頑丈すぎないか?


 4:名無しの冒険者

 命賭けるとか、軽い奴は好かん


 5:名無しの冒険者

 概要欄に「※視聴注意※ 踏破目指すけど、我恐らく死ぞ」とか書いてあるの覚悟決まりすぎだろ


 スプラッタは見たくないからバックしてきた


 6:名無しの冒険者

 喋り方もなんか胡散臭い

 見てる限りでは深層は無理だろうな


 7:名無しの冒険者

 そのうち逃げ帰りそう


 8:名無しの冒険者

 お前ら落ち着け、まず俺にゴーレムを殴って鉄パイプが曲がらない原理を教えてくれ


 9:名無しの冒険者

 多分、物体強化。

 身体能力強化の一種らしい

 ユウキがこの前配信で言ってた


 10:名無しの冒険者

 9

 英雄の呼び捨てはNG


 ★


「あっ宝箱だ」


 普段のカケルなら、そこまで迂闊に近づくことはしなかったはずだった。滅多に見つけられないダンジョンの宝箱には、頻繁に罠が仕掛けられている。これは初心冒険者でも知っている、命に関わる事実に基づいたデータの話だった。


ホブゴブリンを倒した後も増え続ける視聴者の数に、カケルは完全に舞い上がっていた。彼は配信者でも滅多に言わない自らのスキルについて、具体的には、身体能力強化のスキルを持っている事を視聴者に話しながら、快調にダンジョンを進んでいた。


 カケルのスキルの自白も手伝ってか、視聴者は千人ほどにまで増えていた。こんなに大人数に配信を見てもらう事は、もちろん初めてだった。


 そんな中、十九階層で滅多に見つけられない宝箱を見つけてしまった。ギャンブルの神が『バズれ』と言っているように感じた。カケルの心は宇宙までぶっ飛べそうな程舞い上がって、体は視線の先、部屋の中央に鎮座した宝箱に向かって突進していた。視聴者の『危ない』というコメントには気付かずに。


「あっ」


 宝箱の置かれた部屋に足を踏み入れた途端、カケルの足元で魔法陣が光る。思わず後ろを振り返れば、いつの間にか通路と部屋の境界には隙間一つなく壁が出来上がっていた。


 足元で小さな円を描いていた魔法陣の光が、一瞬でより大きな円に伝わり、そこから更に部屋の床中に広がる大きな円へと光が伝播して、内部に幻想的な光の模様を描き出す。


 瞬く間に部屋中が魔素の青白い光で包まれた。


 外から見ていたより大きく感じる部屋の中、カケルは光に構わず壁際に駆け寄った。その破綻気味な人格が故に、二十三歳にしてダンジョンでの経験だけは豊富なカケルは、この後何が起きるかを正確に予想していた。


 魔法陣から溢れ出る青白い魔素の光の行方を注視するカケル。次の瞬間、歯噛みすることになる。


 カケルの手が届きそうな程近くで魔素の光が集まり、ゴブリンエリートが受肉した。それだけではなく、部屋中にウジャウジャと上位ゴブリン共が受肉しているのが見える。総数で十二、三体だろうか。遠距離攻撃をしそうな杖持ちと弓持ちまで一体ずつ見える。


 :これやばくね?

 :初見。この状況マジ?

 :安心しろ。このチャンネルに古参などいない

 :やばいやばい

 :心が耐えきれない後で結果だけ見に来る


「宝箱に目が眩んだだけにしては代償デカくない?」


 そんなカケルの半ば愚痴に近い疑問を無視して、受肉した途端に襲いかかって来るゴブリンエリート。その手が届く前に、カケルがそれに向かって鉄パイプを振り抜いた。


 ありったけの力を込めて振り抜いた鉄パイプは、ゴブリンエリートを別のゴブリンエリートに目掛けて吹き飛ばした。


 衝突したそれらは二体まとめてゴロゴロと転がり、最初に殴られたゴブリンは光となって粒子へ消えていった。


 ギチギチと木が軋む音がカケルの耳に届いていた。弓を引き絞る音だろう。音の方向へカケルが目を向けると、ビュッと言う音と共に、弓持ちがこちらへ矢を射かけて来たのが見えた。


 カケルは弓持ちが放った矢を鉄パイプで振り払い、その勢いで、カケルにまとわりつこうとして襲いかかるゴブリンの顎を、回し蹴りのように蹴り飛ばす。


 ごきりという足応えをカケルに残したそれは、一撃で蹴られたゴブリンを光の粒子へと還した。


 カケルは、その場に止る事なく周囲に出来つつあった、ゴブリンによる包囲網を駆け抜けた。


 駆け抜けた先にいる、最初に吹き飛ばした奴に巻き込まれて転んでいるゴブリン。カケルはスピードを落とす事なくそれに駆け寄り、ゴルフスィングで鉄パイプをくれてやる。転んでいるゴブリンはなす術もなく光の粒子へと還っていった。


 :強い

 :こんなギャンカスにすら勝てないのか俺は

 :ダンジョンでは人格破綻者が強いって、それ一番言われてるから


 絶体絶命に見える場面をカケルが少し盛り返したように見える為、コメント欄ではやや安堵した雰囲気が広がっている。しかしカケルは、ゴブリンの一団を目の前にして、現状があまり良くなってはいない事を感じていた。


 ゴブリンに囲まれそうだった先程よりは、一団を一方向から相手に出来る今の立ち位置の方が良いだろう。


 しかし、倒れ込んでいてノーリスクで数を減らせる方を優先した事で、弓持ちと杖持ちからは距離を取ることになってしまった。


 配信に乗らないようにカケルは舌打ちした。スキルを使う事になりそうだと、覚悟を決めた。


 



 一般的に世の中に知られているスキルとは、カケルの使う身体能力強化や、確率操作のように、本人が使うと決めると効果が発動するタイプのものだ。


 インターネットで『スキルとは』と検索すれば、大規模言語学習モデルの人工知能がインターネットの海からスキルについての言葉を抽出して、そのように結論づけてくれる。


 しかしカケルには、一つの確信があった。スキルとはそのような物だけではない、と。


 ステータスカードなんて便利な物は存在しないこの世界では、他人の取得スキルを本人の申告以外で知る術が無い。鑑定スキルがあるという話も、少なくともカケルは聞かない。


 ただし、本人にはわかるのだ。俺は身体能力強化を使えるようになったんだな、と感じる。使い方も何となくわかる。


 だからカケルも『確率操作』のスキルを取得した時は、喜びに打ち震えた。物事が起きる確率を操作出来るなんて、絶対にすごいスキルだと思った。確率操作を日常的に使い始めて、カケルは徐々にそのスキルに対して、こんなものか、という感覚を覚えていた。


 確かに強い。じゃんけんの前に使えば負けない。だが使い所が難しかった。その上、確率操作は強力な効果故に消耗が激しいのか、短い時間で連発出来るようなスキルではなかった。


 だがそれも、あるスキルを取得した事で解決した。


 確率操作の使い所を教えてくれるそのスキルが無ければ、カケルも中型ダンジョンを踏破する、などとは言い出さなかっただろう。そのスキルを持っているからこそ、踏破するという無茶が賭けるに値する現実的な――それでも無謀ではあるが――目標となった。

 

 そのスキルは取得して以来、常に発動し続けている、とカケルに感じさせていた。


『勝負師の勘』。


 賭場でピリッと来る、勝負所がわかるようなあの感覚の源。


 それを取得して以降、殊勝負事においてカケルの直感は冴え渡った。それはカケルが、互いに命を賭けたモンスター・ダンジョン対自分のギャンブルである、と認知しているダンジョン内でも同じだった。



 

 :三体やった

 :まだウジャウジャいる

 :九対一の睨み合い

 :ギャン中、止まったの良くなかっただろ。

 :団体に正面から挑まなきゃいけないのヤバい


 流石にメガネに流れてくるコメントに反応する余裕はなかった。カケルが壁際、ゴブリン達から円を描くように横にスライドしていく。ゴブリン達はカケルから目を逸らさずに、徐々に前に出て、距離を詰めてきている様子だった。


 カケルは経験上、モンスターハウストラップによって生まれたモンスターが連携を狙って来る事を知っていた。相手から動くとしたら、最初は遠距離攻撃から来るんじゃないか、そんな気がしていた。


 目の前のゴブリン共がピクリと動いた気がする。小さな違和感を拾ったカケルの無意識が『勝負師の勘』を発動させ、カケルの首元にピリッとした感触を送り込む。その感覚を信じてカケルは真横に飛んだ、その刹那。


 ゴブリンの一団の一番奥に隠れていた杖持ちのゴブリンメイジが顔を出して、カケルに向かって『火炎槍ファイア・ランス』をぶっ放した。


 それと同時にカケルが飛んだ先に向かって駆け出してくる、遠距離攻撃の手段をもたないゴブリンども。


 自らが立っていた場所を舐めるように攫っていった猛火を見たカケルは、直撃すれば生きてはいられないだろう、と理解した。思わず口角が上がってしまうのを自覚した。ギャンブルらしくなってきたじゃないの。カケルは笑みを抑えきれなかった。


 横っとびから、即座に体勢を立て直す。カケルはそのまま身体能力強化を最大開放すると、徒党を組んで突っ込んでくるゴブリン達の一団へ、駆け出した。


 


 

 

 


 

 

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